第40話(終)「白小丸の朝——“今日を楽にする工房”」

朝、空気が澄んでいた。

鐘の金、木槌の木、汽笛の鉄、塔鐘の石、錠音の真鍮——五つの音が遠くで小さく、順に一度ずつ。

看板を撫で、閂に一滴。いつも通り。今日は第一部の終わりを回す。


「街じゅうを一枚標に」

レイナが広域図の縁に細い矢印を置く。医——行——議——連——夜——祭——雨——紙——塔——港——鍵——速。

「塔は写しと補助。指揮は現場。紙は道具で、主人じゃない。終わりは次を軽くする」


ベルクは旧城門の柱を指で叩く。

「第三騎士団は通り道の空を持つ。楯は十五度で楔。剣は抜かない」


フィオは器を重ね、湯気を一息だけ上へ押す。

「余白の粥は四つ角。終わりの合図はその場の音で一度。器は軽く、笑いは小さく」


ミロは童会に若草小旗と秤札、それから磨いた孔あけ具(G-15)を配る。

「半は旗ひと振り。名は穴に掛けてから」


僕は中央広場の黒い掲示板に、一枚貼った。


《一枚標・朝(RB1/終わり運転)》

一:順路——医→行→議→連→夜→祭→雨→紙→塔→港→鍵→速

二:窓——各所“二呼吸・差分一行”(白小丸で照合)

三:合図——鐘/槌/汽笛/塔鐘/錠音、いずれか“一度”

四:名——G-15に名を掛け、改めた名を列で残す

五:見せ方——S-Show Core v1.0/T-3 v1.1/角丸R八/斜め十五

六:口——白=確/若草=半/琥珀=仮(+赤三角=緊/藍口=遠半)

七:逆刻み界面——“半歩戻す口”は前面へ


下段は広く空け、改めた名はまだ空白にしておく。今日の名を、今日で埋めるためだ。


最初の拍は医。

若草半。

琥珀で二呼吸。白で確。鐘一打。

廊下の白小丸が一つ灯る。


次の拍は行。

渡り廊下の帯。名の穴に通行頭の名が掛かる。木槌一度。

白小丸が並ぶ。


議は返せる反論で名—名。塔の写しは裏→白。

連は藍口が細い橋を渡る。

夜の記録は布の下で緊→白の矢印だけ残す。

祭は影を足す。雨はためて放つ。

紙は剥→貼で息が整い、港は潮の窓に黒小三角。

鍵は開示窓で針目+担当名。

そして速。

見える×返せる×終われるを秤札に置き、白小丸を三つ並べる。

——一巡が一度で締まる。


「回さない歌・朝」

歌い手が低く回す。


さきのな、とめ

あとのな、まつ

はん(わかくさ)

こはく、ちがい

しろで、しめる

おわり、いちど


広場の四辺で、同じテンポ、同じ高さの一度が、順に回る。

急がないのに、速い。

止まれるから、速い。


青い箱が三つ、台車で運ばれてくる。

外された針は、細い封蝋で名に結ばれ、針目台帳に**×と白小丸**。

商会企画長サーレンは、胸のG-15に紐を通したまま、それを展示台へ置く。


「匣は器に戻る」

彼は短く言い、策の書き付けをR1速付録の末尾へ足した。

「策:サーレン——“負け路”の図」。

僕は薄く笑う。

敵は、道具になった。

道具は、名があれば、街のものだ。


ブランは綴り本を持って広場の端に立ち、若草半を一度。

「改めた名を置く」


ミロが列を作り、名が穴に掛かっていく。

規格局:ブラン(版長)

停止路工房:リオン/レイナ/ディオム

第三騎士団:ベルク

読み手:ラース

余白番:マルタ

市民:フィオ/ニカ/コロ/エナ/トゥール/ナカト/オルセ/ダリオ/イネス/モーラ/セレス/イヴ/ルオ/オルド/リタ

策:サーレン

監:ユーン(臨時)

——名は並び、白小丸は揃った。


木槌一度。

塔鐘一度。

汽笛一度。

錠音一度。

最後に広場の鐘一打。

五つの音が合わさって、一度になる。

誰も急がず、誰も取り残されず、誰も買わず。

売買は無効——この街の一番簡単な詩。


昼。

フィオの粥。器は軽く、塩は薄い。

ユーンが短く言う。

「詩は短く、図は太く、名は先に」

それで十分だった。


サーレンが僕の隣で粥をすする。

「速さは、人の側に置く」

「人の側に置いた速さは、長く続く」

彼は空になった器を静かに二つ重ね、器ひと重ねの合図を自分の手でやった。

それを見て、僕は初めて、喉の渇きが消えた気がした。


午後。

子どもたちが回さない歌を遊びに変える。

半→窓→白→一度の道行きで、石畳の上に白小丸の円を描く。

その真ん中に、小さく**「今日を楽にする工房」**とチョークで書いた子がいて、

僕はその字の上から、そっと同じ字をなぞった。


看板に最後の一枚を貼る。


《今日を楽にする工房——覚え書き(終)》


半は人に返すためにある


窓は違いを見えるためにある


白は次を軽くするためにある


一度は眠りのためにある


名は穴で残すためにある


速さは積でできている(見える×返せる×終われる)


若草の小旗が、風で一度だけ揺れた。


夕刻。

空が薄く変わり、白小丸の列が金色に見える。

ベルクが鞘で石を軽く叩き、楔を納める。

レイナは図の角をR八で撫で、ディオムは逆刻みの窓に布をかける。

ブランは綴り本を閉じ、木槌を一度。

ミロは旗を束ね、マルタは器を最後にひと重ね。


僕は看板を撫で、閂に一滴。

今日を楽にする工房。

文字は軽い。

速さも、遅れも、影も、鍵も、潮も、紙も、小さく割って担げる。

それを名で残す。


最後の合図。

——一度。


そして、終わり。


第一部・完

エピローグ・ハイライト


街全域をRB1/終わり運転で一巡:各所二呼吸・差分一行→白小丸→一度


サーレンは匣を展示用の器に戻し、策として**“負け路の図”**を寄稿


改めた名を街の中心に掲げ、名—名で締める


回さない歌・朝で「半→窓→白→一度」を共有


**今日を楽にする工房・覚え書き(終)**を掲示


予告(小さく)


第二部は、冬営と市場。

寒の帯/値の窓/分け合いの白。

けれどそれは、次の朝の話だ。

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