絆戦機バンドリンカー

緑野くま

Chapter1 再会の日

1-1

西暦21XX年4月 日本 東京


「ユウ、おいユウー!」


日の光が輝く午後12時。昼食の準備をしていた少女、虎牙こが 優輝ゆうきは自分を呼ぶ声に反応した。


「おう、なんだよ」

「四宮がユウのこと呼んでたぜ。お前がまた学校の外で喧嘩したとかで」

「げ、四宮かよ。アイツキレてた?」

「キレてたっつーか、呆れてたぜ。こんだけ喧嘩に巻き込まれるって何してんだってよ」

「知らねえよ、アタシから吹っ掛けたわけじゃねえし。それにアレは喧嘩っつーより道場破りに来たんだよ。だから返り討ちにしてやった」

「道場破りって、そういやお前の家空手道場だったな」

「ああ。今時古いんだよ…。とにかく行ってくるわ」

「おう、健闘祈るぜ」


ユウは生まれた場所も相まって、幼い頃から空手を習っていた。親譲りのセンスもあったのだろう、才能を開花させ、現在は格闘技の強豪校でもある東京CITY学園のスポーツ科の生徒となっている。


(あー腹減った…、四宮の説教長えんだよなあ)


教師である四宮の説教が終わった後、ユウは廊下をトボトボと歩いていた。何も四宮の説教はこの一度だけではない。ユウが学校の外部で何かの騒ぎ(まあ主に道場破りなのだが)を起こすたびにこうなっているのである。


ユウが自身の弁当箱を探していると、後ろから「虎牙さん」と声をかけられた。ふと振り返ると、そこにはクラスメートの女子2人が立っていた。


「どうした?」

「あの、お昼ごはんまた一緒に食べない?」

「ああ、いいよ。いつもの場所か?」

「うん!一緒に行こう」


弁当箱を取り出し、すっくと立ちあがるとクラスメートの顔が自分の目線よりも少し下に映る。まあ無理もない。ユウの身長は周りの女子よりも一回り高いから自然とそうなってしまう。コンプレックスという訳ではないのだが、周りからは「圧が凄い」なんてこともよく言われている。


おまけに自身の荒っぽい部分も考えれば、周りから避けられていてもおかしくはなかったのだが…それでもこうして声をかけてくれる人がいるという事実に、ユウは内心ホッとしていた。


「虎牙さん、また喧嘩したみたいな噂聞いたんだけど…大丈夫?」

「喧嘩じゃなくて道場破りな。道場破り。別に大した事ねえよ」

「怪我とかしてない?」

「怪我はねえな。アイツら大したこと無かったし」

「今時道場破りする人とかいるんだねえ…」

「ほんとほんと。何がしたいんだかわかんないよ」

「…多分だけど、アタシの家の道場が欲しいんだろうな。ここらへんでデカい道場はうちだけだと思うから」


なんてことのない、普通の会話だった。晴れていて気温も丁度良い日は屋上に行ってこうして昼食をとっている。平和な一日だった。こんな日が毎日続けばいいのにと思ってしまう位には。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまー」

「ごちそうさんっ」


会話していたはずなのに、いつの間にか昼食を食べ終わっていた。なんだかあっという間なような気がした。時々一人で食べているときよりも早かったかもしれない。早食いをしている訳ではなかったのだが…時間も忘れてしまうほど会話に夢中だったのだろうか。


「食べ終わったしとりあえず戻るか」

「そうだね。虎牙さんは授業まで何するの?」

「アタシは…教室にいるよ。休めるときに休みたいしな」

「そっか、今度空手の大会あるんだっけ」

「ああ」


弁当箱をしまっている間、そんな会話をしていた。空手の大会自体は幼い頃から出ていた。それなりにいい結果をとったつもりではある。でなければ今この学校に通うことなんてできていないのだから。


教室に戻ったユウは、スマホを起動して動画サイトを開いた。検索をかけ、再生したのは空手の試合…正確に言うと、実戦空手の試合だった。今こそ大会が近いから空手中心に見ているが、格闘技ならば何でも好きだった。なんだったら時々見よう見まねでそれっぽい動きを練習するときもある。


…今は亡き父も、こうして他競技の研究をしていた人だった。母からはそういう所が似ていると言われたこともある。こんなところも父から受け継いだ部分なのだろうか。まあ、別に悪い気はしない。


しばらく動画をボーッと見ていると、学校のチャイムの音が鳴り響く。どうやら次の授業の数分前になったらしい。ユウは「やべッ」と声を上げた後、急いで体育館へと向かった。




「なんか聞こえない?」

「聞こえるって、音楽か?」

「そうそう」


午後の始めの授業にて、自分たちの番を待っているユウとクラスメートの耳に微かに聞こえてきたのは、とある音楽だった。


「普通科の音楽の授業かな。なんだろう、この曲どっかで聞いたことあるような気がするんだよなあ。何だったっけ…」


クラスメートが音楽の正体に首を傾げている中、ユウは、ハッとしてその疑問に答える。


「これ確か、ミュージカル映画の音楽だ。結構古いやつだった気がするけど」

「あ、思い出した! 中学生の時に音楽の授業でこの映画見たかも」


クラスメートが記憶を掘り起こせた後、ちょっとした疑問がユウに向かう。


「ユウって、こういうの知ってるんだね」

「こういうのって?」

「音楽。しかもミュージカル映画って、ユウが見ているイメージなくて…」

「んー確かに自分からは見ねえな。ただ…」

「ただ?」


クラスメートの問いかけにユウの口から出たのは、彼女にとってはある意味懐かしい記憶のものだった。


「アタシのダチに音楽好きなやつがいてさ。そいつから教えてもらった」

「へえ、その子この学校にいるの?」

「いや、エレ女にいる」

「エレ女ってお嬢様学校のエレ女!?」


ユウはクラスメートの驚いたようなその問いに「おう」と返した。ただ…それ以上の答えは返せない。その友人がエレ女に行って以来、お互い顔を合わせていないのである。別に不仲になった訳ではない。タイミングがどうしても合わないのだ。


(マナ…あいつ今何してんのかな)


見上げたその視線に映る天井が、何故か遠くにあるように感じた。







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