第17話 急な面談……俺達、何かした?

『華和ばやし』も終わって、なんとなく過ごしていた夏休みも終わった。


……と言うか、本来なら、キャンプや海水浴、プールにお祭り、んでもって、ありえない展開の「お金持ち的別荘イベント」など、空想の物語でなければ描かれない出来事が、まったく無いことに拍子抜けして、「もういいや」的になったかもしれないけど……。


はっきり言おう。これが現実だ!!


んでもって、戸谷が「夏休みの宿題は終わった!」と親に嘘を言って出て来たことを爆笑で話し、みんなもしてないだろうと聞いてきて……俺たちの答えに青くなったことぐらいが、印象的。

……と言うか、その話は前日の話なんで、マジに何も無い夏休みだった。


あっ、そう言えば、妹が母方の祖父母の家に数日泊まりに行ったことだけは、俺にとっての安息日だったことは付け加えておく。


まぁ、妹の出来事が気になる奴らも多いかもしれないが……。

君たちが描いている妹像は、マジにあり得んからな。


帰ってきたその日に、ただ、ただだぞ! 「おかえり」って言ったら、「死ね」って即答。

……俺なんかした? 的な感じだ。


そう言えば、イベント……無いわけでは無かった。思い出した。


姉貴が希望する大学のオープンなんとかに行くとか行かないとかで、母さんと大喧嘩してた。


……なんだろう。母さんは俺たちにはそんなに声を荒げないが、姉貴にはかなり厳しく当たる。

というか、負けじと姉貴も食ってかかっているから、大喧嘩になるんだろう。


……まぁ、結局、それには行ったけど。

2泊3日で……どこだっけ? 愛知? 群馬? 富山?

本来ならちゃんと説明するのが親切なのかもしれないが、まぁ興味がなかったんで、こんな感じだった。


その大喧嘩を親父に妹がチクっていたら、親父曰く――

「姉貴は嫁いでいく身だから、お前たちより厳しく育てているんだ」ってこと。


そうだよな……姉貴とか妹が結婚すれば? ……ん?


……って真面目に考えようとした時に、妹は「嫁ぐってなに?」って。


……俺も、その辺りは何かで覚えただけだし、今を俺よりも楽しく生きている妹にとっては……んな感じだろう、って思った。


んな感じで、君たちが期待しているようなイベントは、なに一つ起こらずに2学期が始まった。


終業式も滞りなく終わり、ホームルームになった8月21日正午過ぎ。


「……というわけで、今日はこれで終わりだが、明日からは通常の授業体制になる。そして……戸谷は、必ず明日、夏休みの課題を忘れないように!」


教室の後ろに立たされている戸谷は、愛想笑いを浮かべ、教室内に小さな笑い声を招いた。


「そして……あぁ〜、これが終わったら、田村と池添、そして、楊悦に……う、うぅ〜ん……」


……なんだろう。


北林先生が、少し空を仰ぎ、なんか言いたくなさそうな雰囲気で、言葉を濁らせながら……。


「あぁ〜、なんでかわからないが……。……佐藤雄二は、この後、校長室に来てくれ。面談がある」


そう言うと、チラッと俺を見て、首を捻りながら日直に最後の挨拶をさせて、教室を出て行った。


クラスメイトが各々帰る準備をしている中、戸谷と健斗が俺の席に来た。


「なんだろう?」

「わからない」

「面談ってなんだろうね」


戸谷の言葉に返すと、夢子が入って来た。


「わからない」


夢子の問いに返すと言うか、ほんとにわからない。

それに……あの絞り出すような俺の名前の言い方も、なんか気になる。


「マジ、なんの面談だろう……」

「……わかんないものは……、わかんないよ」


再度の戸谷の問いに、若干キレかかった……が。


……考えたが、まとまらない。

面談っていうのが気になるし、面談なんて初めてだし……。


とりあえず、行ってからかな……。


「イケやんは、なんで呼ばれたかわかるか?」

「……いや、わからない」


戸谷の質問に、いつも大人しく、どこか凛々しい表情の池添は、立ち上がって答えた。


「とにかく、私、部活行くね。頑張って」


ちょっと不安そうな表情で言った夢子が、去っていく。


その後ろ姿も、相変わらず可愛い……。

……じゃなくて。


と思っていると――。


「行くぞ」


と言葉を残して、池添が教室を後にした。


なんだかんだで、その言葉に動き出すように、池添の後を楊悦、健斗が進み、その後ろを俺が進む。

戸谷みたいに陽キャな奴がいないから、会話らしい会話は無かった。


階段を降りて、職員室へと向かう。


1・2年は部活に行くんだろう。

みんなそれぞれの場所へと進んでいく様子で、廊下は騒然としていた。


その中を進んでいくと、健斗の肌の色が気になるのか、1年生らが立ち止まって凝視している。

よく考えると、肌の色だけじゃなくて、デカさもか?


180センチメートルを越える身長は、まだ幼さが残る1年生には大人に見えるかもしれない。

現に俺も見上げて、デカいっていつも思っているし、一緒に歩いている……池添……ってか、イケやんな。


イケやんも健斗と同じくらいにデカい。

この2人が歩いていると、いやでも、俺でも立ち止まってしまいそうな……。


そんな状況を通りすぎると、職員室が見えてきた。

玄関からちょっと離れた場所だから、騒々しい音が廊下に響いている。


その横は校長室。


2つの影が校長室に入っていくのと、扉を開けている、ずんぐりむっくりした北林先生が見えてきた。


通されている2人の影が見えなくなる頃、近づいてきた俺たちに北林先生が気付き、手招きをする。

駆け足で近づくと――。


「楊悦、田村、池添、そして、雄二の順で入れ」


そう言われると、元気よく「失礼します!」と発して楊悦が入り、そして、健斗、イケやん、最後に俺が校長室に入った。


校長先生が自分のデスクに座り、楊悦、健斗、イケやんがソファーの前に立った。


……どう見ても、3人座るのが限界そうな長椅子……。

となると?


「じゃ、座ってくれ。……雄二は、立ったまま聞いてくれ」


北林先生の言葉に、俺はソファーから少し離れた場所に立ち、北林先生は長椅子の近くにある椅子に座った。


目の前にいたのは、背の小さな白髪頭の老人と、背筋の張った短髪の青年だった。

2人は一通り、俺たちを観察してから、ソファーに腰を落とした。


「こちらにいるのは……」

北林先生が2人を紹介し始めた――。

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