ダイバーエクストラ/ダークピンクローズ 第9話

 『薔薇色』


「お疲れ様。

後はやっとくから、早く、トムくんに会いに行きなよ」

 フロアの掃き掃除を終えたニコに美桜が言った。

「へへへ、いいんスか?

お言葉に甘えちゃおうかな」

 ニコはエプロンを外し、パーカーの上からダウンを羽織った。

「じゃ、お先に失礼します」

 そう言って店を出ようとするニコに、美桜は手を振って声をかける。

「帰り道、気をつけてね」

 ニコは満面の笑顔で答える。

「じゃあね〜♪」

 ニコは手を振り返して、店を出て行った。

 店長とバイトじゃなく、お友達の挨拶だった。

 ま、お友達だけどね。

 美桜もエプロンを外した。

 さ、わたしも帰ろ。

 美桜が帰り支度をしようとした時、店のガラス戸が開いた。

 美桜は振り返って、反射的に言った。

「何? ニコ、忘れ物···」

 振り返った先には、ニコではなく、あの革コートの男が立っていた。

 え?

 美桜は一瞬にして、頭がパニックになった。

「あ···今、外で女の子と会って···」

 革コートの男も何だか上がった口調。

 あの子、何余計なこと言ったんだろ?

 革コートの男は後ろ手に持ってたものを、美桜に差し出した。

 ダークピンクの薔薇の花束。

「あの、これ···良かったら···」

 差し出された花束。

 美桜はそれを受け取った。

 薔薇の良い香りが美桜の鼻をくすぐった。

「これ、わたしに···」

 美桜が不安気に男に聞いた。

 革コートの男は真っ直ぐに美桜を見て、ハッキリとした口調で言った。

「はい、あなたのための花束です。 

薔薇、お嫌いじゃなかったですか?」

 美桜は横に首を振った。

「薔薇のお花、大好きです」

 男と美桜は見つめ合った。

 店の外、ニコが気配を消して、盗み聞きしていた。

 美桜ちゃん、1番好きな花は桜って言ってたのに。

 恋する乙女はかわいいな♡

 La Clarte [ラ・クラルテ]

 お店の名前。

 透明、清らかって意味。

 でも、今は透明じゃなく

 薔薇色に見えるよ。

 ニコは歩き出した。

 スマホを取り出し、コールした。

 相手が出た。

「あ、トム。

うん、今から帰り。

···トムもバイト終わった?

···お疲れ様。

···今から、トムんち行くね。

···ね、今日、イチャイチャしたいな♡」


 ダークピンクローズの花言葉

『愛を誓います』


ダイバーエクストラ/ダークピンクローズ 了

公式ガイドブック13へ続く

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