第32話 仲間になれますか

 ❁


 ここは、何処だろう。

 確か、優依さんたちの話を聞いていて、死んだことを聞かされて、ショックで気を失った。

 死んだ。誰が?

 星の王国のお姫様と、月の王国の王子様が。


 それは、誰?


 優依さんと慧依さんが前世で仕えていた王子様は、誰?


 シャリオちゃんと友だちになりたいと言ったお姫様は、誰?


 それは……。


 もう少しで掴めるのに。何か、とても大切な何かを。忘れていてはいけない、何かを。


 白と灰色が混濁とした空間に浮かび、わたしは宙を搔く。掴めないものを掴もうともがくように。


 ――……。


『だぁれ?』


 誰かがわたしを呼んでいる。今もずっと、大切なあの人が。


 ――美星。


 そう呼ぶのは、夢月。そういえば気を失う直前、必死な顔でわたしを呼んでくれた。

 でも、それならば、さっきの別の声は誰?


『もしかして……わたしは、本当は……っ』


 大切な記憶。思い出さなければならない記憶。それに手が届く前に、わたしの体がぐんっと何かに引っ張られた。


『待って。まだ、届いていないのに』


 わたしの意思など関係ない。ぐんぐんと引っ張られ、わたしはこの世界―夢―から覚めるのだと知った。


 ❁


 ぼんやりと目を開けると、わたしは天井に向かって手を伸ばしていた。夢の中で何かを掴もうと必死だった名残だろうか。


「……待って」

「気付いたのか、美星?」


 わたしの顔にかかった前髪を指で退けたのは、上から覗き込んで来る夢月。彼の不安げな表情、深緑色の瞳を眺めていたわたしは、徐々に意識がはっきりとしていく。そしてようやく、現実を把握した。


「……ご、ごめんなさい! わたし、こんな所で眠ってしまって」

「大丈夫だ。それよりも、気分はどうだ?」


 慌てて上半身を起こすと、くらりと一瞬視界が回った。


「わ」

「っ!」


 とさっと音がして、わたしは咄嗟に閉じていた目を開ける。すると、夢月に受け止められていたことを知った。恥ずかしさで一気に顔が熱くなる。


「ご、ごごご、ごめんっ」

「あ、ああ。大丈夫だから、急に起きるな。気を失ってから起きたんだから、目眩ぐらいして当然だ」

「面目ない……」


 そろそろと体を起こすと、視線を感じた。不意に戻ってきた記憶に、わたしは血の気が引く。

 振り向けば、案の定ツインスターの二人がこちらを見てニコニコしている。高速で頭を下げた。


「ご、ごめんなさいっ!!」

「気にするなって。って言ったって気になるだろうけど、きみらにショックな話をしたオレたちも悪いし」

「そうそう。過去とは言え、人が死んだ話なんて聞いて気持ちのいいもんじゃないからな」


 優依さんと慧依さんが笑ってくれて、わたしはほっと胸を撫で下ろす。するとわたしを支えてくれていた夢月が、肩を竦めて苦笑いした。


「俺も休ませてもらったし、この人たちもちょっと寝てたから大丈夫だ。ですよね、先輩方?」

「さっきまで仕事してたからなー。静かにしてれば大丈夫だろ」

「……まあ、あまり良くないことはわかってるさ。俺たちも順番に寝たし」

「開き直っちゃった」


 脳天気な男子たちに、わたしは思わずふふっと笑ってしまう。それが彼らの気遣いだとは気付かなかった。


「さて、二人共起きたし、もう少ししたらお開きをしようか。これから戦闘の場で会うこともあるだろうし、協力して地の王国の企てを阻止するんだ」

「だからさ、二人の連絡先教えてくれよ。オレは夢月の知ってるけど、慧依は両方知らないだろ?」

「この前から、優依はそればっかりだ。変なやつだろ?」


 くすくす笑う慧依さんが、手にしていたスマホをわたしたちの方へと差し出す。そこにはメッセージアプリが表示されていた。


「これのアカウント、二人共持ってる?」

「これ、ですよね」

「わたしもあります!」

「あ、美星ちゃんはオレとも交換してね」


 四人で連絡先を交換し、解散することになった。

 慧依さんと優依さんは帽子を目深に被り、マスクもして変装する。わたしたちとは反対方向に去ろうとする二人に、わたしは思わず「あのっ」と声をかけた。


「どうしたんだ? 美星ちゃん」

「忘れ物かい?」

「美星……?」

「美星様?」


 鞄の中のシャリオちゃんにまで心配されて、わたしは「そうじゃないんです」と首を横に振った。


「あの……お二人は、もうわたしたちの仲間、だと思って良いんですよね!?」

「仲間……。うん、俺もお二人が仲間なら心強いです!」


 わたしの叫びに、夢月も乗ってくれた。鞄から顔を出したシャリオちゃんも「うんうん」と頷いている。


「……だってさ、慧依」

「らしいな、優依」


 しばらくぽかんとしていたツインスターの二人が、互いを見合ってふっと笑った。それから、優依さんが「勿論だろ」といってわたしたちに手を振る。


「デメアから人々を守り、地の王国の脅威を退ける。そのために、一緒に戦っていこう。いつでも連絡してくれて良いからな」

「すぐに会えるだろうけど、また会えるのを楽しみにしているよ。何があっても駆けつけるから、遠慮しないでくれ」

「――っ。ありがとうございます!」


 慧依さんと優依さんを見送って、わたしたちも帰ることにした。だけどわたしには、一つ気になることがある。

 歩き出そうとした夢月が、わたしを振り返って首を傾げた。歩かないから、不思議に思ったのかも。


「どうした? 行こう、美星」

「……ねえ、一つ気になることがあるんだけど、もう少しだけわたしに付き合ってくれないかな?」

「今日、お前んちは?」

「誰もいないよ。夕方にはお母さんが帰って来ると思うけど」

「じゃ、美星の家に行こう。それでも良いか?」


 夢月の提案を受けて、わたしたちは行き先を変更した。そして、わたしの家を目指して歩き出す。

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