第12話「未来を照らす光」

 あの嵐のような事件から、一年が過ぎた。


 季節は巡り、私たちは緑が美しいガーデンで、たくさんの祝福に包まれながら、結婚式を挙げた。

 純白のウエディングドレスに身を包んだ私を見て、蓮は「世界で一番綺麗だ」と、涙ぐみながら言ってくれた。その言葉だけで、私は世界一の幸せ者だと感じた。


 私たちの結婚指輪は、特注のデザインだった。

 内側には、『Lux mea, Futurum meum』(私の光、私の未来)というラテン語が刻まれている。蓮が、私のために考えてくれた言葉だ。


「美月は、僕の未来を照らす光だから」


 そう言って微笑む彼の隣が、私の永遠の居場所。


 結婚後も、私はホライゾン・テクノロジーズで働き続けた。

 肩書は、副社長兼最高戦略責任者(CSO)。蓮は、「君には、僕と同じ視点で、会社の未来を見てほしい」と言って、私にこのポジションを用意してくれた。


 相沢美月改め、一条美月。新しい名前にも、すっかり慣れた。


 私たちは、公私ともに、文字通り一心同体のパートナーとなった。

 朝、一緒に家を出て、会社へ向かう。日中は、それぞれの立場で仕事に没頭し、時には経営方針を巡って、激しく議論することもあった。

 しかし、私たちの間には、常に絶対的な信頼と尊敬がある。だから、どんなに意見がぶつかっても、最後には必ず、より良い結論にたどり着くことができた。


 そして夜、一緒に家に帰る。

 二人で並んでキッチンに立ち、夕食を作る。他愛もない一日のできごとを語り合いながら、食卓を囲む。そんな何気ない日常が、私にとっては何よりの宝物だった。


「今日の会議の美月、すごくかっこよかったな。あの頑固な取引先の役員を、データで完璧に論破した時は、惚れ直したよ」


「蓮さんこそ。最後のプレゼン、みんな感動していましたよ」


 互いを褒め合い、労い合う。そんな時間が、私たちの絆をさらに強くしていく。


 ホライゾン・テクノロジーズは、私たちが率いるようになってから、さらなる飛躍を遂げていた。

 国内での地位を不動のものとすると、海外にも次々と拠点を広げ、世界的な大企業へと成長した。


 かつて私を「数字しか見ていない」と蔑んだ高遠彰が勤めていた明誠商事は、見る影もなく凋落し、今やその名前を聞くこともほとんどなくなった。彼が刑期を終えて、社会復帰しているのかどうか、私は知らないし、知りたいとも思わない。


 時々、昔のことを思い出す。

 地味なOLとして、息を潜めるように生きていた日々。彰からの理不尽な婚約破棄に、ただ傷つくことしかできなかった、無力な自分。

 あの頃の私が、今の自分を見たら、きっと腰を抜かすだろう。


 自信に満ちて、世界を相手に仕事をし、そして、愛する人の隣で、心から笑っている。

 こんな未来が来るなんて、あの頃は想像もできなかった。


「どうしたんだ、美月? ぼーっとして」


 バルコニーで夜景を見ていると、後ろから蓮がそっと私を抱きしめた。

 彼の胸に背中を預けると、心地よい温もりが伝わってくる。


「ううん。なんだか、夢みたいだなって。蓮さんと出会って、私の人生、本当に変わったから」


「それは、僕も同じだよ。君という光を見つけられたんだから」


 彼は、私の左手の薬指に、自分の指を重ねた。

 お揃いの結婚指輪が、きらりと光を反射する。


「美月。これからも、ずっと一緒に、たくさんの未来を見ていこう。僕たち二人なら、どこへだって行ける」


「はい、蓮さん」


 私たちは、眼下に広がる、宝石箱のような夜景を見下ろした。

 一つ一つの光が、人々の営みや、夢や、希望のように見える。かつて、私はこの無数の光の中から、データの声を聞き、未来を読み解いていた。


 でも、今は違う。


 今は、隣にいる、たった一つの、誰よりも強く、温かい光を見つめている。

 私のすべてを照らし、導いてくれる、愛する人の瞳を。


 この光がある限り、私たちの未来は、永遠に輝き続けるだろう。

 私は、蓮の腕の中で、確かな幸福を噛み締めながら、どこまでも続く、輝かしい未来に思いを馳せるのだった。

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