第22話「国境を越える遠拍、迎えの行方」
星の試練の翌朝、王都の空気は澄んでいた。
広場に残された三色の灯籠――赤は過去、白は現在、青は未来。人々はそれぞれの火を見上げ、昨夜の祈りを思い返していた。
だが静けさは長くは続かなかった。王城に駆け込んだ伝令が声を張り上げる。
「東境から祈りが届いています! ……王都の祈りではなく、隣国の祠から!」
評議室。
イリスが記録札を確認し、目を見開いた。
「確かに“遠拍”が国境を越えて届いています。赤・白・青、すべて混ざって……。噂や願いではなく、“祈り”そのものが押し寄せている」
セレスティアは深紅の瞳を鋭く光らせた。
「つまり、星の遠拍は一国に留まらない。……王都が“迎えの拍”を置いたことで、他国の祈りまでも引き寄せているのね」
レイナは腕を組み、吐き捨てる。
「余計なことを……。私たちの輪が揺らぐ」
カイルは太鼓を抱え、低く呟く。
「でも、境を越えて祈りが届くなら、迎えるしかない。叩かずに背ければ、俺たち自身が嘘になる」
ミュナは揺枝を抱きしめ、困った顔。
「芽吹きは国を選ばない……でも、土や水が違えば、芽は枯れるかも……」
胸の刻印が強く脈打った。
「迎える拍は街のものじゃない。輪を越えて……国境の外に置くべきだ」
翌日。
俺たちは東境の砦に立っていた。
灰色の石壁を越えて見えるのは、隣国の草原。そこに点々と灯が揺れていた。人々が火を掲げ、こちらに向かって祈っている。
だが声は届かない。届く前に時差に呑まれ、半拍遅れ、あるいは未来から先に押し寄せる。
「“迎え札”を国境に置く」
セレスティアが布告した。
巫女たちが砦の上に札を並べ、イリスが記録を刻む。
「祈りが届いた時、その名と拍を記録。……届く前でも、札に触れれば迎えが用意される」
だが問題はすぐに起こった。
隣国から届いた祈りと、王都の祈りが“同じ名”を呼んだのだ。
「ルカ」という少年の名。
王都では病に伏す子を呼び、隣国では兵士を呼んでいた。
同じ名、異なる人。祈りは重なり、迎えの拍が揺れた。
「……どうする?」
レイナが剣を握り、眉を寄せる。
イリスが冷静に答える。
「迎えは“名”ではなく、“所在”に置くべきです。同名が複数あっても、拍の“座標”で分けられるはず」
カイルが太鼓を叩き、地図を指で叩く。
「“王都のルカ”は西の太鼓、“隣国のルカ”は東の太鼓。拍を分ければ迷わない」
ミュナが揺枝を振り、芽吹きの光を二つに分ける。
「芽は違う土でも育つ。……なら、光も分けていい」
俺は王鈴を掲げ、声を張った。
「《迎えは二つに 座標を指す》!」
鈴が鳴り、祈りは分かれた。
王都のルカは白い輪に迎えられ、隣国のルカは青い輪に迎えられる。
祈りは衝突せず、それぞれの未来へと繋がった。
アストレイアの声が夜空から響いた。
『国境を越えたか。……迎えを分けるのは難しい。やがて“数”が増える。百、千、万。迎えは持つか?』
「持たせる」
俺は答えた。
「迎えは“輪”で分ける。街の輪、国の輪、大陸の輪。迎えの札を繋ぎ、祈りの道を作る。……それが俺たちの“迎え路”だ」
セレスティアが頷き、布告を告げた。
「王都は“迎え路”を敷設する。国境を越える祈りを受け、札と輪で結ぶ。……それが星の試練への答え」
砦に集まった人々が拍を合わせ、息を吐いた。
遠い未来の祈りも、過去の声も、いまの叫びも――迎えるために。
その夜、胸の刻印が震えた。
ルミナの声が淡く響く。
『よく置いた。迎え路は遠拍を結ぶ。……だが次に来るのは、第九天。“月”。光を借り、影を育てる存在。』
俺は夜空を見上げた。
星々の間に浮かぶ月が、静かにこちらを見下ろしていた。
――――
次回:第23話「月影の拍、影に宿る歌」
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