第34話「紙の規格——束ね綴りと“名の穴”」
朝、紙の匂いが町いちめんに薄く漂っていた。
膠の甘さ、墨の乾き、角を丸める刃のざらり。
看板を撫で、閂に一滴。いつも通り。今日は紙そのものを回す。
「紙を帯にする」
レイナが街中の掲示面を地図に描き、四つの用途へ短い矢印——貼る/持つ/胸/塔。
「塔は写しと補助。指揮は現場。紙は道具で、主人じゃない」
ベルクは印房(いんぼう)の柱を指で叩く。
「第三騎士団は貼替(はりかえ)の空を持つ。楯は十五度で楔。剣は抜かない」
フィオは器を重ね、湯気を追い、紙の端を一枚めくる。
「余白の粥は製本台の陰。終わりの合図は木槌一度。器は軽く、指先は乾いて」
ミロは童会に若草小旗と孔あけ具を配る。
「半は旗ひと振り。名の穴は迷いが強い時に先にあける」
僕は印房の黒い掲示板に、一枚貼った。
《一枚標:紙の規格(束ね綴り)》
一:地(ベース)——黒地白字/斜め十五/角丸/胸台本三行
二:三口(白=確/若草=半/琥珀=仮)を紙でも同形
三:名の穴(G-15)——上辺中央から“十五目”/親指径/穴縁白帯
四:版(エディション)——T-3(胸台本三行の版)/S-Show(見せ方の版)/R-Annex(付録版)
五:貼替路(貼→空→剥→空→貼)
六:逆刻み界面(版下に“半歩戻す口”)
七:終わりの合図(木槌一度/灯三瞬/器ひと重ね)
——下段:改めた名(版長/製本番/貼替番/読み手/見方)。
帯長は版長ブラン、製本番は綴り師コロ、貼替番は掲示組エナ、余白番マルタ、読み手ラース、見方停止路工房(ディオム)、歌い手は紙童会。
さらに三枚。
《S-Show Core(見せ方中核)》
黒地白字/斜め十五/角丸R八/余白=“指二本”/字級=上段太・下段中/“濁り符”互換
——全付録の親。祭・夜・雨のS-Showはここを継ぐ。
《T-3 v1.1(胸台本三行の版)》
一:目的(一行・名を含む)
二:具体(三行・数字は太→細)
三:終わり(返せるお願い/半/合図)
——版番号は右下小丸内に。
《名の穴 要項(G-15)》
位置:上辺中央から“十五目”下
径:親指ひとつ
縁:白帯“指一本”
**用途:**名で止める/名で開く/売買は無効
「回せる?」
ベルクが短く聞く。
「回さない歌・紙版で」
僕は頷き、ディオムは版下の刃を光にかざした。
午前。
貼替路が静かに立ち上がる。古い紙を剥→空→貼へ。
S-Show Coreで揃えた角丸と斜め十五、T-3 v1.1の胸台本。
名の穴に名がかかり、若草半で読み上げが止まる。
いい。今日は、いける——
青い箱が、印床(いんどこ)の上にずいと置かれるまでは。
「出力最適匣(プリント・プッシャー)」
商会企画長サーレン。黒革の手袋、目は薄い。
箱の窓で針が踊り、側面に**『余白ゼロ/直角統一/名穴隠し/連番自動/終わり不要』。
「版は中央で決める。角丸はロス**。名の穴は個人依存で危険。最適は同拍印刷+貼りっぱなし」
ベルクの眉がわずかに動く。
「停止路義務」
「中央鍵がある」サーレンは肩をすくめる。「現場は貼るだけでいい」
匣が印床に噛み、版下が勝手に四角へ矯正され、名の穴が黒で埋まる。
余白が消え、文字が紙いっぱいに膨らむ。
読みは速く見える——すぐに息がなくなる。
貼替路が剥を失い、町は貼りっぱなしで眠れない壁になった。
「半!」
エナの若草旗。
届きにくい。連番自動が半の号令を上書きする。
ベルクの声が落ちる。
「ベルクの名で止まる!」
楯が十五度で楔になり、貼替場の空を作る。
歌い手が低く回す。
《回さない歌・紙》
さきのな、とめ
あとのな、まつ
はん(わかくさ)
あな、あける
しろで、はる
おわり、いちど
僕は匣の背面へ。蓋。蝶番。逆刻み界面。
あった。だが、嫌な束。
「余白ゼロ針」、「直角固定針」、「名穴隠し針」、「連番早打ち針」。
半より先に紙面を固め、終わりを無にする仕掛け。
汚い。
「隠し・固定・早打ち——四本とも外す。名穴口を前へ」
ディオムが工具を渡す。
僕は針を四本抜き、逆刻みを半歩戻し、名穴口と余白窓を前面に。
名を太く刻む。
「出力匣・逆刻み:リオン/隠し・固定・早打ち針除去:ディオム」
若草半が通る。
穴が開き、名が掛かる。
角はR八で丸く戻り、斜め十五が眩しさを外へ捨てる。
木槌一度。器ひと重ね。灯三瞬。
読みやすさが息の速さに重なる。
サーレンは目だけで笑う。
「速さが落ちた」
「読める速さは、最後に上がる」
喉は乾いていたが、言葉は出た。
昼の空。
フィオの粥。器の音は軽い。
レイナが紙を一枚、束ね綴りの先頭に差し込む。
《版の扱い(Edition Ledger)》
T-3 v1.1/S-Show Core v1.0/R-Annex(各付録)
版長:ブラン/製本番:コロ/貼替番:エナ
改版:半→琥珀(公開三分)→白(採用)
——名で止め、名で開く。売買は無効。
ブランが頷く。「R1-紙付録 RK1に版の扱いを入れる」
ユーンは名の穴の縁を指でなぞり、低く言った。
「詩は穴で始まり、穴で終わる。『半、穴を先に』」
午後。
**公開三分(紙)**をやる。
縮尺の掲示面を並べ、A:出力最適(余白ゼロ/名穴隠し)/B:S-Show Core+T-3 v1.1+名穴(G-15)。
指標は五つ——初見秒(読み始めまで)/指差し誤り数/貼替時間/怒号→褒め/終わり回数。
A。
——初見、長。
——誤り、多。
——貼替、不可(貼りっぱなし)。
——怒号、一。褒め、少。
——終わり、ゼロ。
B。
——初見、短。
——誤り、少。
——貼替、短。
——怒号、ゼロ。褒め、増。
——終わり、定期。
胸台本三行が息と揃う。
ブランが板を掲げる。
「B式優。S-Show Core/T-3 v1.1/名の穴 G-15/貼替路を必須に」
サーレンは鍵を持ち上げた。
ブランの声は短い。
「最終停止。名札穴は必須。名を先に」
サーレンは筆を取り、刻む。
「出力最適匣・担当:サーレン——名穴口/逆刻み口/S-Show Coreの採用に同意」
名は残った。
綴り台の陰で、別の紙の匂い。
「掲示優先トークン」——壁の目立ち位置を買う券。隅に小さな官印。
出たな。
取り立て番ルオが黒地太字の免除枠を叩く。
「救護/避難/期限。——名を出せ。返せるお願いで。売買は無効」
札束は束ね綴りの改めた名へ吸い込まれ、名の列に変わる。
ざまぁは、木槌が一度だけ澄む音。紙の束の芯まで通る。
夕刻。
貼替が進み、壁の呼吸が深くなる。
そのとき、印房の床下で低い拍。
告示輪(こくじりん)——緩衝の輪の紙版。
新告示を途切れなく押し出し、剥を忘れさせる罠。
「回さない輪・紙」
僕は柱に紙を貼る。
《回さない輪・紙》
一:止めの号令(版長の名)
二:半(若草/木槌一度)
三:剥(琥珀:旧版を外す)
四:貼(白:新版を貼る)
五:終わり(灯三瞬/器ひと重ね)
六:見せ方(S-Show Core/名穴G-15)
ディオムが輪の側面に白い印を二つ。
「“押しっぱなし”の口を外へ。逆刻みは剥→貼に結ぶ」
ユーンが短く添える。
「詩なら**『半、はがしてから』**」
若草半。
木槌一度。
剥の拍で旧版を外し、貼の拍で新版を置く。
告示輪の拍は、貼替路に吸われて薄くなった。
夜。
ブランの綴り本に、新しい頁。
《R1-紙付録 RK1》
必須:
S-Show Core v1.0(黒地白字/斜め十五/角丸R八/余白指二)
T-3 v1.1(胸台本三行)
名の穴 G-15(位置・径・縁)
貼替路(貼→空→剥→空→貼)
三口同形(白/若草/琥珀)
逆刻み界面(出力匣/告示輪)
終わりの合図(木槌一度/灯三瞬/器ひと重ね)
推奨:
息の指標(初見秒/指差し誤り/貼替時間/怒号→褒め/終わり回数)
版の扱い(半→琥珀→白)
現場枠:
紙の厚み/孔あけ具/角丸刃の半径
末尾の改めた名。
「規格局:ブラン(版長)」
「停止路工房:リオン/レイナ/ディオム」
「第三騎士団:ベルク」
「市民:綴り師コロ/掲示組エナ/余白番マルタ/取り立て番ルオ/紙童会」
「監:ユーン(臨時)」
サーレンは匣の縁を撫で、低く言った。
「速さは、読む人が作る」
「名が穴に掛かると、止められる速さになる」
彼は筆で名をもう一つ足した。小さいが、太い。
僕は束ね綴りの背を撫で、閂に一滴。
今日を楽にする工房。
文字は軽い。
紙もまた、小さく割って担げる。
明日は——塔だ。
写しの塔。遅れと重ねを外に出す窓。
二重の写しを、半→白で回す。
木槌を一度。
終わりの合図。
——眠って、また回す。
第34話ハイライト
《一枚標:紙の規格》でS-Show Core/T-3(胸台本三行)/名の穴G-15/貼替路を一本化
サーレンの**《出力最適匣》が余白ゼロ/名穴隠し/連番早打ちで“止め”を潰す → 四針除去+名穴口+余白窓+逆刻みで読める速さ**へ矯正
公開三分比較:自動出力は初見長・貼替不能/規格紙は初見短・誤り少・貼替短・褒め増
裏口掲示優先トークンは名の灯り+免除枠で無効化(静かなざまぁ)
告示輪(緩衝の輪・紙版)を**《回さない輪・紙》**で無力化(半=はがしてから/剥→貼)
R1-紙付録 RK1確定:S-Show Core/T-3 v1.1/名の穴/貼替路/逆刻み界面/終わりの合図を必須化
次章は塔(写し)——遅れの窓と二重の写しで“止められる速さ”を拡張予定
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