第24話 視野広角
『必ず全ての感情を取り戻してみせる――――天下統一とともにな』
ミュウ・クリスタリアとの激戦の後、ルカは内なる自分と契りを交わし新たな力を得た。
「異世界に【期待】しちまったんだよなぁ。『視野広角』――瓦礫が唯一落ちてこない場所を
瓦礫の山に囲まれながら無傷で佇むルカの瞳は橙黄色。【期待】の芽生えにより発現した未来視によって、ルカは九死に一生を得ていた。
見る人が見れば奇跡だと声を上げるほどの非崩落地点で一筋の汗を湛えていたが。
「創造――
やや濃さを失った黒煙の中から飛び出す一条の蒼光線は、勝利を確信していたガルーダの反応を鈍らせた。
『ガアァッッ!?』
「うーん、掠っただけか! だけど崩壊地帯から脱出する牽制には十分だろっ!」
直接視認出来ない中で仕留めるには至らないが、猶予を稼いだルカは瓦礫を飛び越えて窮地を脱する。
そんな一方的な蹂躙が崩れたガルーダへ、更に上空から純白の象徴が降り注いだ。
「やぁあああッッ!」
『ガルァッ!?』
「うおっ!? その翼かっけぇなサキノぉ!」
長髪と同様に純白端紫の色味を持つ一対二枚のサキノの翼にルカは目を輝かせる。
そんなルカを他所に、上空からの奇襲を鉤爪で防御したガルーダは吹き飛びながら爆粉を置き土産にし、爆発の危機を一早く察したサキノは緊急回避でルカの隣へと。
「あらあら、天下統一を目指すルカさんにしては珍しく苦戦してるのではなくて?」
「開口一番煽んなよ!? つーかこの翼本物? すっげぇな手触りもめちゃめちゃ気持ち――」
「あんっ――んんっ、……なに?」
「……すまん。そんなに敏感だとは思わなかったんだそんなジト目で見ないでください」
「別に何も感じてないけど? でもルカが、女の子の大事で敏感なところを許可なしに触る人だっていうのは一生忘れてあげないから」
「語弊があるように思うけどごめんて!? 翼にそんな感覚あるとは思わなかったんだよ!?」
「ふぅ、全く……ルカの特殊性癖を受け止めてあげられるのは私だけ――」
『ギギヤァアアアッ!!』
二人の桃色の空気を吹き飛ばすかの如くガルーダは突貫し、ルカとサキノは自動追尾の爆発を左右に分断回避した。
「遊んでる場合じゃなかった! サキノ、今みたいにガルーダは爆破の異能を使う! 防御をしてもされても次には回避を強要される! 一撃で決めるつもりでやるぞ!」
「私は遊んでるつもりはなくて真剣だったんだけど……ガルーダ絶対に許してあげないから……」
ルカは簡略的にガルーダの情報を共有し、側頭部に怒りマークを張りつけたサキノは右手に持つ純白の刀を強く握り締めた。
「空を飛べる私が
翼を轟然と羽ばたかせ、サキノは決然と中空へと飛翔していった。
サキノの急迫に、宙を旋回していたガルーダは爆粉を撒き散らしながら鬼ごっこを受け入れる。
「まるで航空機動隊だな……俺にも翼の創造は可能――だけど単一の制限があるせいで身体強化も武器の創造も行えない……飛べたとしても丸腰じゃ幻獣相手には不利すぎる……だとすれば――」
爆発を間一髪で躱し、加速度を増しながら果敢に戦う上空のサキノを見据える。
「極限まで無駄を減らせ――視野広角展開」
ルカは視野広角に没頭し、ガルーダの動きを未来視する。風を切り、爆煙を吹き荒らす怪物の動きを何秒先も追っていく。
「深く、もっと深くだ……! ガルーダの速度と奇襲地点が合致する
翠眼の身体強化を施したルカは、高層ビルの壁面へ向かって跳躍――間隔の狭いビル間を壁蹴りで更に上部へ。
「下界の能力値じゃ百パー無理だぞ、この神業。上空約四十メートル、あなたの未来に追い付きましたよっと」
自画自賛しながら踊り出たるはガルーダの直上。
「背後を追って来るサキノしか見えてねぇだろ? 未来さえ見てしまえば隙だらけだ」
『ガアァッッ!?』
「砕けろッ!!」
面食らうガルーダはルカの渾身の踵落としを脳天に受けた。
『ゲ――』
バキッッ、と鷲の頭部を粉砕する音とともにガルーダは地上へ直滑降する。
一撃でとは言ったもののルカは詰めの甘さなど見せない。
「まだだ――サキノ!」
「っ! 左脚のタメ――速度落とさないでってことね! 了解、借りるよその左脚ッ!」
「行――――けっ!!」
ルカの真意を瞬時に汲み取りサキノはルカの左脚に着脚。ルカの蹴りの援護を得たサキノは超速で直角に方向を転換し、加速を重ねて落下するガルーダへと肉薄していく。
『ガアッ……!? ガガガッァ!?』
「ルカとの対話を遮った貴方は万死に値する――一刀両断ッ!!」
神速の一撃は容易く爆緋鳥ガルーダの首を断ち斬り、断末魔の声さえ上げさせない。
刀を振り抜いた体勢で着地したサキノは納刀と同時に翼を消し、一時の緊張感を呼吸と共に手放した。
「異能の幻獣をこんなにも簡単に倒せるなんてね……」
単独戦闘の頃と比べて難易度が激減した現実に、サキノはほのかに笑みを浮かべた。
「いえーい、ナイスサキノー!」
「やったねル――カ……?」
振り返ったサキノの前には対極の如く一対二枚の漆黒の翼を背に生やしハイタッチを求めるルカ・ローハートが。
その姿は神々しくもあり、同時に自身の翼を真似たかの様相の酷似性にサキノの心に嗜虐心が灯る。
「私の翼を真似たの? よく出来てるね。うんうん、それじゃあ再現性が高いか調べるために感度チェックをしようね?」
「やっぱりさっきのまだ根に持ってるだろ……待て待て、女の子がしていい手つきじゃないぞそれっ!? 止めろ触るんじゃないっ!?」
「怖くない怖くない♡ つーかまえたっ♡ ほーら、存分にルカの情けない声を聴かせて?」
「……すまんサキノ。悪ノリしたけど俺の翼は創造したものだから感度はないんだ」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!!!!!!!!」
嗜虐心が仇となったサキノは長時間、顔を真っ赤にさせて悶絶した。
「それでさ、三日後に玄天界で『
「何事もなかったかのように話を始めたのはツッコんだ方が――いえ何でもないです。すみません」
やや圧のある雰囲気を醸し出し、サキノはルカの後に続く言葉を抑圧する。
ルカもサキノをこれ以上揶揄うと本気で怒りそうだと判断し、話は玄天界で待ち受ける任務同行への交渉へと移り変わっていった。
「【クロユリ騎士団】の任務に俺が参加してもいいのか?」
「ん、団長の許可もあるし大丈夫。幻獣ほど強い魔物は都市近辺にはいないし、ルカも実戦経験を積めるいい機会だと思うの。どうかな?」
「玄天界での実戦か。確かに玄天界の事を知れるなら参加しない手はないな。わかった、俺も任務に参加するよ」
「ありがと。それじゃあ私は騎士団に寄ってルカの参加を報告してこようと思うけどルカはどうする?」
突発的な秘境を経由して玄天界に向かえばココに開門の負担を掛けずに済むと思慮を巡らせたサキノの問いに、ルカが少し悩んで出した答えは。
「そうだな……俺も【騎士団総本部】に用があるから玄天界に行くよ」
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