ダイバーエクストラ/ダークピンクローズ 第2話

 『気になる今日この頃』


 長身の若い男。

 お尻がスッポリ隠れる丈の重厚な黒い革コートを着ている。

 左耳のハンズフリーイヤホンからは古い曲。ポリスのパンクロックが聞こえてくる。

 男は最近、いつも同じコースを歩く。

 日が暮れ、大体決まった時間帯に同じ店の前を通る。

 その店は美容室。

 La Clarte [ラ・クラルテ]

 ガラス張りのオシャレな入り口。

 壁面もほぼガラス。

 店内は白を基調とした明るい感じ。

 なぜ、その店の前を通るのか。

 それは、店内にいる1人の女性が目当てだからだ。

 店内とは一変して、黒を基調とした服装をした若い女性。

 お客を輝かせるために、自分は黒子に徹する。そんな雰囲気を感じる。

 革コートの男は店の前を通過する時、少しスピードを落とす。

 お目当ての女性と目が合った。

 今日は長い髪を下ろしている。

 その顔つきからは強い意志を感じる。けど、その瞳からは優しさを感じる。

 店内の女性が軽く会釈した。

 顔を上げると、優しい笑顔だった。

 革コートの男もつられて、それを返した。

 それ以上は何も無く、ただ店の前を通り過ぎる。

 別に何も無いのだ。

 最初はオシャレな美容室だなって思って、店が気になった。

 そして、店内の女性が気になるようになった。

 ただ、キレイな人がいるなって、思っていた。

 ある日、その人と目が合った。

 次の日から、今のように、無言の挨拶を交わすようになった。

 気になる。

 ただそれだけなのだ。

 店を通り過ぎると、何か店内が騒がしい気がした。

 革コートの男はそのまま、歩を進めた。


 第3話へ続く

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