五章 名探偵は侮れない
挽回のチャンス
俺はディテクティ部の部室のドアを開けた。
窓から射す夕日によって眠気を誘うような橙色に染まる教室内。遠くのグラウンドから運動部の掛け声がかすかに聞こえてくるほど静寂に満ちていてよりその要素を強める。
心地のよい冷たい風で揺れるカーテンの下には彼女の姿があって、銀色の髪を靡かせながら物思いに耽るように外を眺めている。
「おや。思ったよりも早かったですね。時間稼ぎのためにこよちゃんとイチャイチャすると踏んでいたんですけど」
「できればそうしたかったんだけどな」
「──えっ!? したかったんですか!?
「俺が言ってるのは時間稼ぎのほうだ。それと急に素に戻るな。さっきまで意味ありげに外を眺めて大物ぶってたくせに……」
「ぶってません。窓際にいるのは、ぷっくらしてて可愛いスズメちゃんを観察して癒やされてたんです。……でもそう感じたってことは、やっぱり私から名探偵オーラが出ちゃってるんですね。やれやれ困りました」
調子づくエセの自惚れは放っておいて、俺はドアを閉めてから、すでに向かい合って用意されてある二脚の椅子の片一方に座り、本題に入る。
「余裕こいてるみたいだけど、昼休みに
「あちゃー、バレちゃいましたか~。さすがは疑い深い
認めるにしてももう少し反抗してくると思っていたが…………まぁどのみち俺のやることに変わりはないか。
「まるで失敗したドッキリの仕掛け人みたいに軽い反応だけど、偽の差出人を用意するなんて卑怯な行為を俺が許すと思ってるのか?」
「謎をややこしくしてしまったことは事実ですので謝ります。ですが、私の真の目論見は
「もしそれが真実なら俺にも一言断りを入れておくべきだろ」
「
「二十五点評価がよく言う。本当は謎が解けなかった時に保険をかけてたんだろ」
「たしかにその要素も否定できません。そこはどうしても
全くもって図々しいやつだな。自分がどれだけ煽ったのかを覚えていないのか。
「仮にそのことを許したとしても、そもそもの約束である『第三者に知られず』の部分に抵触してる」
「それについては同罪でしょう。
「
「この匿名のラブレターの件に限って言えば第三者ということに変わりはありません。約束を取り交わす時にこよちゃんは除く的なことを言っていたら話は別でしたけど」
「大体、
「それを言うなら
──くっ、ああ言えばこう言う。こんなことになるならもっと約束を事細かに決めておけばよかった。失態だ。
「……なんにせよ、俺の推理時間を奪ったことは変えようのない事実で許せることじゃない」
「そうですね。だから
「挽回のチャンスだと?」
「はい。実は
「平気で嘘をつくやつの言うことを信用すると思うのか?」
「ええ、今の私が信頼を失っているのは承知です。────だからこうしましょう。私の推理を聞いてもらい、それに対して
「そんなこと言って、いざそうなったら
「ここまで明言しておいて素知らぬ顔はできませんし、それで不利になるのは私です」
狡猾な
だが、仮に変なことを仕掛けてきても(言質をきちんと取ったし)否定すればいいだけだ。ノーリスクハイリターン。ここは賭けてみてもいいかもしれない。
「分かった。
「どうぞどうぞ。そのほうが私も話しやすいのでありがたいです」
そうして
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