ゴースト・プロトコル     第8話

 『等価交換』


 公園の外灯の下、オバケも現れないまま、2人はずっとおしゃべりしていた。

 何度かおかわりして、紅茶も無くなった。

 トムの首にかけられた御守りの紫色の紐。首の後で切った跡が結ばれている。その変化に誰も気づいていない。

「オバケ、出なかったね」

 ニコが残念そうに言った。

「仕方ないよ。

けど、本当にどうして、オバケなんて見たかったの?」

 トムがもう一度尋ねた。

「う〜ん。

どうしてだろ?

小さいとき、コワい目にあったし、オバケ、キライなんだよね。

なのに、どうしてかな? 

ある日、ふと思ったんだよね。

アレ···

頭が重かったの、治ってる。

軽い!

快適♪」

 ニコがバンザイして、元気をアピールした。

「そう、良かった♪」

 真相を知らないのん気な2人。

「でも、ニコと夜中に2人きりでいっぱいお話できて、ぼくは楽しかったよ」

 トムが無邪気に笑うと、ニコもつられて笑った。

「だね。

わたしも楽しかった。

あ、そうだ、ご褒美」

 ニコがダウンジャケットのジッパーを開けた。

 スウェットがふくよかな胸で盛り上がっている。

 トムが生唾を飲んだ。

 ニコの胸に手を伸ばす。

 ピシッ。

 ニコがトムの手を払って、ジッパーを閉めた。

「今回はご褒美無し!」

「え、何で、そりゃないよ!!」

 ニコはわざとらしく咳払いして、お姉さんの口調で言った。

「トムくん、自分の胸に手を当ててごらん」

 トムは言われたままに従った。

「今回、トムくんは何かした?」

「···とくに何も」

「オバケに会えた?」

「···オバケいなかった」

「紅茶、美味しかった?」

「···ごちそうさまでした」

「とゆ〜わけで、おっぱいはおあずけ」

「え〜!!!」

「トムくん、世の中は等価交換なの。

対価を払わないと、何も得られないよ」

 トムは残念過ぎて、今にも泣き出しそう。眉毛も八の字になっている。

「ニコ先生、何をすれば、おっぱい相当の対価となるんですか?」

 先生と言われたニコは満更でもない、お姉さんよりの先生を演じる。

「いい質問ね、そ〜ね···ガラの悪いチンピラから守ってくれたりとか」

 トムの目が見開く。

「ニコ先生、それなら、しました!」

 自信ありげに答えるトムに、ニコは怪訝な顔つきになった。

「···いつ?」

 トムの自信が揺らぐ。

「···いつだろ?」


 帰り道を2人で歩く。

 ニコは右手をヒラヒラと手持ちぶさたにしていた。

 さみしい蝶々。

 それに気づいたトムはニコの右手を突っついた。

 ニコは驚いた。

 サプライズ。

 ニコもトムの左手を突っつき返した。

 トムはニコの右手を握った。

 ニコもトムの左手をギュッて握り返した。

 恋人つなぎ。

 トムはニコの方を見た。

 視線が合う。

 ニコはニッコリと笑った。

 世界一かわいい笑顔。

 トムは思った。

 ぼくは、きみのおもちゃだよ。


 マーク·ボランがシャウトした。


第二部 ゴースト・プロトコル 了

公式ガイドブック11に続く

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