第4話 ストラディバリウスはストラディバリウスだから素晴らしい(1-ギターはギターがお好き)

 駅前のカフェでのバイトを終えた水路みずじ暁時あけときは、その足で楽器店へ向かった。

 先日初めてのライブを終えたバンド「a hollow in the world」のギターを担当している彼は、ライブの時とは打って変わって真面目な青年然としている。メンバーで運営しているSNSには営業用のカッコつけた写真しか載せていないので、こうして歩いていてもファンにバレるなんてこともない。

「いらっしゃいませ。あ、新しいギター入ったんですよ。ご覧になりますよね」

 もはや顔馴染みの店員が気さくに声をかけてくるのに頭を下げて、暁時はギターコーナーへ足を運ぶ。バンドではエレキギターを使っているが、彼自身はアコースティックギターも好み、家にはどちらも揃えている。

「こちらが新商品ですね。フェンダー、ギヴソン、PRSも新しいの出してますよ」

 有名ブランドの新商品を眺めながら、値段はともかく、これまでのモデルのマイナーチェンジと言って良さそうだ、と暁時は思った。さまよっていた彼の視線は、一つの変形ギターの上で留まった。

「あ、ヨヤミのコラボ……」

「ああ、それ。アイバニーズはよくアーティストとのコラボしますもんね。今回はヨヤミみたいです。ヨヤミのギターの」「カケル」「そう、カケルさんがデザインと音作りに協力したとか」

 ヨヤミはポップスのバンドで(恋愛ばかり歌う歌詞は暁時の好みではなかったが)演奏技術が高く、最近あちこちのミュージックシーンで取り上げられている。特にギターのカケルの演奏は飛び抜けていて、暁時は動画サイトで彼のソロシーンだけリピートして研究したくらいだった。

 目の前のギターはV字形のフライングVタイプをさらに変形させたバージョンのようで、V字の終わりの部分が羽のように折れ曲がり、全体的に鳥の翼のようなデザインをしている。演奏しづらそうではあるが、見た目のインパクトは強い。

「いいですよねえ、コラボギター。僕も欲しいですよう」

 店員が言い、暁時は値札を見て呻いた。

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