第7話 日見夜先輩との責任 ④
「一鷹様、次回も罰やり直していただきますから」
「……はい」
「カズタカすぐぼーそーするの悪い癖。私達が治してあげるから、ありがたく思うこと」
「……はい。ありがとうございます」
素直に謝罪すると、二人の表情が怒り顔からいつもの可愛らしい顔へと戻っていった。
それにしても今回はやりすぎてしまったな……。
特に澪右先輩。
マーキングした後の姿は、もう完全に事後と言っても差し支え───
「一鷹様? お顔が随分とニヤニヤしてますが、先程の反省は口だけですか?」
「次は罰じゃなくて、おしおきでも全然いーんだよ?」
「……暴走しないんで、許してください」
つい顔に出てしまったらしい。
慌てて反省の言葉を口にすると、二人はやれやれと言った感じで許してくれた。
「さて、じゃあそろそろ帰りましょうか。 と言っても、私はまだやる事があるので、先にお二人で帰ってくださいませ」
「え? もう、19時過ぎそうですけど……」
「大丈夫です。車は自宅に連絡して手配しておりますから」
澪右先輩はスマホを見せながらそう言った。
「じゃあ、凪左ちゃんのボディガード。よろしくお願いしますね」
そういうと、俺の返事を待たずに教室を出て行った。
残された俺たち二人は、目を見合わせる。
「じゃあ、帰りましょうか?」
「うん。 かえろー!」
そうして俺たち二人も教室を後にしたのだった。
♢
「澪右先輩、いつも忙しいですよね。3人で一緒に帰れた事一回もない気がするんですが」
帰り道、ふと気がついて俺はそう口にした。
事実、空き教室で会うときはいつも3人なのに、帰る時はいつも2人なのだ。
「おねーちゃんはわざと1人。 わたしが学校に来られた時は、カズタカとなるべく2人でいられるよーに譲ってくれてる」
「そうなんですか?」
「たぶんそう。双子だから、なーんとなくわかる」
凪左先輩は無表情で小さくVサインをこちらにして見せる。
双子特有のシンパシーというやつだろうか。
「忙しいといえば、凪左先輩は最近お仕事忙しいんですか?」
「ちょーっとだけ。 でも、なんとか時間作れてるから大丈夫」
凪左先輩は先程の抜群の演技を武器に、この歳で女優として活動している。
それも、全て主役級。
そんな多忙なスケジュールを縫って、わざわざ学校まで会いに来てくれているのだ。
「カズタカが居てくれるから、お仕事続けられてる。 前までは、ちょーっと忙しかっただけですぐダメになってたから」
俺の心を読んだかのような、発言に俺はびっくりして何も返せなかった。
その態度に不満だった凪左先輩が、こちらをジトリと見てくる。
「こーゆー時は、会いにきてくれてありがとうとか言わないとダメ。減点10てーん」
「あー、なんか最近似たようなことを結衣にも言われた気がします」
「他の女の子の名前を出したから、減点90てーん!」
あっという間に赤点を通り越して0点になってしまった。
女心ってやっぱり難しいなぁ……。
「こんなに鈍感大王なのに私達の秘密になんで気づいたの? 世界七不思議に入れてもいーと思う」
「誰が鈍感大王ですか……。 まぁ、さっきも言った通り直感的に違うとしか言えないんですよねぇ……」
秘密──それは、容姿の似ている二人が時々入れ替わりながら学校に登校しているという事だ。
仕事が忙しくて、中々授業が受けられない凪左先輩を気遣った澪右先輩が考えた策だったらしい。
実際、去年は上手くいっていたらしいのだが、偶然俺が入れ替わりに気づいてしまったのだ。
それを知ってしまった事で、二人とお近づきになって──今に至る。あ、そういえば。
「そういえば、澪右先輩が普段、無表情モードでいる理由って───」
「ついたー!」
その言葉を聞いてふと辺りを見ると、ものすごい大きな門が目の前にあった。
門の横には『日見夜』と書かれた表札がついている。
「……相変わらずめちゃくちゃデカい家ですね」
「こんなにおーきくなくていいと思う」
凪左先輩は門の奥に見える豪奢な作りの邸宅を見て、少し苦笑いを浮かべると門へ向かって、ゆっくりと歩き出した。
俺も釣られるように一緒に歩き出す。
「送ってくれてありがと。それにきょーも一緒にいられて楽しかった」
「俺も楽しかったです」
「よかった。じゃー、これからも責任とってくれるの?」
「もちろんです」
そう答えると凪左先輩の顔が柔らかく微笑む。
「ありがとう。じゃー、またね」
「はい。また今度」
手を振ると、俺は凪左先輩に背を向けて歩き出し始める──その時、スマホが音を立てて振動する。
立ち止まって、確認した画面にはこう表示されていた。
『毎日違う女の子と仲良くしているんですね。 私との責任はお忘れですか? ちゃんと、果たしてくださいね』
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