第10話 水色の封筒

小学校の教師をしていた頃。

夏休みのある日。

自宅のポストに入っていた水色の可愛らしい封筒。


宛名は自分、でも差出人はなかった。

生徒の誰かが送ってくれたのかな?

そう思って自然と笑顔になる。


家の中に入って、もう一度封筒の裏表確認してみる。


表には拙い平仮名で“やまもとせんせいえ”と書かれていた。

子どもらしい誤字にクスッとする。

裏にもやっぱり差出人の名前は無かった。


中身を見れば誰からの手紙か分かるかな?

そう思って、どんな事が書かれているのかワクワクしながら封を開ける。


中には少し厚手の紙が一枚。

メッセージカードみたいな物を想像しながらそれを見た瞬間。

その場の空気が凍った様に、血の気が引いていった。


厚手の紙は、写真だった。

そこに写っていたのは……。


自分の子供と…明らかに異様な相貌をした見知らぬ女。


眼窩が落ち窪み、右半分の顔が垂れ下がった生気のない顔。

ガリガリにやせ細った枯れ枝の様な四肢。

所々抜け落ち、地肌が見えるほど薄くなった髪。

汚れと破けの目立つ肌色に近いロングスカート。


アイツだ……。

彼女は直感する。


写真の中は我が子が通う小学校の校庭。

そこで満面の笑みで駆けっこをしてる最愛の息子と、その姿をまるで捕まえるように腕を伸ばす女。

心拍数が跳ね上がっていた。

何故なら……。

その女に見覚えがあったからだ。


子どもの頃、自分を追いかけまわし、恐怖のどん底に陥れたあの化け物。

居なくなったと思っていたのに……。

次は息子だと言っているような気がした。


自分は捕まらなかったが、もし捕まったら一体どうなってしまうんだろう……。

急激な恐怖に駆り立てられ、彼女は急いで小学校へと向かった。



封筒の送り主は、なぜあの写真を撮れたの…?

誰が送ってきたの……?

車を飛ばしながら考える。


――水色の封筒。


そう言えば、子どもの頃に化け物を追い返してくれた男の子がいた。

その子が好きな色だったなと後になって思い出した。

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