第12話 悪女、夢に堕ちる
加熱式はついつい、連続で吸っちまうせいで前よりも喫煙量が増えちまった。
まぁ、紙巻きと比べれば灰の処理やら臭い消しがラクだからな。
「ここら辺にコンビニは……チッ10分先かよ、使えねーなぁ」
車を運転しながらスマホで地図アプリを確認すると、意外にも近間にコンビニがなかった。
自販機は紙巻きばかりだからコンビニで買うしかねぇーんだよなぁ。いっその事、カートン買いして車に載せておくか。
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「56番カートンで」
「はーい!ちょっと確認して来ますね〜」
初のカートン買いだったが、安心感が半端ないな。依頼で森と都内を往復するからニコチン切れは死活問題だ。
(クライアントは中身を見るなつってたけどよ、あんなの触った感じで死体じゃねーか)
それに、金払いが良過ぎるのが寧ろ怖いんだよなぁ〜。
(そろそろ潮時かね)
それにしても結構混んでるコンビニだったな……ここら辺にないせいか。クソど田舎が。
悪態を吐きながら車を走らせていると、いつも片手に弄っているスマホが見当たらない。
(どうせシートの何処かに落ちてんだろ)
結局、そのまま車を走らせ続け郊外の住処にしているボロアパートまで辿り着いた。
「クソッ……!!!あのコンビニか」
いくら運転席を探してもスマホは見つからず、タバコを買ったコンビニに忘れて来たと憤っていた。
この住処からは30分ほど走らせないといけないし、往復で1時間だ。コンビニに連絡するためのスマホもないから本格的に参ってしまう。
「めんどくせ〜、明日でいいか」
--そうして迎えた心地良い秋の朝
彼の住処はスーツを着こなしたダンジョン審判所の調査官に囲まれていた。
◇
「取引? 別にこっちはする必要ないけど」
「ハッタリかましてんじゃねーぞ?幾ら取調べしても俺は取引しない限りぜってぇ〜話さねー」
突然のことだった。
朝起きたらスーツ姿の奴らに囲まれていたんだ。
一応、気まぐれに拾った野良犬も番犬代わりにしていたが……吠えることもなく逝ったんだろ。初めてのペットだったんだがな。
「コレ、お前のスマホだろ?」
机に置かれたスマホは確かにコンビニで忘れた物だ。だが、3回パスワードを間違えるとデータ消去される設定のはずだ。
「俺さ、昨日まで出張でよ、昼メシ買いにあのコンビニにいたんだよ。それもお前の後ろでレジに並んでいた」
「だからなんだよ?」
「パスワード、解除済みだったから心優しい俺は持ち主に返す為に電話アプリを開いたがよ……通話履歴の全部が“非通知”って、疑ってくださいと言っているようなもんだぞ?」
くそっ……マジで運が悪かったのか、……それとも元からこういう計画だったのか?
「でよ、非通知だからこっちからコンタクトも取れないし、放置していたら……向こうさんから“お仕事”の依頼、来てたぞ?」
「……(これはヤバいか?)」
内部データにはせいぜいAVくらいしかねーが、まさか外部から……。
「“運び”に“ヤク”、ご丁寧に待ち合わせ場所まで教えてくれた…ダンジョン審判所の『執行官』である俺に向かってなぁ」
————終わった。
警察じゃねーから、司法も効かないせいで弁護士も呼べない。裏社会の噂じゃあ、“研究所勤務”の場合、実質、人体実験の被験体になるらしい……ちくしょう。マジで運が悪いな。
「全く、俺の貴重なコンビニ飯を抜きやがって________覚悟は出来てんだろうなぁ?」
クソッ……とことん、運がわり〜な。シャバに出たら厄祓いとワンコろの墓でも建ててやるか--俺が人間として生きていたら、だけどな。
ある時期を境目にドミノ倒しのように次々と悪人達の悪行が暴かれ始め、それは濁流のように留まることなく押し寄せた。
--まるで神の意志が働いているかのように全て“運悪く”。
下っ端から始まったそれは、中小規模の組織、その幹部、そして……百華の喉元まで届く程に不運が押し寄せる波の如く迫って来ていた。
「下部組織が3つ崩壊……」
準イケメンの執事が持って来た書類にはダンジョン審判所からの【戒告処分通知】の内容が記載されていた。
本部であるプリンセス・モモに対して下部組織の管理を怠っていた、と。
「それで?だから?下の奴らなんて居なくなった所で金があれば幾らでも集まるわよね?」
下部組織のリーダー格なんて誰がやっても大差変わりがないんだから問題なんてあるわけないでしょう。
(ホームレスのくっさいオッサンでも雇ってパーティーリーダーにでもすればいいのよ)
桜色の可愛い電子タバコを口に咥え、乾燥させたシンデレラの煙で肺を満たす。
窓から見える、いつもと変わらないはずの景色が美しく鮮明に映って、フワッとした離脱感で嫌な事を全部忘れられる。
制約ばかりで何もかも上手くいかない世界から私は
————翼を生やして飛び立って行くの
あはっ……
ブチャイクは消えて、イケメンがよりどりみどり〜。ギャハハッ!ブサ野郎は一生童貞確定!童貞!童貞!キモいんだよ、ぶ〜す。ブサブサブサ……私がイケメンとヤリまくっているのを惨めにシコシコも出来ずに見ているだけなんてオスとしても終わってんのよ!あっ……もしかして、粗チ◯?ぶふっ。
ブサイクで?童貞で?寝取られ野郎で?下民で?……粗チ◯って。
生きている価値ないじゃない♪
あえ?パパとママ?
ラッパを吹いているクマしゃんにぶっ殺されてんじゃんw
「クマさぁ〜ん、パッパとママはまじぃよ?」
おいちいのかにゃ????
ぶふっブサブサのゴミとどっちがおいしい?
どっちもゴミデェーす!
あれ?あえ?あれあれあれあれ?
コイツは殺される為に生きているんだよね?
ぐっちゃ、ぐっちゃ、ぐっちゃ♪
ゴクゴク……んッ…この真っ赤なお乳はいちごジャムの味がする。
私の高貴にゃお口に合うなんて、中々に良いお乳ね!
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◇
「……わた、しは?」
腕が、足も動かない。
真っ白な天井にバイタルの嫌な音。
ピトッピトッと、水の音が一定して落ちる。まるで点滴のような音?
--こんなに耳が良かったかしら
気になって右腕を覗くと黒光りする何かにチューブが刺さっていた。
「腕は……」
頭が徐々に働いてくると次第に恐ろしい想像が心から沸き起こって悪寒が走る。
それでも何も出来ない私は声を出すが、出てくる声音は老人のようなしがれた声ばかり……
「……ッ やあ、目覚めたのかい?」
左方向から男性の気遣った声が私の耳に届く。
「奇跡的に目覚められた……いや、この場合は神罰で目覚めてしまった、のかな」
神罰……目覚められたことは良いことではないの?
「兎に角、君はもう自由に死ねられる……その先が地獄や煉獄だとしても、この世界からようやく解放されるんだ」
慈しみを込めた神父のような言葉で目覚めたばかりの私は死刑宣告をされてしまった。
せめて、嘘でも天国が良かったな。
「天国は……うん、残念だけど無理だね」
「あ、貴方は…死神ですか?」
寿命を迎えた人間の魂を回収する神様。御伽話の存在に目覚めて早々、遭遇するなんて。
「いや、僕はここのフロアの管理者だよ。とは言っても、この数十年で目覚めたのは11072番の君だけさ」
11072番、久々に聞いた番号ね。
それに数十年……ってことはその間、私はずっと眠っていたというの?
「実はね……長い事、此処で仕事をしているから君とは一度、話してみたかったんだ」
「私と?」
「--そう、君と」
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