ブラックパープルメンソール 第5話
『一服』
高校の屋上。
うちの学校はわりとレベルが高い。
授業中にサボるやつなんていない。
ましてや、施錠されたドアをスルーして、換気用の小窓から屋上に出ようというやつもいない。
ここはわたしの特等席。
寒さはコートとマフラーでしのげばいい。
天気の良い日中の一服は格別だ。
タバコスティックを吸い込み、空に向かって盛大に煙を吐き出した。
アイコスの煙で雲を作ろうと思った。
でも、無理だった。
「あの人、カッコ良かったな···」
自分でもらしくないこと言ってんなって思った。
顔が熱い。
スマホのインカメで顔をチェック。
控え目なメイクをした女子高生が顔を赤くしてた。
「恥ずかし···」
サクラ。
デリヘルの源氏名。
わたしの本名は美桜。
普通、身バレを恐れて、本名から源氏名をつけるなんてことはないらしい。
ただ、面倒くさかっただけだ。
お金が欲しい。
欲しい物がいっぱい。
すべてが欲しい。
それがわたしの望み。
スマホにメッセージが入った。
スマホを見る。
チャラっとチャームが揺れた。
ビーズで作ったチャーム。
カナがくれたもの。
いつまでこんなのつけてるんだろ。
不意にカナのことを思い出した。
塾の帰り。
スマホを見た。
10時過ぎ。
思わず遅くなってしまった。
入学した高校はレベルが高かった。
中学のころは、授業をしっかりと聞き、適当に宿題を済ませるくらいで充分だった。
わたしは頭が良い。
そう思っていた。
けど、どうやらそうではないらしい、
残念だ。
キラキラした女子高生生活。
何か、イメージと違う。
だって、キラキラしてないじゃん。
あ〜も〜、お腹空いた。
近道して帰ろ。
あやしいホテル街を抜ける。
ホテルから出てきたカップル。
剥げたスーツ姿のサラリーマンと、やけに若い女の子のカップル。
パパ活。
そんな言葉が頭をよぎった。
人目を気にせず、チューしてる。
恥ず!
こんなとこ、ヤッパ通るんじゃなかった。
サラリーマンと別れた女の子。
目が合って、唖然とした。
バッチリメイクをしていても、わかった。同じ高校のクラスメイト。幼なじみのカナだった。
目が合い、しばらく経ってから、カナが右手を広げて言った。
「···や!
ヤバいとこ見られちゃったな」
カナの服装。見ただけでわかった。
高い服、高い靴···高過ぎるバッグ。
「ヤバいとこ見ちゃったね。
ね、カナ、お茶しない?」
わたしはカナをお茶に誘った。
聞きたいことが山ほどあった。
フラペチーノをストローですすって、カナは言った。
「等価交換だよ。
若さとかわいさ。
それを引き換えに代価をもらってるだけ。
女子高生なんて、一瞬。
利用しないと、損だよ」
半年後、わたしも等価交換を始めた。
パパ活ではなく、デリヘルでのバイト。
法の目、ヤクザの目から逃れるヤバい店だった。
だから、身分証明なんていらない。
ギャラは取っ払いの現金払い。
ヤバい分、取り分は多い。
高2になって、カナは自主退学した。
ヤバいパパと知り合い、クスリに溺れた。刹那の快楽の代償は大きかった。家族に連れられて入った施設を脱走。道路を飛び出し、車にはねられて死んだ。
おそらくは、自殺。
カナは命と引き換えに何を得たのだろう。
···自由かな。
それも、等価交換だ。
スマホのチャームを乱暴に引きちぎった。
紐が切れてバラバラになったビーズ。
空に向けて、投げた。
陽の光を受けて、ビーズがキラキラと輝いた。
「···キレイ」
わたし、感覚がもう壊れてるのかな。
間違いない。
きっと、そうだ。
見知らぬオッサンのチンチンしゃぶったり、股を開けば、お金になる。
欲しいものが買える。
マックでバイトしても、
わたしの欲しいものは買えない。
欲しいものが手に入る。
ソレを覚えたら、もう抜けられない。
ディオールのiPhoneのスマホケース。
新色が出た。7万円。
それが欲しい。
そういえば、メッセージが入っていたんだ。
チェックする。
放課後に予約が入った。
舌マニアだ。
ヤバい、吸っちゃったよ。
わたしはそう思いながらも、タバコスティックを吸い込んだ。
第6話へ続く
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