第6話「影潜りの応用」

 盗賊団を倒した翌日、街はざわめいていた。

 広場では人々が声をあげ、子供たちは影の遊びを真似て笑っている。


「影から出てきたぞ! やっつけろー!」

「きゃー! 飲まれちゃう!」


 その光景を見て、俺は苦笑した。

 神に無能と烙印を押された俺が、今や子供の遊びの題材になっている。皮肉だが、悪くない気分だった。


 その夜、俺は路地裏で影の実験をしていた。

 ルナとリクも付き合ってくれている。


「よし、試すぞ。ルナ、その石を投げてみろ」

「うんっ!」


 ルナが小石を放る。それは俺の影に触れ、すっと沈んだ。

 俺は手を突っ込み、別の影から石を取り出す。


「……やった!」

 ルナが拍手する。


 影と影を“繋ぐ”だけでなく、物を移動させることができる。

 さらに影の中に“留めて”おくことも可能だ。


 リクが腕を組んだ。

「つまり、簡単な収納袋みたいなもんだな」

「ああ。制限はあるが……使い道は多い」


 俺はナイフやパン、水袋を影に入れてみせた。

 重さは感じない。影が勝手に抱えてくれるのだ。


「影の倉庫……って感じだな」

「うわぁ……便利!」


 ルナは目を輝かせる。

 彼女の笑顔を見るたび、俺は力を試す意味を実感する。


 だが、甘いことばかりではない。


「おい、あんたら……ギルドに来い」


 昼下がり、突然声をかけられた。

 鎧姿の男が二人。冒険者ギルドの使いだ。


「盗賊団を潰したってな。なら報告義務がある。未登録者が勝手に動けば、処罰対象だぞ」


 俺はリクと視線を交わす。

 これは……逃れられない流れだ。


「わかった。行こう」


 冒険者ギルドは、街の中心にそびえる大きな石造りの建物だった。

 中に入ると酒場のように賑やかで、武器や防具を身につけた冒険者たちが行き交っている。


「おい見ろ、あいつが影潜りの……」

「バルゴを倒したって噂の……」


 視線が集中する。

 嘲りはない。だが試すような、値踏みするような眼差し。


 受付嬢が書類を差し出した。

「スキルを確認します。――“影潜り”ですね?」

「ああ」


 彼女はわずかに目を細めた。

「珍しいスキルですが……記録では最低等級扱いです」

「……だろうな」


 だが、次の瞬間。

 後ろからリクが声を張り上げた。


「こいつは最低どころか、盗賊団を壊滅させた英雄だ! 見くびるなよ!」


 ざわめきが広がる。

 受付嬢は驚きつつも、記録に目を走らせた。


「……事実ならば、昇格試験を受ける資格があります」


 試験は単純だった。

 指定された魔物を討伐し、証拠を持ち帰ること。


 俺たちは森に向かった。

 昼間でも薄暗く、木々の影が地面に複雑な模様を落としている。


「いい練習場だな」


 俺は影に潜り、木の影から飛び出した。

 狙いは森狼――灰色の毛並みを持つ凶暴な魔物だ。


 牙を剥いて襲いかかる。

 だが俺は影に沈み、狼の背後から現れ、首筋を掴んで地面に叩きつけた。


「ガウッ!」


 リクが短剣で止めを刺し、ルナが小石を影に落として合図する。

 俺はその影を繋ぎ、背後に迫っていた別の狼に石を叩きつけた。


「ギャンッ!」


 連携は完璧だった。


 夕暮れ、狼の牙を証拠として持ち帰った俺たちは、無事に昇格を果たした。

 ギルドの冒険者たちがざわめき、誰かが口笛を鳴らす。


「最低スキルだと? 笑わせるな」

「影潜りの三人組、なかなかやるじゃねえか」


 俺は拳を握った。

 無能と切り捨てられた俺に、初めて「冒険者」という肩書きが与えられた。


 ルナが笑顔で言う。

「ねえおじさん、これからもっと強くなれるよ!」

「ああ。影の先には、まだまだ可能性がある」


 その時、ギルドの掲示板に張り出された依頼が目に入った。


『王都より緊急指令――影に潜む賊の討伐を要請』


 俺の胸に冷たい予感が走った。

 影を使うのは俺だけじゃない。

 この世界には、俺と同じく“影を操る存在”がいるのかもしれない。


第6話ここまで

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