窃盗行為
俺は地下室のベッドで目覚めた。
瞬時に上体を起こし、頭を軽く振ってクリアにさせる。
夢のように記憶から消えかかっていく物語の経緯を忘れないため、その情報を記載しようと傍に置いたメモ帳を手に取ろうとするが。
「あれ? ……ない。ここに置いてたはず…………って、またお前か」
気がつけばまたしても
「戻ってきましたね。気分はいかがですか?」
「最悪だ。次から次に疑問点が出てきて混乱してる。だから早くそれを返してくれ」
「イヤです」
「なんでだよ……つまらない茶化しに付き合ってる暇はないんだ。記憶が薄れる前に書かないと」
「では、交換条件です。今日はこのままお帰りになることを了承してくれれば返します」
「……もう
「はい。
「ちゃんとトイレがてら休憩してるし、本の中でも睡眠を取ってるから問題ない」
「そうですか。じゃあどうぞ。これからはその
「……心配してくれるのはありがたいけど、本当に無理はしてないから安心しろ」
「あ。それは建前で、実はこのあと雪と外食に行く予定なんですよ」
「ふざけるのもいい加減にしろっ。お前がそんな態度するなら、こっちだって黙ってないぞ」
「おや? 力づくで奪ってみますか? こう見えても私は強いですよ~。以前にも学校一の不良生徒を捻じ伏せて更生させましたからね。ひ弱な
椅子から立ち上がってシュッシュッとシャドーボクシングする。……元から俺が手出ししないのを分かって言ってるな。やっぱりこのお嬢様に脅しは通用しないか。
「……もし今日を諦めたとして、再開は明日の何時からだ?」
「いえ、私がいる時が好ましいので休校日の土日ですね」
「五日後まで待てるか」
「なら私との戦闘は避けられませんね」
頑なに意見を変える気はなさそうだ。
しかたない。使いたくはなかったけど、あの手を試してみるか。
「はぁ。分かったよ。今日はこのまま帰る」
「口ではなく行動で示してください。アンフィニシュトの書を机の引き出しに」
俺は掛け布団の下に置いておいた本を手に取り、言われたとおりに机の引き出しに仕舞う。
そのあと素直にメモ帳を渡してきて。
「今日はお疲れ様でした。心身ともにしっかりと休息を取り、また次回頑張っていきましょう」
満足げな表情でそう言った。
俺はまだ誰も帰ってきていない家の中を歩いて自室に入り、
「さぁ。続きをするか」
肩かけショルダーバッグの中からアンフィニシュトの書を取り出す。
あの傍若無人のお嬢様のことだから急なタイミングでストップをかけにくるのは目に見えていた。だからトイレ休憩に行った際に、その隣にある部屋(図書館みたいに沢山の本棚が並んでいた)から深緑色の表紙のものを選び取り、地下室に運んでおいたのだ。確認されれば一発でバレるが、
明らかな窃盗行為で良心の呵責を感じるが、明日ならまだしも次の土日までこのモヤモヤ感を継続させたくないし、記憶の濃いうちのほうが推理が捗る。
なに、役目を終えたらちゃんと返すつもりだ。そしてこれはハッピーエンドを目指している
俺は自分にそう言い聞かせてベッドに横になり、本を開いた。
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