第38話「R1規格の制定——短い詩と“太い図”」

朝、紙と真鍮の匂いが混じっていた。

規格局の大広間。長机の角は丸く、壁の掲示は黒地白字で斜め十五。

看板を撫で、閂に一滴。いつも通り。今日はR1規格を回す。


「国標(こくひょう)も帯にする」

レイナが大広間の見取り図に矢印を置く。提案——公開三分——採録——告示。

「塔は写しと補助。指揮は現場。紙は道具で、主人じゃない。標準は現場で回る器」


ベルクは入口の柱を指で叩く。

「第三騎士団は傍聴通路の空を持つ。楯は十五度で楔。剣は抜かない」


フィオは器を重ね、湯気を見て頷く。

「余白の粥は端の卓。終わりの合図は木槌一度。器は軽く、視線は低く」


ミロは各都市からの代表に若草小旗と名の穴(G-15)用の孔あけ具を配る。

「半は旗ひと振り。名は穴にかけてから話す」


僕は壇前の黒い掲示板に、一枚貼った。


《R1 本体:一枚標(RB1)》

一:骨(ホネ)——黒地白字/斜め十五/角丸R八/胸台本三行(T-3 v1.1)

二:三口互換——白=確/若草=半/琥珀=仮(+赤三角=緊/白小丸=一致/黒小三角=浅/藍口=遠半)

三:名と穴——G-15:上辺中央から十五目・親指径・縁白帯/名で止め・名で開く/改めた名

四:遅れ窓——二呼吸/差分一行(S-Say1/S-Show派生に準拠)

五:逆刻み界面——“半歩戻す口”を前面へ

六:終わり——鐘/槌/汽笛/塔鐘/錠音いずれか一度+灯三瞬/器ひと重ね

七:現場付録——医/行/議/連/夜/祭/雨/紙/塔/港/鍵(既定のR付録に接続)


下段は広く空け、改めた名の列:

規格局:ブラン(版長)/停止路工房:リオン・レイナ・ディオム/第三騎士団:ベルク/読み手:ラース/余白番:マルタ。


さらに三枚。


《S-Show Core v1.0(親)》

黒地白字/斜め十五/角丸R八/余白=指二本/字級=上段太・下段中/濁り符互換。


《S-Say1(言い方標準)》

目的一/具体三/終わり。数字は太→細。名を含める。


《R1 付録の位(レベル)》

R付録=必須/S付録=見せ方/T付録=胸台本。

現場枠(椅子の材/灯の角度/二呼吸の秒数/白小丸の径……)は現場で決める。


「回せる?」

ベルクが短く聞く。

「回さない歌・標準版で合わす」

僕は頷き、ディオムは版下の刃を光にかざした。


始業。

提案の帯が立ち上がる。

若草半。R1 本体(RB1)を胸台本三行で述べ、付録の位を示す。

公開三分の鐘が合図。医/行/議の代表が二呼吸で差分を一行に置く。

白小丸が静かに灯る。

いい。今日は、いける——


青い箱が、壇の中央に載るまでは。


「規格最適匣(スケルトン・ユニファイア)」

商会企画長サーレン。黒革の手袋、目は薄い。

箱の窓で針が踊り、側面に**『完全一体/付録抑制/半禁止/名穴省略/遅れ短縮/終わり不要』。

「標準は一つで十分**。現場枠はばらつき。半は遅さ。名穴は属人。最適は統一図面の貼りっぱなし」


ベルクの眉がわずかに動く。

「停止路義務」

「中央鍵がある」

サーレンは肩をすくめる。「現場は従うだけでいい」


匣が掲示面に噛み、付録の札が灰色になって後ろへ、名穴が黒紙で塞がれ、若草が使用不可に。

遅れ窓は一呼吸に縮められる。

壁は美しい。

息は浅い。


「半!」

ブランの若草旗。

届きにくい。半禁止針が号令を吸う。

現場代表の差分一行が、挿せない。


ベルクの声が落ちる。

「ベルクの名で止まる!」

楯が十五度で楔になり、通路の空が戻る。

歌い手が低く回す。


《回さない歌・標準》

さきのな、とめ

あとのな、まつ

はん(わかくさ)

こはく、ちがい

あな、かける

しろで、しるす

おわり、いちど


僕は匣の背面へ。蓋。蝶番。逆刻み界面。

ある。だが、束が多い。

「付録抑え針」、「半禁止針」、「名穴目隠し針」、「遅れ短縮針」、「白早打ち針」。

現場の声を薄くし、名を外し、終わりを奪う仕掛け。

汚い。


「五本とも外す。R1の“現場付録口”と名穴を前へ」

ディオムが工具を渡す。

僕は針を五本抜き、逆刻みを半歩戻す。掲示の前面に付録差込の白小丸とG-15を出す。

名を太く刻む。


「規格匣・逆刻み:リオン/抑え・禁止・目隠し・短縮・早打ち針除去:ディオム」


若草半が通る。

二呼吸の遅れ窓が戻り、差分一行が挿さる。

名が穴にかかり、白で採録。木槌一度。灯三瞬。器ひと重ね。

壁の美しさが、ようやく息に合った。


サーレンは目だけで笑う。

「速さが落ちる」

「現場が入る速さは、最後に上がる」

喉は乾いていたが、言葉は出た。


昼の空。

フィオの粥。器が軽く重なる。

レイナが紙を一枚、柱に足す。


《名の灯り(R1制定)》

帯長(版長ブラン)/読み手(ラース)/見方(工房)/第三騎士団(ベルク)/余白番(マルタ)

免除枠:救護・災害・停電復旧の即告示**——ただし差分一行を後追いで掲示**

——「返せるお願い」で名を出す。売買は無効。


ユーンが掲示の角を指で叩き、低く言う。

「詩は短く、図は太く。『半、太い図で言え』」


ブラン(規格局)が頷く。

「R1 本体(RB1)へ医/行/議/連/夜/祭/雨/紙/塔/港/鍵の各R付録を直結する」


午後。

**公開三分(標準)**をやる。

模型の壁に、A:スケルトン統一(付録なし・半禁止)/B:R1本体+現場付録(差分一行・名穴)。

指標は五つ——初見秒/誤適用数(他分野への誤流用)/終わり回数/怒号→うなずき/採用まで時間。


A。

——初見、短。

——誤適用、多(夜のS-Showを祭に流用して眩しさ発生など)。

——終わり、ゼロ。

——怒号、二。うなずき、少。

——採用まで、長(揉める)。


B。

若草→琥珀(差分一行)→白。

——初見、短。

——誤適用、少(付録が止める)。

——終わり、定期。

——怒号、ゼロ。うなずき、増。

——採用まで、短(名が穴にかかる)。

短い詩と太い図が、場の呼吸にぴたりと合う。


ブランが板を掲げる。

「B式優。R1 本体(RB1)+現場付録を必須に。スケルトン統一は不採用」


サーレンは鍵を持ち上げた。

ブランの声は短い。

「最終停止。名札穴は必須。名を先に」

サーレンは筆を取り、刻む。

「規格最適匣・担当:サーレン——現場付録口/名穴/逆刻み口の採用に同意」

名は残った。


廊下の陰で、別の紙の匂い。

「R1特例免許」——名の穴を通さず運用を先行できる券。隅に小さな官印。

出たな。


取り立て番ルオが黒地太字の免除枠を叩く。

「救護/災害/停電復旧——後追い差分必須。名を出せ。売買は無効」

札束は掲示板の改めた名へ吸い込まれ、名の列へ変わる。

ざまぁは、木槌が一度だけ澄む音。大広間の端まで通る。


夕刻。

書庫の裏で、低い拍。

一律輪(フラットリング)——緩衝の輪の標準版。

現場付録を均し、差分一行を無にする罠。


「回さない輪・標準」

僕は柱に紙を貼る。


《回さない輪・標準》

一:止めの号令(版長の名)

二:半(若草/鈴一打)

三:差分(琥珀:二呼吸/一行)

四:名穴(G-15:名で止める)

五:白(採録)

六:終わり(木槌一度/灯三瞬/器ひと重ね)

七:見せ方(S-Show Core/S-Say1)


ディオムが輪の側面に白い印を二つ。

「“均しっぱなし”の口を外へ。逆刻みは差分→名穴→白に結ぶ」

ユーンが短く添える。

「詩なら**『半、差分を太く』**」


若草半。

琥珀に二呼吸。差分一行。

名が穴にかかり、白で採録。

一律輪の拍は、差分に吸われて薄くなった。


夜。

ブランの綴り本に、新しい頁。


《R1 国標:RB1》

必須:


骨:S-Show Core v1.0/T-3 v1.1/角丸R八/斜め十五


三口互換:白/若草/琥珀(+赤三角/白小丸/黒小三角/藍口)


名と穴:G-15(位置・径・縁)/名で止め・名で開く/改めた名


遅れ窓:二呼吸・差分一行(S-Say1準拠)


逆刻み界面:匣/輪への“半歩戻す口”


終わりの合図:各領域で“一度”+灯三瞬/器ひと重ね


現場付録:R-医/行/議/連/夜/祭/雨/紙/塔/港/鍵(既定付録に直結)

推奨:


息の指標:怒号→うなずき/終わり回数/初見秒/誤適用数


名の灯り(R1制定)と免除枠(後追い差分)

現場枠:


二呼吸の秒数/白小丸の径/藍口の幅/角丸刃半径


末尾の改めた名。

「規格局:ブラン(版長)」

「停止路工房:リオン/レイナ/ディオム」

「第三騎士団:ベルク」

「市民:各付録代表(医・行・議・連・夜・祭・雨・紙・塔・港・鍵)/取り立て番ルオ」

「監:ユーン(臨時)」


サーレンは匣の縁を撫で、静かに言った。

「速さは、ときに規格に負ける」

「規格に負けた速さの方が、長く続く」

彼は筆で名をもう一つ増やした。小さいが、太い。


僕は大広間の看板を撫で、閂に一滴。

今日を楽にする工房。

文字は軽い。

標準もまた、小さく割って担げる。


明日は——サーレンの選択だ。

彼が速さを定義する。

“負ける速さ”と“守る速さ”、どちらを名にするか。


木槌を一度。

終わりの合図。

——回っている。


第38話ハイライト


**R1 本体(RB1)**を制定:S-Show Core/T-3/三口互換/名穴G-15/遅れ窓(二呼吸・差分一行)/逆刻み/終わり一度を核に、各R付録を直結


サーレンの**《規格最適匣》が付録抑え・半禁止・名穴目隠し・遅れ短縮・白早打ちで“美しいが息のない壁”を作る → 五針除去+付録口と名穴の外出し+逆刻みで現場が入る速さ**へ矯正


公開三分比較:スケルトン統一は誤適用多・終わりゼロ・揉める/R1本体+付録は停止短・終わり定期・採用早・うなずき増


裏口R1特例免許は名の灯り+後追い差分で無効化(静かなざまぁ)


一律輪(標準版)を**《回さない輪・標準》**で無力化(半=差分を太く→名穴→白)


次章は**第39話「サーレンの選択——“速さ”の定義」**へ

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