辺境に追いやられ落ちぶれた貴族(俺)に嫁いできたのは、悪役とは名ばかりのご令嬢でした……

しょうわな人

第1話 カイ・ハッサーク


 俺の名前はカイ。

 カイ・ハッサークだ。


 二十二歳のピチピチ好青年である。


 実は十歳までは別の家名だった。その当時は父の爵位は公爵である。しかしながら十歳の時に俺は国王陛下から爵位を賜った。


 辺境伯という爵位で、よくラノベなどでは侯爵と同等などと書かれているが、この国では違う……


 文字通り辺境に左遷された者に授ける爵位なのだ。


 わずか十歳で何故?


 そう思われるのも無理はない。当時、俺は少し年下(二歳下)の王太子殿下の御付きとなっていた。


 この王太子殿下だが……


 もうね、ホントにどうしょうもないワガママボンボンで、見ていて余りに酷かったから苦言の数々を呈していたら、俺を鬱陶しく思った殿下が陛下に向かって、「父上、カイほどの才能を私ごときに預けるのは勿体のうございます。常日頃からカイは私にこう申しております。自分が魔境の境にある辺境に出向けば開拓など十年で済ませる事が出来るのにと! 是非ともカイにその任を与えて下さいませ!!」なんて事をのたもうたんだよ……


 それでも俺は陛下の良心を信じていたんだ。


 だが、あれほど親バカだったとは俺も思わなかった……


「何だとっ!? それは誠か? ならばカイに辺境の開拓を任せてみよう!! そうよな、そうなるとカイには公爵家より抜けてもらい辺境伯となって貰わねばならぬ! 新たな家名を自分で決めさせよう!!」


 なんて王太子殿下の戯言たわごとを信じやがりましたんだよ!? この国はもう終わったなと十歳にして俺が思った瞬間だったよ。


 ああ、ここで先に言っておこうか。俺がさっきラノベなんて言ったから気づいた人も多いだろうが俺は転生者だ。日本人としての記憶がある。


 前世では四国愛媛の片田舎で柑橘農家をやっていた。まあ、他にも米や芋(じゃが、大和、里)にほうれん草にトマト、キュウリ、ゴーヤ、レタス、柿、桃、林檎、葡萄(デラウェア、シャインマスカット、巨峰)なんかも栽培していたが。


 テレビ局から取材に来た時にうちの畑の数々を見たリポーターが「凄いですね! 東京ドーム十八個分の広さですね!」なんて俺に分からない例えを出してきやがったが、まあそれなりに広い土地を農地として持っていたのは間違いない。

 それに取材の時に見せた農地は栽培してた農地の半分以下だったしな。

 

 周りが年寄りばかりになって耕作放棄地になってた場所を持ち主から借りて栽培してたからとんでもない広さだったのは間違いない。


 その広さを一人で見てたのかって? いくら俺が愛媛県一と言われた農人でもそれは無理だ。だから俺は県に働きかけ、外国人留学生を募集して雇っていたんだ。


 来てくれるのはみんな真面目な子たちばかりだった。常時、十八〜二十人を雇っていたなぁ……


 そう言えば俺の死後は農地はどうなっただろうか? 息子たちがちゃんと継いでくれてると思いたいが…… 


 ああ、ちなみに前世の俺は国際結婚をしたぞ。カンボジアという国からやって来たデリム・スレイットという子が十八歳になるのを待って結婚した。俺が三十歳の時である。

 スレイットは良き妻だったなぁ。器量良し、性格良し、料理旨し、床上手、貞操観念バッチリと何もかもを兼ね備えていたよ。

 お陰で俺も年齢の割には張り切って五男三女の父親になったっていう……


 今はその話は関係ないな。まあ俺はそんな前世の記憶を持つ転生者なんだ。


 まあそんな前世の記憶があったから、八歳にして婚約者が決まっている王太子殿下が四歳の婚約者のご令嬢を常に冷たくあしらっているのを見て苦言を呈した訳なのだが、それがこんな辺境の地に追いやられる事になるとは俺も想定はしてなかったよ。


 しかもうちの両親は長男、次男がいれば三男の俺はどっちでも良いやって宣言しやがったから、俺としても、そういう事ならもう良いやでこの地にやって来たんだ。


 何とかする自信はあったしな。転生特典って奴で俺のジョブは破格のジョブだったからな。


 で、名前(家名)を決めろって言われたから前世の妻の大好物だった八朔ハッサクからハッサークという家名に決めたんだ。


 カイ・ハッサークとしてこの地にやって来た俺は開拓村にたどり着いて愕然としたよ。


 まあそれでもあれから十二年が過ぎて今は領都と呼べる規模まで発展させた町で、今日も俺は領民を護る為に色々と政策を練ったり、魔獣討伐に出かけたりしている。


 で、魔獣討伐から屋敷に戻ったら……


「カイ様、王家より縁談が決まったとの通達が速達で届きました。速達ですと紙一枚で届きますので目に入ってしまいました、申し訳ありません」


 なんて執事のロックに言われたんだが……


 えっと…… 何でいきなり縁談? 俺の?


 そう思い無言で俺の顔を指差すとロックはちゃんと


「左様でございます。カイ様の縁談でございます。お相手はレナ・クリスティード様で、公爵家のご令嬢との事でございます。おめでとうございます」


 冷静な声でそう返事をしてくれた。


 のだが……


「ちょ、ちょっと待てロック! レナ・クリスティード令嬢って言ったか?」


「はい、確かにそう書かれておりますが?」


王太子殿下あのバカボンの婚約者じゃねぇかーっ!! また今度は何をやらかしてるんだ、あのバカボンは!!」


「カイ様、本音の方が口に出ておりますよ」


 ロックに冷静に注意されたが俺は気にせずにロックにどうしてこうなったのかを調べるように伝えた。


 通達を読めばレナ・クリスティード令嬢は三ヶ月後にこちらに来るらしい。それまでに事情を調べるようにロックに伝えた俺は、王都にいる唯一の友人に連絡を取るべく私室へと急ぐのだった。 

 

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