マジックブレーカー      第8話

 『エムの正体』


「Ah ya ya ya ya I keep on hoping we'll eat cake by the ocean♪」

 プールサイドにデッキブラシを掛けながら歌う。

 曲はエムが口笛を吹いていたのと同じ曲。

 赤いキャップを被り、白いダボダボのつなぎに白い長靴。

 つなぎには『トール社』のロゴが入っている。

 キャップからはみ出た明るい色の長い髪の毛はポニーテールにして、束ねてある。

 プールサイドを掃除していたのは、若い女性。その出で立ちは水族館の飼育員のようだ。

 ブラシ掛けも一段落し、柄を肩に担いで、ハルコはプールに声を掛けた。

 競泳用のプールではない。

 水生生物を飼育するようなプール。狭くはないが、広くもない。

「あ〜、暑い!

こんな日はプライベートビーチでフローズン·ダイキリでも一緒に飲みたいね、

エム!」

 ハルコはプールの水面を見たけど、反応は無かった。

「ん?」

 ハルコはプールサイドの階下に下りた。すると、水槽越しにプールの中が観察できた。

 水槽のガラス面の下の壁には、1枚の銀色のプレートが貼ってある。

 プレートには

『EZM2』と刻印されていた。

 ガラスの向こうの水槽には、1頭のシロイルカ、ベルーガがいた。

 ベルーガは仰向けの状態で水槽の底近くをゆっくり漂っていた。目をつぶり、ヒレも動いていない。

 ベルーガは寝ていた。

 トール·エレクトロニクス社が遺伝子操作を行い生み出した1頭のベルーガ、『EZM2』

 飼育係のハルコは、愛情を持って、このベルーガを『エム』と呼んでいた。

「何だ、寝てたのか。

かわいい寝顔。

きっと、疲れたんだね。

ぐっすり休んで、エム。

良い夢見てるといいな」


 第9話へ続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る