3章 王都襲撃 05

 あの後、俺たちは二手に分かれて行動することにしたのだった。


 逸脱者の子孫であるリリアとカイン、そしてその護衛として付いてきていた人たちを放置することはできないから仕方ない。

 それに王都に残っている逸脱者の子孫だったり王国のお偉いさんのことを考えると、彼女たちを連れたまま王都へ攻め込むのは間違いなく悪手だろうからね。


 なので俺とエルシーの二人が先に王都へと向かうことにして、残りの三人が彼女たちと共にあとから来る算段となっている。

 何かあった時のためのバックアップという形だ。



「王都が見えてきたよ!」


「あれが王都グランダリアとやらか」


「おー、結構大きいね」



 エルシーが言う通り、王都グランダリアは想像よりも大きな街だった。

 そりゃそうか。王都ってことはつまるところ首都だもんな。


 こっちの大陸は向こうほど文明が進んでいないみたいだから、もう少しこじんまりしたものかと思っていたけど……どうやらそれは間違いだと考えを改めた方がよさそうだ。

 なんと言うか、違う方向性で発展しているような節がある。


 それこそ魔法に特化しているとでも言えばいいのか。

 科学文明と対を成す、魔法文明というわけだ。

 


「けどこれだけ大きいと守りも固いんじゃないの」


「だろうな。もっとも、その時は無理やり入ればいいだけなのだが」


「待って待って! いきなり騒ぎを起こしたら絶対に面倒くさいことになるよ! ウチらが使ってる偽造した身分証明証を渡すから、それ使って入って!」



 そんなものがあったのか。

 でも確かに。そうでもないとニーニャたちがあれだけ王都や王国の情報を持っているのはおかしいか。


 それなら諜報要員としてまずはユイに王都に入ってもらった方がよかったのでは?



「それじゃあそろそろ地上に降りるね。これ以上進んだら探知魔法に引っかかっちゃいそうだし」


「ここからは徒歩ってことだね」


「うん。ウチは一旦戻って、残っているユイさんたちを連れてくるよ。だから……とにかく気を付けてね。戻ってこられるのは早くても明日になるだろうし、何かあっても逃げるために力を貸すことはできないから……」



 ニーニャは心配そうな顔でそう言う。


 実際、ユイたちのいる場所からここまではそれなりに距離があった。

 ドラブロが全力で飛んだとしても、彼女の言葉通り結構な時間がかかるだろう。


 だからこそ、彼女はきっと不安なんだ。

 自分の知らないところで俺たちに何かあったら……と、そう考えてしまうんだ。


 でも、大丈夫だ。問題ない。

 何故なら俺はメリアちゃんなのだから。


 最強かわいいメリアちゃんに、敵などいないのだ。


 だからそんな顔をしないでくれニーニャ。

 可愛い顔が台無しだぜ?



「案ずるな、ニーニャよ。仮に何かあったとしても、例え何が向かって来ようとも、オレの敵ではなかろう。それは今までの戦いを見てきた其方なら十分に理解できるはずだ」


「確かに、そう……だよね……。うん、皆さんならきっと大丈夫だよ……! これまでもそうだったんだもん! ウチ、信じてるからね!!」


「ああ。大船に乗ったつもりで、オレたちに任せておくがよい」



 メリアちゃんの励ましが効いたんだろうな。

 ニーニャは天真爛漫な笑顔を取り戻し、ドラブロと共に空の彼方へと飛んで行った。


 それじゃあ、こっちも動くとしますか。



「行ったか。ならばこちらも目的を果たすとしよう。まずは王都の中へ入らねばな」


「そのことなんだけど、恰好は変えた方がいいんじゃない? 僕たち、ここだと結構目立つ格好してるでしょ」



 ……確かに。

 アルベルトにも速攻で逸脱者だと看破されてたっけ。

 

 と言うかそれ以上に、アイツがいるんだから普通に見た目で即バレするわ。

 


「ふふん、僕に任せて。こう見えても変装魔法が使えるんだ」


「変装魔法だと? 聞いたことのない魔法だが……よい、やってみせよ」


「分かった! それじゃあ……えい!」



――ボワン



「ほう……これは中々、面妖なものだな」



 エルシーの魔法の影響か、一瞬にして俺の姿が変わった。

 ……もっとも、ロリであることに変わりは無かったが。


 あれだけ目立っていた金髪ロングはやや黒に近い金髪ショートになっている。

 鏡を錬成して確認してみたところ、特徴的な澄んだ碧眼は淡い青色へと変わっていた。


 ただ、背丈や肉づきは元の姿とそう大差ないように見えるな。

 要するに、低身長つるぺたのままだ。

 やわらかもちもちなロリだ。


 いや……そもそもの話としてさ。

 これ、全体的な印象はそんなに変わっていないんじゃ? 

 髪の長さが変わったのと、髪や目の色が若干変わったくらいだ。


 見ればエルシーも自身に変装魔法をかけているけど、俺と同じようになんとなく別人感が出るくらいの出来になっていた。

 白ロリが淡い白ロリになった程度の変化だ。



「うーん、変装したのはいいんだけれど……この年齢の女の子二人だと普通に怪しまれるよね」


「ならば年齢や性別を変えてみたらどうだ。それに変装自体も元と大きく変わっていないだろう。これではあまり変装の意味がないように思えるが」


「あはは、それができないから困っちゃうんだよねー。この魔法、元の年齢や体型に性別なんかが据え置きになっちゃうから」



 ……それ、変装魔法としては少々機能不足じゃないか?

 よくあんなに自信満々に言えたね。



「ふむ、そうか。面白い魔法ではあるが……変装魔法としてはポンコツ極まりないな」


「だよね。僕もそう思う☆(てへぺろ)」



 なにがてへぺろだ!

 うぐぐ、これまた可愛い笑顔を見せやがって……!


 そんな顔を見せられたら何も言えないだろうがよ!

 あぁ、何も言えねえ!



「……まあよい。見た目が少し変わるだけでも今は多少効果があろう。オレたちは騎士隊長とやらに姿を知られているのだからな」


「なら、なおのこと駄目じゃない? 似ている奴がいるってことで怪しまれると思うんだけど」



 ……うん。

 使ってもらってこう言うのも忍びないんだけど……お前が言うな!


 あぁ、幸先が悪いと言うか先が思いやられると言うか。

 想像以上に不安だ。

 

 この先もしばらくエルシーと二人で動くんだよな……。

 これ、本当に大丈夫なのか?

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