第17話 思い出話
「それにしても……」
ぽりっと駄菓子を食べながら、夢月が呟く。
「デメアってのは色んな姿があるんだな。今までは動物が三体。……これ、無機物とか人間とかっていうこともあり得るのか?」
「無機物の例は今までありませんが、人間ならばあり得ます。実際、以前デメアが人間の姿で現れたことがありました」
それが戦争の始まりでした、とシャリオちゃんは言う。
「人そっくりに化けたデメアが、徐々に人々を侵食し、地の王国が付け入る隙を作り出したのです。わたしたちはそれにギリギリまで気付かず、気付いた時には戦火を止められなかった……」
「シャリオちゃん……」
「デメアは、一体では力が知れています。けれど、群れになった時が怖い。……わたしも精一杯フォローします。デメアがはびこれば、姫様たちを捜すどころではなくなりますから」
シャリオちゃんの言葉が、わたしたちの心に突き刺さる。一気にわたしたちだけの問題ではなく、周りをも巻き込むものなのだという実感がわいてくる。
「……一番は、俺たち以外にバレずに倒すことだよな」
「そう出来るよう、頑張らないとね」
「わたしも……同じ轍は踏みません」
三人で頷いて、何となく部屋の空気が重くなる。それが何となく嫌で、わたしは努めて明るい声を出した。
「ね、シャリオちゃんの思い出深い姫様と王子様との思い出聞かせて欲しいな!」
「お、思い出話ですか?」
「うん。捜すヒントになるかもしれないし、単純にわたしが興味あるだけなんだけどね」
「美星様……」
目を丸くしていたシャリオちゃんが、どうしようかと迷うそぶりを見せる。少しでも気が紛れればと思ったけれど、これは逆効果だったかな。
そう不安になったわたしの気持ちを見透かしたように、食べていたものを飲み込んだ夢月が話を合わせてくれた。
「俺も聞いてみたい。……俺と王子に関係があるのかとかそういうのはわからないけど、一秒でも早くシャリオが本当の主人のもとへ戻れるよう、手掛かりは小さなものでも欲しいしな。きっと王族なら、今の俺たちじゃ考えつかないようなこともしていたんだろうし、魔法とか剣とか、そういう世界へのあこがれもある」
「お二人が喜ぶような話が出来るかはわかりませんが……」
そう前置きして、シャリオちゃんは姫様や王子様とのエピソードを話してくれた。一緒にお茶をして、好きな本の話をしたこと。幼い頃恥ずかしがりやな姫様と、物静かだった王子様が二人で遊んだこと。
「姫様、本当に可愛らしかったんです。王子様のことが気になるのに、恥ずかしがってばかりで。一生懸命話しかける姿は、今も思い出します」
「へぇ……。美星も結構、昔は引っ込み思案だったよな。今はそうでもないけど」
「む、夢月だって、昔からポーカーフェイスで怖がられてたくせに! 落ち着いてて淡々としてて……そういうところは今もあんまり変わらないけど」
「騒ぐのが得意じゃないだけだ」
夢月は、昔から女の子にモテた。だからといって男子に強く嫉妬されることはなくて、何故かどの女の子にも塩対応。彼女がいたこともない。彼女面してきた子にも「彼女いないから」とバッサリ振ってたな。
そんなことを思い出して言い返すけれど、悪口にはなりきらない。結局落ち着いて対応する夢月が、わたしをなだめて終わるばかりだ。
何となく空気が暖まって、シャリオちゃんはようやくふわっと笑った。
「お二人も、お互いを昔からご存知なんですね」
「そうだよ、幼馴染」
「だな。お互い、知らないことを探す方が難しいかもな」
「そうかなぁ」
少なくとも夢月、あなたはわたしのあなたへの気持ちを知らないよ。
そう言い返すことは絶対にない。わたしは曖昧に笑うだけに留める。夢月が何か口にしようとしたけれど、それを遮るようにわたしのスマホが着信を告げた。
「電話? ちょっと待ってて……紗都希ちゃん?」
「本原?」
「うん。もしもし、紗都希ちゃん? どうし……」
どうしたの。そう問いかけるよりも先に、紗都希ちゃんが被せるように大きな声で言った。
『た、大変なの!』
「……び、びっくりした。紗都希ちゃん、一体どうしたの?」
『今、買い物に来てるんだけど』
どうやら紗都希ちゃんは、市の中心部にあるショッピングモールに一人で出掛けているみたい。そこで何かを見たらしいんだけど。
(まさか、デメア?)
そう思って警戒したけれど、紗都希ちゃんの声色は弾んでいる。違うみたいだ。
「怖いことがあったわけじゃないんだよね?」
『ある意味怖いけど、違うの。実は、さっき福引みたいなのをやったんだけどね』
紗都希ちゃんによれば、一か月後に同じショッピングモールで開かれるラジオの公開収録イベントに参加出来るチケットが当たるくじ引きが行われているみたい。結果は引いた直後にわかるというもの。
『その福引で、何と当たったの!』
「凄いじゃん! おめでとう」
『ありがとう! それだけじゃなくてね、公開収録のゲストがなんと……あたしが推してるアイドル・ツインスターなの!』
「ええっ!?」
流石に驚いて、わたしは夢月とシャリオちゃんの前で声を上げてしまった。
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