第11話 試合の行方

散々小言を言われたのち、帰途についた俺と戸谷、健斗、上田、そして田中の5人組は、

明日もまた行くことを約束して、お互いの家に帰った。


――懲りずにチャレンジする精神には、敬服しますよ……なんて。


そんなこんなで、夕食時を迎える。


「お兄。聞いたよ。試合」

「試合?」


母さんがテーブルに晩飯のおかずを並べた。

今日は麻婆豆腐である。


麻婆豆腐の大皿が中央に置かれ、周りにはピーマンの炒め物とサラダ。

そして――。


「お兄、ピッチャーやったんだって!」

「ヘェ」


母さんはいつもこうだ。


子供4人もいれば、興味は4等分で、実際、俺は次男だが、兄貴と俺の間に姉がいる。

そして……こいつの4人兄弟。


……なんで、実質、俺は3番目で、一番興味の薄れる立場なのかもしれない。


「珍しいね。試合に出られるなんて」

「ま、まぁ〜ね」


不意をついた妹の告白(?)に、少し焦って言葉を返すと、向かいに座っている妹の亜沙美は、俺のキョドリ方に、ニマニマした表情を浮かべている。


その表情を見ていると……。


ぶっちゃけ……俺の妹は、悪魔だ。


そういえば、上田? 田中? どっちからかわからないが、妹が出てくる漫画? DVD?

……忘れたが、とにかく何かを借りた。


それには、妹は兄に優しく、可愛く、天使のように接してくれる――。


クソっ。


……あれは物語上の妄想なのだろう。……わかってはいるが……。


俺の家の妹は、……マジ悪魔だ。


小さいから「小悪魔じゃねぇ?」と思う奴もいるかもしれないが、現実では漫画やアニメのようなことは、絶対と言っていいほど無い。


断言できる。


例えば――小さい時に、母方の祖父母が遊びに来た時の話。


2人でDSという携帯ゲームで、遊んでいた時のことだ。


その頃、そのDSが新機種を出し、妹はそれを欲しがっていて、

母さんは、「それが壊れたら考える」と約束していた。


2人で交代して“仲良く”遊んでいたが、祖父母らが到着すると間もなく――。


何を思ったのか、妹は、俺を見ると、少し考え……て、何を思ったのか。

DSを床に叩きつけ、踏みつけて、画面を見ると頷き、大声で泣き始めた。


……は? 俺も焦った。って、……は?

……マジ、何が起きたんだよ! って感じ。


すると、わんわん泣きながら玄関に行く妹は、あろうことか――。


「お兄ちゃんが怒って投げたら壊れたぁ! お兄ちゃんが壊したぁ。アサが遊ぶの出来ない……わぁ〜」


……は? 何言ってんだ、こいつ……。


すると、騙された祖父母は――。


「なら買いに行こうか」と抱き上げる。

「うん、アサに買ってくれるのぉ?」

「そうよ、アサちゃんに買ってあげるよ」と言いながら玄関から出ていった。


「アサにぃ?」

「そうよ、アサちゃんに……」と祖母様……。


……そう言ったら、俺……遊べない……じゃん?


そんな事を思いながら玄関を見ていると、俺は見逃さなかった。

あの勝ち誇った笑みを――。

扉が閉まる直前に見せた……勝ち誇った、あの笑みを……。


結局、俺は、あれからDSというものを触った事がない……クソっ。


だから、いいように可愛く描いている妹の漫画やアニメは、俺は嫌いだ。



「お兄ぃね、1球だけしか投げなかったんだって。それでゲームセット。めでたくコールド負けでした〜だって、わはははは」


こいつ、腹の底から笑ってやがる。

……クソっ。


「ん? なんで?」


母さんが不思議そうに言葉にして、

冷蔵庫を開けた状態で、麻婆豆腐を取ろうとしている俺を見てきた。


……まぁ、仕方がない、状況を説明しよう……。


確かに、あの時、振り切って投げた球は、

指先から離れる瞬間まで、特に何も考えず、いつも通りだった。


……“速かった”とは言われたが、

それが、どうなのかは、わからない。


ただ、バッター……は誰だっけ?

4番ってのはわかっていたけど……。


……まぁ、そいつが見送り、キャッチャーミットにボールが収まった時、左側――セカンドを守っている戸谷が叫んでいた。


「サード!」


その言葉に、3塁を見ると、3塁走者が慌てて戻り、キャッチャーの坂上が、3塁へとボールを投げる。……が。


……なんと、その球は、見事に走者の頭に当たり、3塁ファウルグラウンドを転がっていった。


……。ただ見ているだけ、だっただけど、……?


ボールの当たった3塁走者は、いったん3塁に戻ってからボールの行方を追い、てんてんと転がるボールを見てから、再び本塁へと駆け出した。


転がったボールをカバーに入っていた健斗が捕り、ホームへと投げたが、今度は、滑り込んだ走者の背中にボールが当たり、

そのボールが俺の目の前に来た時、アンパイアがゲームセットの声を上げた。


――って、これが、俺の公式戦初出場で引退試合の、濃すぎるゲーム内容であった。

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