第18話 はじめてのおつかい
【玄天界・都市リフリア】
陽が落ちた玄天界は人通りが少なく、玄天界の住人である獣人が自宅へと逃げ帰るような様を見れば何かを恐れているようだった。
「ココの地図に寄ればこの辺に『魔力ロッカー』があるはずなんだけど……つうか、ココから預かったこの荷物……厳重に封されてるけど、これマジでココの血なのか……?」
簡易的な地図と夜闇に視線を往復させ、荷物を抱えたルカは夜の玄天界を歩きながらココとの会話を思い返した。
± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ±
『受け取り場所に行く前に、この荷物を魔力ロッカーに預けてきて欲しい』
『ほーん、
『私の血よ』
『あぁ……はぁっ!? 血ぃ!?』
『勝手に飲んだら殺すわよ』
『飲まねぇよ!? どんなサイコパスだと思われてんの!?』
『あながち間違いでもないでしょ』
『全っ然違いますけど!?』
『ふん、冗談の通じない男。下界のお土産とでも思っておけばいい』
± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ±
「ココにも知られたくないことの一つや二つ――どころじゃねぇな……結構謎深き幼女だったわ。ま、そんな友好的な奴でもないし自分の事を話すとこ見たこと――っと、円球状に区切られたカプセル……魔力ロッカーってのはもしかしてこれか?」
目的らしき設備が並んでいる場所を発見し、ルカは一時思考を放棄した。
「玄天界版コインロッカーって感じか。これに荷物を入れて、と」
荷物を中に入れ、蓋を閉じる。ブゥンと小さな音とともに青白い発光が球体を一周し、カプセルは何事もなかったかのように鳴りを潜めた。
「お、ちゃんと閉まってる。渡し手と受け手の魔力にのみ反応して開くってココは言ってたし、玄天界は本当になんでも魔力で補ってるんだな。よし、一つ目の依頼は完了。後は荷物を受け取って帰るだけなんだけど――うーん……」
ルカは口をへの字に曲げながらキョロキョロと四顧する。
「順調すぎだな……いや、いいことなんだけどさ……王宮から抜け出したお姫様が俺に助けを求めてきたり、いないけど昔に道を違えた幼馴染とかが玄天界に現れたりとか、突発イベントが起こりそうなもんなんだけどな……」
本来の目的を見失いつつあるルカは頬を引くつかせる。
ココが聞けば「一生帰って来ないで」と言われそうなほどに玄天界に過度な干渉を求めたルカは息を一つ落とした。
「なーんて、俺ぁ所詮そこらの一般ピーポーなわけで。イベント属性なんて持ち合わせてないことくらいわかってるって――」
「んやあぁぁぁああああっ!?」
「んぶっ!? 人が降って来た!?」
月を覆うかの如く頭上から降り注ぐナニか。
ルカは柔らかくも強烈な感触を顔面に受け、待望のイベントに見舞われた。
「いたたた……屋根上を走ってたら足を踏み外しちゃいました……」
「どうやら俺が知らないだけでイベント属性持ちだった……? とりあえず俺の顔の上からどいてくんない?」
ルカの顔に跨るように座る外套を被った少女は、股から聞こえる声にハッと我を取り戻しルカの上から飛び退いた。
「誰ですか貴方は!?」
「それはこっちの台詞なんだよな。急に上から降って来たくせに強烈なヒップアタックかましやがって……ごちそうさまでした」
「誰のお尻が大きいって言うですか!?
「言ってねぇし、そんな外套に隠れた状態でカミングアウトされても――うおっと、あぶねぇなぁ。傘で人を突いちゃ駄目だって習わなかったか?」
「くっ!? わ、
「やっと追い付いたぜポンコツパンダぁ……どんだけ逃げ足はえーんだよてめぇは……」
刺突に用いた傘を掴んで離そうとしないルカの様子に、少女は傘を一旦諦め、ルカと追手と三角形の位置関係へと。
少女と同じように外套を羽織って追走してきた人物の野太い声に、ルカは既視感を覚えた。
「面倒臭ぇなぁ……お前、そいつを庇うつもりか?」
「今しがたこの傘で刺されそうになったんだけど、それでも庇ってるって思う?」
「これ見よがしに見せびらかしてないで返してください! 人の物を奪うのは泥棒ですよ!」
「何で俺が悪者みたいになってんの……?」
「なるほど。そうやって俺を油断させようってわけか。ったく、邪魔すんならてめぇから潰す!」
「なんか突発イベントきたけどそうじゃない!! なんで俺が疑われてんだよクソっ!」
勢いよく振りかざされた拳をルカは身を捻じって回避、ドォン! と豪快な音を立てて壁が崩壊を余儀なくされた。
「オレンジ色の髪と獣人の耳……レッサーパンダ?」
「天下の
「仮にお前の言う事を信じるとすれば
「仕留めたてめぇから聞き出すし問題ねぇよ」
「知らねー……初対面というか顔すら知らないっての」
男の容赦ない暴行をルカは傘で弾きながら、男の当初の目的がすっかり食い違えていることに難を示す。
「どうやら少しは腕が立つようだ。遠慮なく武器を使わせて貰うぜ!」
「
男の短剣の横一閃に、ルカは傘を投げ捨てて紫紺瞳を解放する。
「創造――二刀短剣」
「へぇ、武器の創造――中々な能力持ってるじゃねえか。だが圧倒的な種族の力を持つ相手にどこまでヤれる?」
「ぐっ……! 攻撃が急に重く……っ!?」
弧を描く銀閃はルカの黒剣に阻まれるが、ルカの体がズンッと沈み込んだ。
「
「体が
「速度だけじゃねえ。夜昇は力も動体視力も強化するッ!」
二刀の短剣で一本の短剣を防ぐジリ貧状態。
男の左拳の振り上げをルカは右膝で防御して貰い受け、骨がミシッと軋む音を立てながら後方へと吹き飛んだ。
「あ、ぐっ、いってぇ……!? たったの一撃で骨を砕く身体強化……!?」
「あいつを庇ったのが運の尽きだったな! 攻め崩す!!」
脚を庇いながら着地したルカへ男の乱撃が襲来する。
膝に突き抜けるような痛手を負ったルカだったが、しかし頭は澄み切った凪のように冷静沈着。男の戦闘能力をさほど脅威には感じていなかった。
「自負は結構だが――身体強化はお前の専売特許じゃない」
――翠瞳解放。
二刀短剣を消失させ、ルカの身体機能が劇的に向上を迎える。
「なんでてめぇも身体能力が上がってんだ……! 武器を創造する能力じゃねぇのか……!?」
「誰もそんなこと一言も言ってねぇし、それが限界なら大したことねぇな。レラの方がよっぽど早ぇ。ほら足元がお留守だぜ」
「なっ!?」
種族、能力を過信した男の上体のみの乱舞を体を沈めて躱し、疎かになった足元へ足払いを放つ。
「天下だか最高種族だか知らねぇが、喧嘩を売ってくるってんならとことん返り討ちにしてやんよ。ふッッッ!!」
「がはっっ!?」
地面に着いた手から伝わる腕の反発力を渾身の側蹴に込める。足払いによって宙で体を遊ばせる男の胴体へルカの反撃が直撃し、脚から伝わる衝撃にとある事実がルカの脳裏に呼び起こされた。
「あ、お前もしかして
そんなルカの呟きを耳聡く聞き取ったのか、姿は夜闇に溶かしたままに男の野太い声が暗闇に反響した。
「効いたぜ……あぁ、なるほど道理で武器の創造に既視感があって、かつ俺の
「そのセンサーぶっ壊れてるからちゃんと直しとけよ? それと俺は嬉しくなんてねぇからな」
「男のツンデレはキショいだけだぜ? はぁ、ポンコツパンダも見失ったし、なんだか白けたなぁ。仕方ねえ、旧知のよしみで今回は見逃してやるよ」
「旧知って間柄でもないし、庇ってるだのツンデレだの事実を湾曲すんのやめれ。俺は事実しか言ってない」
「こまけぇこたぁいいじゃねぇか。ところで世間知らずのお前さんに一つ忠告しておいてやる。世の中には可愛い顔して平気で悪逆を働く者もいる。女だから、か弱いからといって誰でも庇ってたら、いつか痛い目に遭うのは自分だぜ? ま、次は敵対しないことを願うよ兄弟――」
「急に距離間近いな!? まずは話を聞けよお前は!?」
ルカの返答も聞かず、男の気配は遠ざかっていった。
「マジで話聞かねえじゃんアイツ……」
まんまと理由をつけて引き上げられた感は否めなかったが、戦闘を続行する理由も、追う理由もルカには一切ない。
「周囲に気配はない……さっきの子も隠れてる様子はなさそうだし、この傘どうすっかなぁ……」
路端に横たわっていた傘をルカが手にした――次の瞬間。
ドォンッッ! と。傘の先端から青光線が発射され、地に巨大な焼け跡を刻んだ。
「んおっ………この傘
頬を引くつかせて黒眼に戻ったルカは見事
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