ファッションショー始めちゃいますか!
中華料理レストランで食事を終えた俺たちは次にどこに行くかを決めていた。
「鎌っち、何かやりたいことないの?」
「俺、ショッピングモールとか行ったことないから、何したらいいかわからなくて」
「そっかー……じゃあ、服を見に行こうよ」
朝野さんはそう言うと洋服店がある3階に向かって歩き出した。俺と五十嵐さんはその後ろを静かに着いていった。
「ここだよ」
3人がやってきた洋服店は子供から大人まで数多くの洋服を取り揃えていた。
「さっそくファッションショー始めちゃいますか!」
「ファッションショー?」
「服屋といえばファッションショーでしょ」
朝野さんはそう言うと数ある服の中から選んで持ってきた。
「2人ともこれ着て」
「私も……」
「もちろん。ファッションショーは相手がいた方が面白いでしょ」
そう言うと朝野さんは俺と五十嵐さんをそれぞれ試着室に押し込んだ。
俺は着替え終わると試着室から出た。朝野さんは目の前で待っていて、俺を見てニヤニヤしていた。
「鎌っち、似合ってるよ」
「俺で遊ぼうとしましたよね」
朝野さんが俺に着せた服は「Iam a child of Apples and oranges」と書いてあるパーカーだった。あまりファッションに詳しくない俺でもわかる・・・・めちゃくちゃダサいということが。
「いやいや、あははは、似合ってるよ」
「じゃあなんで笑ってるんですか?」
「あははは、それはちょっと面白くて」
「やっぱり笑ってるじゃないですか」
朝野さんが俺の服を笑っていると横から試着し終えた五十嵐さんが出てきた。
「あの……終わりました……」
「すみっちー、めっちゃ可愛いんだけどーー」
「ほんとですか……?」
「ほんとに!めちゃくちゃ可愛いよ。なんか守ってあげたい」
「よかった……。私こんな可愛い服着たことないから……」
朝野さんが五十嵐さんに着せた服は大きめのブラウンニットである。元々身長もあまり高くなく、子犬のような目が特徴的な彼女は少し大きい服を着ていたのでさらに幼く見え、誰であれ守りたいと思ってしまうようなオーラが漂っていた。
「やっぱり私の目に狂いはなかったようだね。すみっちにはこれが似合うと思ったんだよね。ね?鎌っちー」
「五十嵐さん、にあっ……」
「ふふふ」
俺が似合ってると言おうとしたとき五十嵐さんは俺のことを見て笑った。俺は五十嵐さんが笑ってるところを初めて見た。
「ごめんなさい……ちょっと面白くて……」
「五十嵐さんも笑ってますよね?」
「ふふふ……そんなことないですよ……」
「ほら〜。似合ってるって。もっと持ってくるね。」
朝野さんはニヤニヤと笑いながら他の服を選びに行った。
「鎌ヶ谷君……ありがとうございます……」
「なんでですか?」
「私、こんな性格だから……男の子と話すの苦手で、だけど私の服を見て似合ってるって……言おうとしてくれましたよね……」
「まぁ……はい」
「ありがとうございます」
普段隠れている五十嵐さんの目が前髪の隙間から見えた。その目は少し輝いていた。その目を見た俺はよくわからないがこの一瞬だけ何故か五十嵐さんの心と繋がれた気がした。
少しすると服を選び終わったのか朝野さんが戻ってきた。
「今度こそ、真面目に考えたから」
「やっぱり……さっきのはわざとですね?」
「ちょっとからかっただけだよ」
朝野さんは俺に新しく持ってきた服を渡すとまた俺を試着室に押し込んだ。
朝野さんがくれたのは白いYシャツに黒いシャツだった。
俺は鏡を見た。自分で言うのもなんだが結構似合っている気がした。
試着室から出ると
「おぉー、似合ってるよ」
「似合ってます……」
「ありがとう……」
朝野さんと五十嵐さんは俺の服を褒めてくれた。俺は素直に褒められた経験がほとんどないので「似合ってる」の一言がすごく嬉しかった。だけどうまく言葉にできずそっけない言葉しか出てこなかった。
「じゃあ、最後にこの服でプリクラ撮って行かない?」
「でも……朝野さん制服ですよね?」
「私だけ制服なんてスポーツでいうエースみたいでかっこよくない?」
「……?」
「分かってないねー、鎌っちは」
俺は朝野さんの言っていることがあまり理解できなかった。友達上級者ってこういうことなのかと納得するしかなかった。だって俺友達初心者だし……。
俺たちは服を買った後、プリクラを撮るためにプリ機があるゲームセンターに向かった。
「それじゃあ撮るよ」
俺たちは朝野さんを真ん中にして右に俺、左に五十嵐さんでプリクラを撮った。
「こうやって加工してっと・・・・出来た!」
友達上級者の朝野さんはプリ機での加工なんてお手のものだった。俺はインターネットでしか見たことないのに……。
プリ機から印刷されたプリクラが出てくると朝野さんはそれを取って俺と五十嵐さんに渡すと笑顔で
「帰ろっか」
と言った。
ショッピングモールの外はもう暗くなっていた。そして春の夜風が気持ちよかった。
ショッピングモールを後にした俺たちは、最寄りの玉城山駅へ向かった。
玉城山駅に到着するとちょうど電車が来ていたので俺たちは、急いでそれに乗った。
少し電車が走ると五十嵐さんは疲れたのか朝野さんを膝枕にして寝てしまった。
「すみっち、疲れちゃったんだね」
「俺たちだいぶ朝野さんに連れ回されたから……」
「そんなことないと思うんだけどなー。それより、すみっちとは仲良くなれた?」
「少しだけだけど……」
「そっかー、よかった。」
「ずっと思ってたんだけどなんで俺なんかに気使ってくれるの?」
「なんで……か……それは鎌っちが面白いからかな・・・・あとは……」
朝野さんが何かを言いかけたとき電車が到着した。俺はその答えが気になったが、それ以上聞き出す勇気などあるわけがなかった。
「すみっち、すみっちてばー。着いたよ」
「ふぁー。どこ、ここ?」
「寝ぼけてないで、行くよ」
朝野さんは五十嵐さんを引っ張って電車のドアの前に立つと笑顔で
「鎌っち、また明日」
と言った。
そして朝野さんと五十嵐さんは電車のドアが閉まるギリギリのところで電車を出た。朝野さんの言葉に対して
「また明日」
と返せなかったことが心の隅に少しモヤモヤしたものを与えた。友達初心者の俺はこの気持ちを理解することができなかった。
2人が降りてからしばらく電車の中は静かだった。
♢♦︎♢♦︎
朝野家ではひまわりが帰ってすぐベッドに横たわった。
「疲れたー」
ひまわりは財布から今日撮ったプリクラを出して、それを見た。
「めっちゃキレイに撮れてる!私の宝物にしよ!」
そう言いながらプリクラを写真立てに挟む。そのときのひまわりの顔はほんのりと赤くなっていた。
♢♦︎♢♦︎
五十嵐家ではすみれがお風呂に入っていた。
「今日は楽しかったな……ぶくぶくぶく」
すみれはお湯に顔を沈めて少ししてからまた顔を出した。
「鎌ヶ谷君と少しは仲良くなれたかな……鎌ヶ谷君、大きくなってたなー……。私のことなんてもう
♢♦︎♢♦︎
最寄り駅で降りた俺は家の近くのコンビニに寄った。そこで2Lのペットボトルを1本と鮭おにぎり、焼きそばパン、グラタンを買った。ラーメンをさっき食べたはずなのになんだかお腹がすいた。
俺は重い袋を持ちながら家の前まで歩き、家の扉を開けた。そこには肩にかかるくらいの長さのサラサラの黒髪にうさぎのヘアピンをつけた少女が立っていた。
「おにぃーが不良になって帰ってきたー」
「不良ってなんだよ」
「こんな夜遅くに帰ってくるんて不良じゃん」
「少しくらい遅くなることだってあるだろ」
この少女は俺の妹、
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