異世界たこ焼き

梅チップ

第1話:転生たこ焼き屋、開店!



「……え、ちょ、待って。ここどこだよ」

草の匂い。土の湿り気。やけに青い空。

俺は気づいたら、藁屋根だらけの村の真ん中に突っ立っていた。


足元には――鉄板。

分厚くて、黒光り。俺の人生を象徴するかのような無駄に重厚な鉄の板。


「おいおい、夢か?いや、悪夢か?」

独身32歳、童貞、自称“たこ焼きマスター”。

……なのに、転生先で与えられた武器が“鉄板”ってどういうセンス!?


――ふいに、耳元で笑い声。

「お前のたこ焼き、神すら恋しくてな」


振り返ると氏神みたいなのがふわっと浮いてた。

頭に笹生やしてる。笑顔が腹立つ。


「は?いやいや、俺ラーメン派って言われてきたけど!?」

決め台詞を思わず叫ぶ。

「――はい、3杯目!」


……通じねぇ。村人の顔がぽかんだ。



---


「では、焼いてみせよ」

氏神が鉄板を指差す。

……無茶ぶり。だが、俺に拒否権はない。


カラン、と鉄板に玉杓子を置く音。

カチリと火が入る瞬間――


――ジュウウウウウッ!!


爆ぜる油!舞う白煙!光が揺らぐ!

あまりに神々しい熱光で、村人たちが一斉に悲鳴をあげた。


「悪魔の板だああ!!」

「呪術か!?呪術なのか!?」

「見ろ、黒い丸い物体が……転がってる!」


おい、それタコの切り身だから!

丸いのは俺の指じゃねぇから!!



---


鉄板ギャグ、炸裂。

ひとりの村人がうっかり鉄板に触れる。


「……あちちちちちちちち!!!」

両手を振り回して村を一周。なぜか拍手が起きる。

いや、お前らのリアクションの方が呪術だろ!



---


――ズドン!!


突然、たこ焼きの山が鉄板上で爆ぜた。

ソースが火柱みたいに立ち昇る。

村人たち、全員気絶。


「……え、俺の初仕事。ギャグ爆発で村壊滅ってこと?」

頭を抱える。涙目。



---


その時。

……声がした。


『兄ちゃん……もっと焼いて』


幻聴。いや、弟の声。

10歳で病弱だった弟。俺の作るたこ焼きだけは笑って食った。


――胸が熱い。

「……しゃあねぇな」

鉄板を握り直す。


俺はまだ焼く。弟のために。

そして――家族の味のために。


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