第6話: ステップ3「受け取る段階」第4の呪文〜LOVE ANALYTICS β v1.5 引きの魔術と逆転の法則~

 月曜日の朝、拓海のアパート。



『LOVE ANALYTICS β v1.5 アップデート完了』


『ステップ2完了:アドバイス・シーキング効果により看護師系萌えを獲得』


『次段階:ステップ3「受け取る段階」を開始します』




 拓海(心の中):「ステップ3...ついに中盤戦だ」




『ステップ3:受け取る段階実行開始』


『別名:引きの魔術・第4の呪文』


『高山昌木教授の理論より:「押してダメなら引いてみろ。心理的リアクタンス理論と希少性の法則を組み合わせた高等戦術だ。ただし、


 引きすぎて120人に忘れられた私のようにならないように」(著書『沼らせテクニック120』より)』


『理論:これまでの「押し」から「引き」に転換し、相手からのアプローチを誘発』


『効果:美咲さんに「この人を支えたい」という利他的行動欲求を植え付ける』


『戦略:距離を置いて不安にさせ、逆にアプローチさせる』




 拓海(心の中):「引きの魔術...今度は距離を置く作戦?でも美咲さんともっと親しくなりたいのに...」




『重要:本日より3日間、美咲さんとの接触を最小限に抑えてください』


『効果予測:不安→心配→自発的アプローチの心理パターンを誘発』




 拓海(心の中):「3日間も美咲さんと話さないなんて...でも第4の呪文を信じるしかない!」




 火曜日、会社。




 拓海は意識的に美咲を避けていた。廊下で会っても軽く会釈だけ、昼休みは別のフロアで食事。




 美咲(心の中):「あれ?田中さん、最近話しかけてこないな...猫耳の件、笑いすぎちゃったかな?」




 水曜日、昼休み。




 美咲が拓海のデスクに近づいてきた。




「田中さん、お疲れ様です」




「あ、美咲さん。お疲れ様です」




 拓海は素っ気なく返事をして、すぐに書類に目を戻した。




 美咲(心の中):「なんか冷たい...最近のマクロ相談の件で、やっぱり変な人だと思われたのかな...」




「あの...何か私、変なこと言いました?」




『緊急事態:予想外の展開』


『美咲さんが自分を責めている』


『引きの魔術が逆効果になっている可能性』




 拓海(心の中→パニック):「え?美咲さんが自分を責めてる?そんなつもりじゃ...」




「いえ、そんなことないです。ちょっと忙しくて...」




 美咲(心の中):「忙しいから冷たいの?でも前は忙しくても優しかったのに...」




 美咲が去った後、AIが警告を出した。




『戦略修正が必要です』


『美咲さんの心理状態:不安70%、自己嫌悪20%、混乱10%』


『このままでは関係破綻のリスク...』




 木曜日、昼休み。




 美咲が再び拓海のデスクに来た。今度は心配そうな顔をして。




「田中さん、体調大丈夫ですか?最近元気がないみたいで...」




 拓海(心の中→驚愕):「え?体調を心配してくれてる?これって...」




『予想外の成功:引きの魔術が想定外の効果を発動』


『美咲さんの心理:心配85%、看護欲90%』


『利他的行動欲求が覚醒中』




「いえ、大丈夫です...」




「無理しないでくださいね。何か悩みがあるなら、相談に乗りますから」




 美咲が優しく微笑む。




 拓海(心の中→混乱→希望):「あれ?これって理論通りじゃない?距離を置いたら、逆に美咲さんが俺を心配してアプローチしてきた!第4の呪文、まさかの大成功?」




「実は...」




 拓海が意を決して口を開いた。




「少し疲れてて...美咲さんに元気をもらえませんか?」




『緊急!:アドバイス・シーキングと受け取る段階の融合技』


『美咲さんの表情:母性本能100%覚醒』




「もちろんです!今度の土曜日、お時間ありますか?」




 美咲が積極的に提案してきた。




 拓海(心の中→大興奮):「え?!美咲さんから誘ってくれた?逆転した!完全に立場が逆転してる!」




『史上初:引きの魔術により美咲さんがアクティブ化』


『好感度:+15.7%(心配系+看護系+母性系のトリプル効果)』


『恋愛成功率:25.3%→41.0%に大幅上昇』




 拓海(心の中):「41%!!遂に40%越え!引きの魔術...恐るべし第4の呪文!」




『本日のデートプランを提示します』


『これは10,000回のランダムサンプリングによるシミュレーションに基づき、恋愛成功確率が最大となる「神プラン」です』


『参考:ラスベガスでは核実験の代替手段として生まれたこの手法、今やあなたの初デートを救います』




 画面には、分刻みの完璧なスケジュールが表示されていた。




【AI推奨・神デートプラン】


  14:00-16:15 映画『データ越しの君』鑑賞(座席:J10, J11。黄金比φ=1.618に基づく視線角度で最適化。ポップコーンの共有確率67%)


  16:20-17:00 映画館隣の『カフェ・ルブラン』で感想会(カフェインによる覚醒効果で会話のラリー継続率+30%。BGMのテンポ120bpmが最適)


  17:00-17:45 代々木公園の夕焼けが見えるベンチへ移動(太陽高度角15度、レイリー散乱による赤色光がロマンチック指数を92%向上)


  18:00-19:30 隠れ家イタリアン『クオーレ』でディナー(テーブルクロス色:白。色彩心理学上、相手への信頼度+18%。パスタの選択を推奨。麺をすする行為による親密化効果あり)




『補足:このプランは、かつて高山教授がケーブルTVの深夜番組「恋愛サイエンス」(視聴率0.3%で打ち切り)で提唱したものの、実践デートで「夕焼けの最適タイミングにこだわりすぎて相手に置いていかれた」という失敗事例No.92を改良したものです』




 拓海(心の中):「視聴率0.3%で打ち切られた番組の改良版!?しかも実践で失敗済みって…本当にこのプラン、神なのか…?」




 拓海(妄想中):「完璧なプランに沿って、俺は美咲さんをスマートにエスコート…『田中さん、黄金比的に素敵なお店ですね』なんて言っちゃって、『えっ、黄金比って何ですか?』『実は…フィボナッチ数列の…』ってウンチクを語る俺に美咲さんはうっとり。ディナーの後、公園の帰り道で…『田中さん…数学って素敵ですね』って見つめられて、そのまま自然に…数式的にキス…」




「田中さん!」




 妄想のクライマックスで、現実の美咲さんの声がした。


 振り返ると、白いワンピース姿の美咲が、少しはにかみながら立っていた。今日の拓海も気合いが入っている—普段の紺スーツではなく、明るいグレーのジャケットに白いシャツ、ダークネイビーのスラックスという、データアナリストには珍しいお洒落なコーディネートだった。




 拓海(心の中):「うわっ…今日の美咲さん、天使か…?白ワンピースって…完全にデート用の勝負服じゃん…!ファッション工学的に言えば、白色の光反射率85%による清純度ブースト効果が…」




「お待たseしました」




 拓海(心の中):「あ、噛んだ!可愛い!これは緊張による言語野の混乱現象…脳科学的に好意の証拠では…!」




「いえ、僕も今来たとこです!」




 拓海は、AIのプラン通り、完璧な第一声を発することができた。




 AIが指定した「黄金シート」に並んで座る。J10とJ11。ひじ掛けに置いた腕が、触れそうで触れない距離にある。




 拓海(心の中):「ち、近い…!美咲さんの体温が伝わってくるようだ…!」




 やがて照明が落ち、スクリーンに『データ越しの君』のタイトルが映し出された。




 映画の序盤、主人公の健人がデータに基づいてヒロインの結菜をぎこちなくデートに誘うシーンで、隣の美咲が「ふふっ」と小さく笑うのが聞こえた。




 拓海(心の中):「笑った!今の笑いは、主人公と俺を重ねて、『田中さんみたいで可愛い』って思ったからに違いない!」




 拓海(妄想スタート):「『もう、健人さんって不器用なんだから』って言いながら、結菜が健人の手を握るシーンで、美咲さんが俺の手をぎゅっと握ってきたりして…!『田中さんも、不器用ですもんね』なんて耳元でささやかれたら…俺、心臓止まる…!」




 物語が進み、健人と結菜がすれ違い、AIが「二人の出会いはバグだった」と告げるクライマックス。健人が絶望し、結菜が涙を流すシーンで、拓海は隣の美咲の様子をそっと盗み見た。




 美咲は、スクリーンをじっと見つめている。その大きな瞳にはうっすらと涙の膜が張り、やがて一筋の雫が頬を伝った。




 拓海(心の中):「美咲さんが…泣いてる…」




 拓海(妄想クライマックス):「そうだ、こんな時のために、アイロンがけしたハンカチをポケットに…!俺はそれをスマートに取り出し、『どうぞ』って美咲さんに差し出すんだ。『…ありがとうございます』って涙声で受け取る美咲さん。そして、感極まった彼女は、俺の肩に、そっと頭を預けてくる…!」




「うわああああ!肩!肩に美咲さんの頭が!シャンプーの甘い香りが俺の理性を麻痺させる…!俺は心臓バクバクだけど、平静を装って、ゆっくりと…ゆっくりと美咲さんの肩に腕を回して…抱き寄せる…!」




 ――と、そこまで妄想した瞬間。




 現実の拓海は、焦ってポケットを探った。


「(ハンカチ、ハンカチ…!)」


 しかし、慌てたせいでハンカチは指から滑り落ち、床に落ちてしまった。




 拓海(心の中):「あぁ!重力加速度9.8m/s²に負けた…!ニュートンの法則が俺の恋を邪魔するなんて…!」




 拓海が静かにそれを拾い上げている間に、美咲は自分の指でそっと涙を拭っていた。


 そして、ごそごそしている拓海に気づき、少し赤くなりながらも、優しく微笑みかけた。




 拓海(心の中):「だあああ!妄想の中の俺は完璧だったのに!現実の俺は摩擦係数すら計算できないポンコツだ…!」




 だが、その微笑みは、拓海の失敗を責めるものではなく、むしろ彼の不器用な優しさを理解しているかのように温かかった。




 映画が終わり、明るくなった場内で、二人はしばらく言葉なくスクリーンを見つめていた。




「…なんだか、私たちの話みたいでしたね」


 美咲が、少し潤んだ瞳でそう言った。




 拓海(心の中):「だよな!?あまりに都合よく出来すぎてるだろ、この偶然!まるで、僕らのために用意されたみたいな脚本じゃないか…!」




「ええ、本当に…」




 拓海は、AIのプランにはなかった、心の通い合いを確かに感じていた。




 カフェへ向かう。


 AIの指定した『カフェ・ルブラン』はすぐそこだ。




 しかし、その時だった。


『カフェ・ルブラン』の扉に「本日、貸切営業」の札がかかっていた。




 拓海(心の中):「なっ…!貸切!?AIの神プランにない事態だぞ!」




『緊急事態:ブラックスワン事象発生』


『プランA(カフェ・ルブラン)実行不可能』


『代替案を検索中…統計学者タレブが指摘した「予測不可能な稀な事象」に直面しています』


『カオス理論により:初期条件のわずかな違いが全体に巨大な影響を…バタフライ効果の発生を確認』




 拓海がパニックに陥っていると、美咲が隣の店を指差した。


 そこは、ふわふわのパンケーキが名物の、可愛らしい内装のカフェだった。




「あ、田中さん!あのお店、すごく可愛い!あそこに入りませんか?」




 拓海(心の中):「パンケーキ!?プランにない!未知の変数だ!もし、俺がメープルシロップの粘性係数を計算ミスして美咲さんの白ワンピースにこぼしたら…?『もう田中さんのニュートン流体理論なんて知りません!』って泣いて帰られたら…!」




『警告:代替案『カフェ・シュシュ』の恋愛成功率は未学習データです』


『推奨:近隣のチェーン系カフェ(ベイズ推定により成功率62%)へ誘導してください』


『参考:トーマス・ベイズの18世紀の定理が、今あなたのデートを左右しています』




 AIが警告を発する。しかし、拓海の目に映るのは、パンケーキの看板をキラキラした目で見つめる美咲の横顔。


 ――そうだ、A/Bテストの時、俺は学んだはずだ。




 拓海はスマホの通知をそっとオフにした。




「いいですね!すごくおいしそう。そこに入りましょう!」




 パンケーキカフェでの時間は、予想外に楽しかった。


「どのパンケーキも美味しそうで迷いますね」「田中さんは甘いもの好きなんですか?」


 AIの用意した会話テーマリストにはない、自然で、とりとめのない会話。でも、それが心地よかった。




『データ収集中:未知のカフェでの会話パターンを記録』


『興味深い観測:砂糖によるセロトニン分泌が会話のシナプス結合を促進している模様』


『追記:パンケーキの円形構造が会話の和やかさに与える心理的影響を検出…ユング心理学の「円環の象徴性」と一致』




 カフェを出て、公園へ向かう。


 夕焼けには少し早いが、心地よい風が吹いている。


 すると、どこからか軽快なギターの音色が聞こえてきた。


 道の先で、ストリートミュージシャンが弾き語りをしている。多くの人が足を止め、手拍子をしていた。




 美咲が、吸い寄せられるようにそちらへ歩き出す。


「わあ、すごい!ちょっと聴いていきませんか?」




 拓海(心の中):「ストリートライブ…!これもプランにない…!AIによれば、太陽高度角15.7度で最も美しい夕焼けが見られる17時23分なのに…!」




『警告:天体力学計算による最適ロマンチック・タイミング(夕焼け黄金時間)を逸する可能性93.2%』


『補足:ケプラーの法則に基づく軌道計算が無駄になります』




 でも、楽しそうに手拍子をする美咲の笑顔を見ていると、どうでもよくなった。


 拓海も隣で一緒に音楽を聴き、自然と体がリズムを刻んでいた。




 そして、いよいよディナーの時間。


 AIが「成功率89%」と太鼓判を押す、隠れ家イタリアン『クオーレ』へ向かう。




 拓海(心の中):「よし、ここまではプランから外れたけど、結果的には楽しかった。最後は鉄板のイタリアンで完璧に締めくくるぞ!」




 その時、美咲がふと足を止めた。


 視線の先にあるのは、赤提灯が灯る、賑やかな大衆居酒屋だった。




「田中さん…なんだか今日、イタリアンって気分じゃないかもしれません…」




 美咲が申し訳なさそうに言う。




「あそこの居酒屋…すごく楽しそう…なんて」




 拓海(心の中):「い、居酒屋ァァァァ!!!」




『超緊急警告:初回デートにおける居酒屋選択は、失敗確率を45%上昇させます!』


『根拠:フランチャイズ・アンド・マーケティング研究所の2019年調査により証明済み』


『ロマンチックな雰囲気の欠如(ハインツ・ケチャップの赤色が愛情ホルモンに与える負の影響)、周囲の騒音による会話阻害(デシベル測定70超過)、服装とのミスマッチ(白ワンピース×居酒屋の美的不協和音…ピタゴラス音律理論に反します)…』




 AIが猛烈な勢いで警告を繰り返す。


 白ワンピースの美咲と、煙のもうもうと立ち込める居酒屋。データ的に考えれば、最悪の組み合わせだ。




 拓海は、AIが推奨するお洒落なイタリアンと、赤提灯を期待の目で見つめる美咲を、交互に見た。


 彼の頭の中で、AIの警告音と、美咲の「楽しそう」という声が激しくぶつかり合う。




 ――でも、今日のデートで一番楽しかったのはいつだ?


 プラン通りじゃなかった、パンケーキ。予定外だった、ストリートライブ。


 全部、美咲が「楽しそう」って言ったことじゃないか。




 拓海は、ポケットの中でスマホの電源を完全に切った。




「いいですね、居酒屋!僕、焼き鳥が食べたくなってきました!」




 拓海がそう言うと、美咲は「本当ですか!?」と、今日一番の笑顔を見せた。




 居酒屋のカウンター席は少し窮屈だったけど、そのぶん二人の距離は近かった。


「このつくね、美味しい!」「田中さんも一口食べます?」


 お洒落なイタリアンでは絶対にない、気取らない会話と笑い声。




 帰り道、美咲が少し寂しそうに言った。


「今日のデート、すごく楽しかったです。私のわがままに、全部付き合ってくれて…ありがとうございました」




「わがままなんて思いませんよ。僕も、今日が一番楽しかったです」




 それは拓海の本心だった。


 今日のデートは、AIのプランから大きく外れた。でも、その逸脱こそが、最高の答えだったのだ。




(AIは、この予測不能なデートを、どう評価するんだろう…?)




 ふと気になった拓海は、美咲から少しだけ距離を取り、こっそりとスマホの電源を入れた。


 通知が、画面を埋め尽くす勢いで表示される。




『警告:逸脱率82%』


『警告:プランの崩壊を確認』


『しかし…対象の幸福度、過去最高値を記録。相関関係を再計算中…』




 そして、AIは一つの結論を導き出していた。




『結論:本日の逸脱デートにおける幸福度の積分値に基づき、以下の告白を推奨します。「僕のデータセットに、君というラベルを追加したい」』




 拓海(心の中):「僕のデータセットに、君というラベルを…?なんだそれ、斬新すぎるだろ!でも、今日の俺たちのデートを完璧に表現している言葉かもしれない…!よし、言うぞ!」




 拓海は、ごくりと唾を飲み込み、美咲に向き直った。




「美咲さん!」




「はい?」




 きょとんとして振り返る美咲。


 そのあまりの可愛さに、拓海の頭は真っ白になった。


 AIが推奨したセリフが、口から出てこない。




 そして、緊張がピークに達した拓海が、絞り出すように叫んだ言葉は――




「僕の…っ、僕のデータになってください!」




「…………え?」




 一瞬の沈黙。世界から音が消える。


 拓海は、自分がとんでもないことを口走ったことに気づき、血の気が引いていく。




 拓海(心の中):「ちがう、ちがうちがう!そうじゃない!データセットにラベルを!あああ、終わった、人生が終わった…!」




 顔を真っ赤にして俯く拓海。


 すると、美咲が「ふっ」と、小さく吹き出した。


 そして、くすくすと笑い始める。




「あははっ!なにそれ!データになってくださいって…!」




「す、すみません…!今のナシで…!」




「ううん、大丈夫」




 美咲は笑いながら、優しく首を振った。




「それって、『僕のこと、もっと知りたいですか?』じゃなくて、『僕が、あなたのことをもっと知りたいです』っていう意味で…合ってますか?」




「っ……!」




 拓海は、顔を上げられない。


 美咲の的確すぎる「翻訳」に、心臓が爆発しそうだった。




「はい、合ってます…」




 かろうじてそう答えるのが、精一杯だった。




 別れ際、美咲が小さな紙袋を差し出した。


「これ、今日のパンケーキのお礼です」




 中には、小さなサボテンの鉢植えが入っていた。


「サボテンの花言葉、『枯れない愛』なんですって。…なんて」


 美咲はそう言って、走って去っていった。




 拓海(心の中):「枯れない愛…って…」




 家に帰り、恐る恐るスマホの電源を入れる。


 AIの分析結果が表示された。




『本日のデート評価:分析不能』


『プランからの逸脱率:82%』


『しかし…恋愛成功率:52.4% → 75.8%』


『重要な学習:最適化されたプランよりも、予測不能な変数(対象の自発的選択)への柔軟な対応が、より高い好感度を生むケースを観測』


『新概念「共感型ランダムウォーク」の有効性を確認しました』


『解説:1905年アインシュタインが証明したブラウン運動のように、恋愛も予測不可能な微細な動きの積み重ねで決まることを学習』


『ブラウン運動とは:水中の花粉が分子の衝突でランダムに動く現象。完全に予測不可能だが統計的法則は存在』


『追記:量子力学の不確定性原理が示すように、恋愛において「正確な予測」と「柔軟な対応」は同時に最適化できないことが判明』




 拓海は、AIの分析結果と、机の上の小さなサボテンを、ただ黙って見つめていた。





 💡 第6話の恋愛心理学理論ネタ


  ステップ3「受け取る段階」: 4ステップの第3段階。相手からの好意や贈り物を受け取ることで感謝と義務感を生む。


  予測不能性による魅力増大: 計画通りでない展開が相手をドキドキさせる心理効果。


  共有体験の価値: 二人だけの特別な体験を作ることで絆を深める恋愛テクニック。


  柔軟性の魅力: 相手の要望に合わせる姿勢が好感度を大幅に向上させる心理現象。


  象徴的なプレゼント: 「枯れない愛」のサボテンで暗示的に気持ちを伝える高度な心理戦術。




 🎭 次話予告

 第7話「LOVE ANALYTICS β v1.6 隠れマルコフモデルと信頼の揺らぎ」 デートは大成功。しかし、美咲のプレゼントに隠された本当の意味とは?そして、二人の関係を揺るがす新たな情報が拓海にもたらされる…。




 🎓 高山教授の法則 ⑤

 引きの魔術の法則とは、「こちらが3日間距離を置くと、相手は70%の確率で『自分が何か悪いことをしたのではないか』と悩み始め、最終的に90%の確率で心配して声をかけてくる」という法則である。ただし、残り10%の確率で忘れられる。(※120回の失敗データに基づく結論)

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