パルナッソスの戦乙女 ~能力者認定されて牢獄都市に島流しになったあたしは、最強の女の子チームとこの世界の「バッドエンド」に抗うと決めた~

蒲公英薫

プロローグ

大覚醒(A Great Awakening)

 二〇三六年十二月――。

 人類は、再び進化を加速した。


 それはクリスマスを数日後に控えて、人々の心が浮き足立ち始めた、ある冬の朝の出来事だった。


 その日、眠りから目覚めた人類の半数近くが、異様な感覚を覚えていた。


 額の奥深くに「何か」があった。


 その正体を確かめようと頭の内部に意識を向けると、そこにポツンと小さな穴が空いているような感じがした。


 小さな空洞。

 物理的な空洞のはずはないから、何かの原因で脳細胞が死滅してできた機能的な空白部分をそう認識しているのか。


 また、それは空洞ではなく、明らかな異物のようでもあった。


 新たな異物。

 ならば、癌細胞のように新たに生じた異物が、意識できるほどに大きく成長したのだろうか。


 何にせよ――。


 あるはずのものがない。

 あるいは、ないはずのものがある。


 ……そんな、異様な感覚に襲われたのである。


 やがて、人々は、さらなる異変に気付く。

 その「何か」の内側から、自分以外の人間の声が聞こえてくることに。


 さらに、ごく少数ではあったが、彼らの中から、第三者に自分の思考が漏れていると訴える者も現れた。


 この未知の現象は、わずか数日のうちに世界中に拡大した。

 最終的には、新しい年を迎える前までに、地球上のほとんどすべての人間が同様の経験をしていた。


 ――世にいう「大覚醒だいかくせい」である。

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