第2話 魔物襲来……あぁ、死にたい

 窓の外を見ていた女子が、とつぜん悲鳴をあげた。

 おれもいそいで窓の外を見た。そこには、狼の群れみたいなのがいて、そして、校庭で、用務員のおじいさんが、群がる狼にかみ殺されていた。

 みんなが叫んでいた。


「見ろよ、ニュース! あちこちに魔物があらわれたって!」

「じゃあ、あの狼、魔物かよ」

「おれ達のスキルって、こいつらと戦うためのものなのか……?」

「見ろ! なんか空に……」


 空に、魔物の鳥みたいなものの群れが見えた。

 それを見た瞬間、おれは後ずさりをはじめた。どう考えても、逃げるしかない。

 しかもその時、おれは激しい頭痛と吐き気に襲われていた。

 さっき見た、殺される用務員さんの姿がフラッシュバック……。

 うぅ、精神的ショックで吐き気がする。苦しい。……死にたい。


 ピコン! レベルが上がりました! Lv.5


 おれが教室のドアのところまでさがった時。大きなカラスみたいな魔物が、窓から突っこんできた。


「勇者のおれが倒してやる!」


 そう言って、グッチーというあだ名で呼ばれている奴が、黒い鳥の魔物に殴りかかった。

 グッチーが切り裂かれながら、必死に殴りまくっていると、黒い鳥の魔物は床に落ちた。


「すごいよ、グッチー! 魔物を倒した!」


「やったぜ、レベルもあが……」


 グッチーがみんなの方を向いてガッツポーズをしていたその時、窓から、次の魔物が飛びこんできて、グッチーの頭をうしろから襲った。……思い出したくないから、あの光景については、書かない。

 固有スキル「勇者の魂」を持っていたグッチーは、死んだ。

 勇者は速攻死んだ。

 辛すぎる。……死にたい。


 ピコン! レベルが上がりました! Lv.6



 一時間後、おれはトイレの中にいた。

 魔物がとびこんできた教室からは必死に逃げたけど、学校の外に逃げるには、ショックを受けすぎて、うごけなかったから。

 おれはずっとトイレで吐いたりぐったりぼおーっとしている。

 ちなみにおれのステータスには丁寧に「状態異常:ショック状態」と表示されている。


(もうダメだ。こんな状況で、おれが生き残れるはずない。死にたくないけど、もう、むり。早く死にたい。できるだけ苦しまずに早く死にたい……)


 おれの絶望的な気分をあざ笑うかのように、まぬけな音がまた響いた。


 ピコン! レベルが上がりました! Lv.7


(なんなんだよ、さっきからずっと、この変な音! 幻聴? いや……まさか……)


 おれはステータスを確認した。


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 宇都宮英人 Lv. 7  職業 学生

 体力 14  魔力 0  スタミナ 6

 筋力 1  敏捷 2

 器用 5  知力 6 

 精神力 0

 耐久力 2  幸運 0

 固有スキル:鬱

 スキル:グロ耐性Lv.1、ステータス開示

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 レベルが上がっている。あの音は、本当にレベルアップの通知音だったらしい。

 おれはステータスを確認してみた。

 ステータス開示スキルがついたせいか、各項目の説明が読めるようになっていた。

 「ステータス開示」の能力は、「自分のステータスの説明が見える」。

 「グロ耐性Lv.1」は、「グロい光景を見た時にショック状態にならない」という耐性スキル。

 そして、「鬱」というおれの固有スキルは……「本気で死にたいと思うたびにレベルが上がる。ステータスすべてが常に弱体化」。


 このスキル、どう?

 基本ネガティブ思考なおれはこう思った。

 つまり、この鬱スキルのせいで弱体化が入るから、おれのステータスは普通より低い。そしてなにより、おれがレベルをあげるには、「死にたい」と思うほど辛い目に何度もあわないといけない。はい、鬱展開必須ですね。

 ああ、マジで死にたい。


 ピコン! レベルが上がりました! Lv.8


 ……意外と簡単にレベルあがるけど。やっぱり嫌だ、こんなスキル。



 さて、どうしよう。あらたに習得した耐性スキルのおかげか、おれの吐き気はとまったけど、外は危険だ。

 おれがこもっているのはトイレだから、出すものを出すのには困らないけど、食べるものはない。

 てことは、いつまでもここにはいられない。


 その時、スマホがなった。


「エート、今、どうしてる?」


 小学生のころからのゲーム友達、乾太郎からのメッセージが入っていた。


「トイレにこもってる」


「魔物襲ってきた?」


「うん。クラスの奴殺された」


「エート、北中だよね。そっち行くよ」


「やめろ。外、魔物だらけだ」


「ノープロ。死ぬ前に、エートに会いたいもん」


 むりだよ。おれなんかと会うために命かけるなよ。

 と思ったけど、おれは返事はおくらなかった。

 たぶん、本心では、誰でもいいからたすけてくれ、って思ってたからかも。

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