三部 海中スラム編

再会の宴

「カイン!カインなのか?」


「ああ、そうだよ。ジョイル会長も、元気そうで何より」


 ジョイル会長は、少し老けたように見える。


「もうおらぁ会長じゃねぇよ。会長はあの子だ」


 そう言うとジョイル会長はデリーナを指差した。


「私は、デリーナ会長よ」


「嘘でしょ!?」


「ほんとさ」


 デリーナは誇らしげに言った。


「さあ、今日は宴ね!カインが返ってきたんだもの!さあ、準備して!」


 デリーナがそう言うと、周りはそれに答えるように動き出した。


「あの頃と、皆変わらないね」


「……そう見せているだけだ」


 ジョイルは曇った顔でそう言ってその場を去った。


 海の中は、昔と違って静かだ。


 ここ、海中都市も、静寂の中に丸く収まっている。


 かつて存在した魚達は、皆人々、またAI達によって殲滅させられたのだろう。


 静けさが、耳に虚しく残る。


 暫くして、出てきた食べ物は質素だが、量は多い。


「よっしゃ!宴だ!」


 人々は小さなパンをかき集めては、それをありがたそうに食べていた。


「これが……宴ですか?」


「おうよ!こんなに食える日、年に何回かだぞ!」


 考えてみれば、ジョイルもデリーナも、みんな痩せこけていた。


「ということで、楽しい宴といきたいところだがなぁ。カインにあれからの状況を話そうと思う」


「私に話させて」


 デリーナはパンを飲み込むとそう言った。


 一瞬、静かな沈黙に飲み込まれそうになった。


「対AI戦争に負けてから私達はAIに支配されたわ。こうやって瓦礫の下にたくさんの人々が、まだ埋もれていると思う」


 デリーナの声は震えていた。


「海中都市で、作物を育てる事は出来ないわ。昔から、食料調達はAIの仕事だった。でも、あの戦争のあとAI達は、私達に食べ物を分けてくれたの。この土地を破壊した後にね」


「だからな、少量の食べ物をAIから貰ってはそれで生活しとる。まあ、餌付けされているようなもんじゃろ」


 ハルクじいさんはそう付け加えた。


「皆すまん、こんな雰囲気にさせてしもうた。さあ、宴を楽しむぞ!」


 ハルクじいさんの声で、皆は盛り上がったが、やはり昔のような心からの喜び、嬉しみはなく、やはり目の奥には暗い何かがあった。


「雰囲気を壊すようで悪いんだけど……みんなは、なんでまだそうやって元気にやろうとするの?」


 デリーナは笑った。


「私達にはね、夢があるのよ。小さな夢。それは、また昔みたいにみんなでビルの隣で笑い合えること」


「いつか、また太陽の下に行ってみたいものじゃ。みなで」


「ああ」


 全員が頷いていた。


 あの頃に戻りたいという気持ちは変わらない。


 そんな小さな希望の中で、一生懸命生き抜いているんだ。


「ごめん、ありがとう」


「カイン!食え!」


 ジョイルは俺の背中を叩いた。


「わかってるよ」


 全て変わってしまったけれど、あの頃に戻ったようで、楽しかった。


 そんな笑顔の俺を、リズは横目で見ながら、複雑な感情を抱いていた。


 しかし、リズ自身がその感情の意味を理解することはできなかった。

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