第18話 夕暮れの手と影
トイレから戻ると、姉はベンチのそばで、紙袋を抱えて待っていた。
「もー、ユウ君、遅い!」
「ごめん、ちょっと時間かかった」
頭を軽く下げると、姉はにこっと笑った。
顔を向けると、いつも通りの明るさで手を振る。俺はつい目を細めて頷く。
「じゃあ、続き、行こっか!」
紙袋を抱えたまま腕を差し出す姉に、迷ったように手を重ねる。握ると、柔らかさと少しの温もりが指先に伝わる。手をつないだ瞬間、少しだけ背筋が伸びる気がした。
「よーし、行くよ! こっちこっち!」
姉は元気いっぱいに歩き出す。
俺も歩幅を合わせて後ろからついていく。
後ろに引かれるような気持ちと、少し照れくさい気持ちが混ざる。
モールの中、カラフルな店の陳列棚や流れるBGM、買い物客のざわめき。
でも自然に目が行くのは姉の姿ばかりだ。
「ユウ君、これどうかなぁ~?」
紙袋を揺らして嬉しそうに見せる。
「お、これ前話してたやつだよね。俺も気になってたんだ」
「でしょー! 見つけたとき、すぐユウ君に見せたくなっちゃった」
姉の声がはっきりしていて、自然に返事を考えながら口にする。
「ねぇねぇ、こっちも見てみる? あ、ユウ君、この色もいいかも!」
紙袋から品物を次々取り出す姉。手をつなぎながら歩くと、動作の一つひとつが自然に目に入る。
「そうだな。」
普通に言葉を返すと、姉はにこっと笑った。
小さなやり取りのはずなのに、視線が合うと、つい顔が緩んでしまう。
「ユウ君、こっちはどう? 色違いも試してみようよ!」
「おー、確かに良さそう。」
「そうそう、前にユウ君が話してたやつも見つけたよ! ほら!」
「こんなところにあるんだ。ありがとう」
姉は嬉しそうに紙袋を揺らす。肩を軽くぶつけてくる無邪気さに、つい小さく息をついた。
「こっちも見たい?」
「試してみようかな」
短くても、自然に会話になっている。姉が元気に引っ張るので、つい合わせてしまう自分がいた。
モールを抜けると、夕暮れの光が街を赤く染め始める。建物の影が長く伸び、二人の影も自然に寄り添う。
「そろそろ帰ろっか、ユウ君」
「うん、ちょうどいいくらいだな」
手を握ったまま歩くと、夕方の風に髪が揺れ、少し照れくさい気持ちが残る。けれど、自然に歩調を合わせている自分に気づく。
「今日は付き合ってくれてありがとね、ユウ君」
「いや、俺も楽しかったよ」
「ユウ君、こうやって歩くと大きくなったなーって思うよ。ちょっと恥ずかしいくらい」
「そうか?」
「もちろん! お姉ちゃん、ちゃんと見てるんだから」
「そう言われると照れるな」
自然な会話の中に、少し笑いも混ざる。姉と並んで歩く時間は、いつもより少し特別なように感じる。
街路樹の影が長く伸び、建物の窓に夕陽が反射する。姉は元気いっぱいで、歩く姿も軽やかだ。
「ねぇ、学校ではちゃんとご飯食べてる?」
「うん、平気だよ」
「ふーん。お姉ちゃん、心配になるんだから!」
「気にしすぎだろ」
「ふふっ、そういうところも可愛いけどね」
自然に手を握り返す。言葉少なでも、歩くリズムが自然に合ってくる。そしてそのまま帰路までの道を歩く。
――その時、俺たちの姿を遠くから見つめる影があったことに、まだ俺は気づいていなかった。
「……悠斗…どうして… 」
新作作りました。良かったら読んで欲しいです
「いつまでも冷たい彼女に別れを切り出してから、彼女の様子がおかしい。」
姉をヒロインレースに入れるべきか否か…
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