第5話 バレンタインに浮かれない奴なんていねえよなあ!?

◇◇◇◇◆◇◇


 少しずつ春の兆しが見えてきた。

 とはいえまだ寒さは厳しい、二月のとある日のこと。


「男子たち、みんな浮かれてたね」

「そりゃあそうさ」


 私と遥人はるひとくんは、帰り道を歩きながら日中の教室を回想していた。


「バレンタインだよ? 浮かれない男子いる?」


 いねえよなあ!? とでも言いたげな遥人はるひとくん。


「そういうきみは、浮かれてないの?」

「べつに」


 ソッコーですん、っとした態度に変容。

 まるで演技派俳優だ。


「浮かれてない男子いるじゃん」

「灯台下暗し、だな」


 それは使い方として合ってるのか合ってないのか。

 さておき、彼が実際のところどう思っていたのか。

 それを今からあばくことになる。


「あ、あのさ、遥人はるひとくん」


 私は勇気を振り絞る。

 緊張を振り払って、遥人はるひとくんを見る。


「渡したいものがあるの」

「……!」


 彼の目がきらりと光る。

 悪くない反応、だと思う。


「はい、チョコレート」

「ま、マジか」


 無理やり落ち着いているように見えるけど、ものすごく嬉しそうな遥人はるひとくん。


「嬉しい、ありがとう。これ、まさか手作り!?」

「うん」


 あんまり料理とか作らないから苦労したけれど。

 それでも、どうしても自分の手で作りたかった。


「そういうの、大丈夫だったよね?」

「もちろん」


 念のため事前に確認していたけれど、あらためてほっとする。

 手作りはいや! という人だっているから。


「僕、実は前もって言っておこうかとか思っててさ」


 遥人はるひとくん、急になんの話だろう。


「受験前で忙しい時期だからさ、そういうのいいよって。気を使わなくてもいいよ、って。でも言っちゃうと、貰える前提みたいでなんか、ね」


 たははー、と頭を掻く遥人はるひとくん。

 言動も挙動も、なんか可愛い。


「逆に気を使ってるじゃん」

「いや、結局何もできなかったから気遣いの内に入らないでしょ」

「そういうこと考えてくれてるだけでも嬉しいかな。実際、大変だったし」

「あ、やっぱ大変だったんじゃん」

「うん。たしかに、大変だった。でもね、遥人はるひとくん」


 これだけは伝えておこうと思う。


「ちょっと無理してでも、きみのために作りたかったの」


 これは念押しだ。

 もうきっと、伝わっているとは思うけど。


「だから、その」

「つぼみさん」

「!?」


 突然両肩に手を添えられて驚く。

 彼の真剣な瞳に、私の顔が映り込んでいた。


「必ず、答えるから」

「……うん」


 あたたかな春まできっとあと少し。

 開花準備を整えた蕾たちが、春一番を待ち望んでいた。

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