第15話 僕は食べて強くなる!

「おおっ! 10本もの刺し身包丁を触手で振るうというのかい!?」


 すごい包丁の数だ。


 一体、どんな包丁捌きを見せてくれるんだろう?


「クックック……これは、こうするのギョ!」


 瞬間、空中に刃の煌めきが舞った。


 音も無く切断される深海魚たち。


 カウンターには頭だけが残され、目にも止まらぬ早業で身が捌かれる。


「ええ〜っ!?」


「あっ……!」


 思わず、呼吸が止まる。


 そんな……喋ってた、こいつらの方を切ってしまったんだ……。


 不気味だけど、ちょっと間抜けな気の良い奴らだった。


 少なくとも、僕は勝手にそう思って……。


「フハハ、ワレワレハ……アタマダケデモ、イキテイラレルノダ……オドロイタカ……」


「どわっ!?」


 アンコウのような深海魚は頭だけで喋ってきた。


 頭のデカいウツボっぽい奴やダンゴムシっぽい奴も頭だけで怪しく笑いかけてくる。


「驚かすなよ! 死んだかと思ったじゃないか!」


「頭だけで生きてるなんて、けっこうやるよね〜♪」


「お前が言うなっ!」


 ローザは前のめりになり、深海魚たちをしげしげ眺める。


「ナ……ナンダト?」


 またも、深海魚たちは驚いてお互いを見やる。


 ほっ……元気そうだ。


 僕は思わず安堵する。


「オマエタチハ……ワレワレガ、ホントウニ、コワクナイノカ?」


 ただでさえ、でっかい目ん玉を見開きながら深海魚たちは僕とローザを見つめる。


「いや、見つめられるのは怖いからやめてくれ。ただ、頭だけで生きてる奴を他に知っててさ。例えば……」


「はいっ、プツン♪」


 ローザは釣られて頭を両手で取り、深海魚とクトルの周囲を頭だけで浮遊する。


「あーっ! やっぱり、やらかした! ローザのことだからやるとは思ったけどさ!」


「ウヘヘヘ〜♪」


「ギョギョッ!?」


「ウオオッ!?」


 クトルや深海魚たちは驚き、慌てふためく。


 うわー、一気にホラーな展開になっちゃったよ。


 他にお客さんがいなくて助かった。


「ぐぬぬぬ……負けないでギョ。クトルだって頭だけで浮くことくらい……」


 クトルは両手で自分の頭を掴み、引っこ抜こうとする。


「オ、オマチクダサイ、クトルサマ! ハリアウコトハ、アリマセヌ!」


 アンコウやウツボは慌ててクトルを制止する。


 そして、ローザの頭は体に戻りドッキングする。


「ローザと言ったな……お前は、一体何者ギョ!?」


「ワタシ、不死身の超次元生命体♪」


 ローザは羽根をパタパタさせながら満面の笑顔で首を傾げる。


「そんな存在は聞いたことないギョ! どこぞの馬の骨如きが地球の支配者たるクトルにかなうものか! 今度こそクトルの軍門に下るギョ!」


 クトルは再び、色とりどりの寿司を僕たちの前に広げる。


「まだまだ食べれそうだ、いただきます」


「いっただっきま〜す♪」


 僕たちは、次々と怪しげな深海魚寿司を平らげていく。


「う〜ん、お〜いし〜い♪」


「おお、凄いぞ! なんか力が湧いてきた!闘志も溢れてくるぞ!」


「そんなバカなギョ!?」


 クトルが驚くと、アンコウは僕を見つめたあと、クトルに向き直る。


「クトルサマ! コノオトコ……タダノニンゲンデハアリマセヌ!」


「本当かギョ?」


 聞き捨てならない言葉に僕は思わず反論する。


「待て待て! 僕はローザから力はもらったけど、ただの地球人だ!」


「どうりで、さっきから動じないはずギョ。正体を明かすんだギョ!」


「臆病で薄情な、ただの平凡な地球人だよ」


「む……?」


 僕は自嘲気味にトーンを少し下げる。


 買い被られるのはごめんだ。


「ワタシだけに優しいが抜けてるよっ♪」


「はは、だったね」


 ローザの笑顔のドアップだ、気を使ってくれたのかな?


 ……アンコウが目を見開き、僕を見つめながら息をゆっくり吐いている。


 微妙に怖いんだけど?


 いや、怯えているのはアンコウか……?


「……ユウシャ……」


「な、なんだって!?」


 アンコウがボソッとカタコトで呟く。


「ユウシャノ、チヲ……ワズカダガ……カンジル……」


「アンコー! それは本当ギョ!?」


「なんて、安直な名前よ!」


 思わずツッコミを入れたが、ファンタジーじゃあるまいし、僕に勇者の血が流れてるのは勘違いじゃないか?


 お腹いっぱいになった僕は食後の熱いお茶を啜る。


 ──我ながら、くつろぎすぎだろうとは思う。


 でも、恐ろしい姿や雰囲気とは裏腹に、クトルや深海魚たちからは敵意を感じない。


 この深海のような雰囲気の寿司屋も、僕の心をしんみりと落ち着かせてくれるようだ。


 僕はゆっくりと息を吐き、この異質な安堵の一時を楽しんでいた。

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