マジックブレーカー 第2話
『ドラゴンスラッシュ』
エムと名乗った男。
着古したポンチョから旅人の雰囲気がする。
片眼鏡を掛けていた。
眉骨と頬骨とで挟む伝統的な形ではなく、左側のみのブリッジと片側のテンプルを持つ、艶消し黒の丸眼鏡。
テンプルにはイヤホンが付いていた。
逆手に持った黒い棒。
大型拳銃のような形。
そのグリップから、艶のある黒い棒が伸びて、青白い電流を帯びていた。
銃身の先となる部分には銃口の代わりに、先端にレンズみたいな物が付いている。
鳥マスクの男がゆっくりと動き出した。その動きからさほどダメージは感じられない。
「話は後で。
ちょっと下がっててくれる」
エムはサラに言った。
優しく、穏やかな口調。
「···はい」
サラは素直に従った。
鳥マスクの男は立ち上がると、帽子とマスクを取った。
鳥。
巨大な人型の鳥。
毛をむしり取った肌色の肌。
青く濁った白目に、黒目。
橙色のくちばし。
鳥マスクの男の正体は醜い鳥の化け物だった。
エムはイヤホンに小声で話し掛けた。
「管制室。
スタンスティックが効かない。
ドラゴンスラッシュの使用許可を」
「ドラゴンスラッシュの使用を許可します」
イヤホンから女性の声が答えた。
エムが使用するマーカーとスタンスティックが合わさったアイテム。黒い棒が収納される。
エムはグリップの起動ボタンを押した。
レディー!
合成音声が流れると同時に、グリップから緑色の光の刃が出現した。まるで、スターウォーズのライトセーバー。
マスクを脱いだ鳥の怪人。
恐ろしく発達した筋肉が膨れ上がり、重布のガウンを引き破る。両腕も丸太のように太くなり、指からは鋭い爪が伸びた。背中からは羽根が生えた。肉と骨だけの羽根の無い翼。
鳥の頭をした醜い化け物は、鳥とも人とも言えない奇声を上げた。
サラは思わず、耳を塞ぎ、膝を着いた。肩に掛けたバスケットが落ち、中からキノコがこぼれた。
エムの片眼鏡。正面から見ると、透明なレンズ。しかし、内側にはいろいろなデータが映し出されていた。鳥男のシルエット、該当無しの表示を見て、エムはイヤホンに小声で話した。
「あれは人間じゃないな」
「魔法使いリドルが作り出したキメラです。
殲滅(せんめつ)してください」
「了解」
鳥男が動いた。意味も無く翼をはためかせる。素早い動き。鋭い爪がエムを狙う。
速い。
エムは体をかわしつつ、緑色の光刃を振るった。浅い踏み込みから放つ刃は低い唸りを上げるが、鳥男に簡単にかわされる。
エムは片眼鏡のモニターをチェックした。
筋力リミッターはすでに70%解除。これ以上は体に負担がかかり過ぎる。
ただの鳥でこのスピード。猛禽だったら、リミッターを100%解除しても追いつかない。
これが無ければ、ヤバかったな。
エムは不敵な笑みを浮かべ、マーカーを鳥男に向けた。
鳥男が動いた。
エムが引き金を絞る。マーカーから赤いレーザーが発射された。直線的なその軌道を避けて、鳥男がエムに迫る。
次の瞬間、レーザーが意思を持ったように曲がった。鳥男を捕らえる。
エムはマーカーのレバーを操作した。
点だったレーザーが分散して、細かい網のように広がる。レーザーの網は鳥男の全身を包み、拘束した。
身動きが取れない鳥男。成すすべも無い。
「勝負あったな」
エムはマーカーのジョイスティックレバーを思い切り押し下げた。鳥男を捕らえる網、その網につながるマーカーより伸びたレーザーが、エムを牽引するように縮んだ。
その力を利用してエムは鳥男に迫った。スゴいスピード。レーザーが縮みきって、マーカーとレーザー網が触れた瞬間。網は消え、鳥男は解放された。しかし、そのまま、緑色の光刃が鳥男を真っ二つに斬り裂いた。
切り裂かれた鳥男の体、白い蒸気を上げてシュー、シューと音をたてて、蒸発する。男の体があった位置に2つの黒い影が残った。
戦いを終えたエムが振り返ると、サラが安堵した表情で近づいてきた。その目は希望に光り輝いていた。サラは尋ねた。
「あなたは、伝説の···
あの、マジックブレーカー様ですね」
エムは笑顔でゆっくりと首を横に振った。
「違うよ。
おれはただのダイバーだ」
森の木の上で、戦いの一部始終を傍観していた、一羽のカラス。
左目が赤い。
まるで、ルビーを目にはめ込んだよう。
カラスは悠然と羽根を広げ、その場を飛び去った。
第3話へ続く
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