大丈夫、なんとかするから……
ネコカフェ『Kitten’s Garden』でのひと時は、僕にとっては夢のような時間だ。けど、それが終わってしまうと嫌な現実が待っている。
そんな僕の陰鬱な心情を表すかのように雨が降りしきる今日の学校を、僕は神経をすり減らしながら過ごしたのだった。
学校に行きたくないと思っている自分がいる。
一方で、『行きたくない』と言ったらお父さんとお母さんに要らない心配をかけてしまうと思っている自分がいる。
……僕が我慢すればいいのだから……。
そうやって自分の感情を押し込め、ちょっとしたことにビクビクし、何も無かったことにホッとする学校生活。
長かった授業が終わり、朝よりも激しくなった雨の中を傘を差して帰路に着く───
事件が起きたのは、そんな帰りの途中だった。
「──!」
「~~!」
「……? なんだろう……」
帰る途中にある公園のほうから、何人かの笑い声が聞こえてきたのだ。
こんな雨の日に公園で遊ぶ人なんて居ないだろうし……こういった喧騒にいつも気を張っていた僕は、ついそちらに意識を向けてしまっていた。
見れば、そこに居たのはいつも僕を虐めてくる男子が三人、何かを取り囲むようにして笑いあってる姿があった。
「っ……」
その姿を見た途端、僕は心臓がきゅっと締め付けられるような感覚に陥り、同時にまだこちらに気付いていないことにホッとする。
このままバレないように通りすぎれば、彼らと関わらなくて済む───
そうして傘で顔を隠すようにして公園の前の道を通りすぎる……その瞬間だった。
「ミィッ───」
「っ……!」
微かに聞こえてきたのは、弱々しいネコの声。反射的に顔を上げ声のした方を見ると、三人が取り囲むその地面には、雨で慣れた小さな子猫が横たわっていたのだ。
それを見た瞬間、僕の身体は動き出していた。
あの三人のことは怖い。
また悪口を言われるかもしれない。
気に入らないと殴られるかもしれない。
けど、僕は思ったのだ。
『絶対にこの子を助けないと』と───
「やめろっ……!」
「あっ……?」
「あれ、
弱りきっている子猫に手を伸ばすそのクラスメイトの元に駆け寄った僕は、立ちはだかるようにして声を上げた。
子猫を虐めているらしい場面を見られたからか、一瞬だけ焦ったような表情を浮かべたその三人は、声をかけたのが僕だと分かった瞬間に、まるで『なんだ、お前か』と言いたげにニヤニヤと笑みを取り戻す。
体格も大きく、性格も荒い彼らを前に、膝が小刻みに震えている。けど、逃げない。この子を助けないと……!
「やめろよっ! ね、ネコが可哀想だろ……!」
「何言ってんだよ
「そうそう。ここに捨てられてたみたいだし、遊んでやったことに感謝して欲しいぐらいだな」
「まぁ、そろそろ元気無くなってきてつまらなくなってきたけど」
子猫の首の後ろを掴んで持ち上げたクラスメイトは、その子が鳴き声すら上げないと分かるや、まるでゴミでも捨てるかのように視線の高さからパッと手を離したのだ。
「ダメッ……!」
それを見た瞬間……僕は反射的に傘を投げ捨て、両手で子猫を受け止めて胸に抱き止める。
びっしょりと濡れている子猫は、生きてはいるようだけど……小さく震えていてぐったりしている。
どうして……どうしてこんなことを……!
「お前たち許さないぞ……!」
「はぁ? 許さないってなんだよ。だから遊んでやっただけじゃん」
「お前みたいな女子みたいなのに凄まれても怖くないって」
「ぎゃははははっ!」
「っ、うっ……!」
肩を強く押された僕は、バシャッと音を立ててお尻から地面に倒れ込む。子猫を抱いているのだ。受け身なんて取れるわけがない。
「あーあ、びしょ濡れじゃん」
「まぁいいや。つまらなくなったしそろそろ帰ろうぜ」
尻餅をついた状態で彼らを睨み付けるも、三人はどこ吹く風。むしろ『邪魔が入ってつまらない』と言いたげに舌打ちして、そのままどこかへ行ってしまったのだった。
助かった───
そんな風に安心した途端、じわりと涙が溢れてくる。いつもならこのまま家に帰って泣き晴らすところなんだけど……今日はそうも行かないのだ。
「ミィ……」
「もう大丈夫だからね……もうこんな思いさせないから」
寒そうにしている子猫を暖めるように、服で包んで懐に抱き込む。
とは言え僕もびしょ濡れだし、傘も手放しちゃったから雨が当たって───
「クシュンッ……!」
寒っ……!
どうしよう、このままだと僕も風邪引いちゃうし……でも今日はお父さんもお母さんも遅くなるって言ってたし……。
何より、ネコの看病のやり方が分からない……!
「ミィッ、ミィ……」
「んっ……大丈夫、何とかするから」
少しでも落ち着いて貰えるように、子猫を撫でながら優しく声をかける。
……ネコのことなら、誰よりも詳しいお姉さんたちがいる。
僕だけじゃどうにもならないなら、お姉さんたちに助けてもらわないと……!
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