第6話 シャリオの過去
わたしはベッドから離れようとしたけれど、夢月が「そこにいたら良い」って言うからそのまま。夢月のベッドにいるんだと思うと、凄くドキドキするんだけど……。
そんなわたしの心情を当然知らず、シャリオちゃんが話し始める。
「まずは、デメアを倒してくださってありがとうございます」
ベッドに正座して、シャリオちゃんが頭を下げる。次に顔を上げた時、彼女の眉間には深いしわが刻まれていた。
「デメアは、わたしたち王国の者にとって敵なのです。遥か昔、どんな記録にも記憶にも残らない時代に、二つの勢力が争った際に生まれた化け物です」
「シャリオちゃん。シャリオちゃんは、何処かの国の人? なの?」
「あと、遥か昔って……シャリオはずっと生きてきたのか?」
「そのあたりも、順を追ってお話しします。ただわたしは説明が不得意なので、そうやって質問して頂けると話しやすいですね」
シャリオちゃんは苦笑をにじませてから、姿勢を正した。
「大昔……この宇宙には二つの王国が存在しました。星の王国と月の王国。それぞれ名はありましたが、今は使われない言葉なので割愛しますね」
「もう存在しないってことか」
「その通りです。そしてもう一つ」
人差し指を立て、シャリオちゃんは言う。
「二つの王国と、互いに不可侵の約定をした国がありました。地の王国です。こちらの正式な名前は、わたしも知りません。ただ便宜上、そう呼ばれていました」
「地の王国……」
何となく、心がざわつく。不安に駆られて夢月を見ると、彼も顔をしかめていた。
「その地の王国と、不可侵を破った戦争が起こったってことか」
「はい。星の王国と月の王国は同盟関係にあり、地の王国ともそうでした。ですがある時、地の王国が他の二国を同時に攻めたのです」
星の王国と月の王国の兵士たちは懸命に戦い、王族も加わり、二か国の連合軍は一旦は地の王国を押し返したとか。けれど戦いの中で多くの人々が傷付き、命を喪い、疲れ果てたとシャリオちゃんは目を伏せた。
「収まったかに見えた戦闘でしたが、地の王国はデメアを創り出し、戦力としました。一匹ならばまだ対処のしようもありますが、群れとなれば話は別です。こちらもかなりの被害を被りました」
「……」
「……」
「わたしは星の王国の姫様に仕えていたのですが、戦いの後、所謂コールドスリープに入りました。……一人で生きていても仕方ありませんでしたし、姫様は生まれ変わると聞かされていましたから」
「生まれ変わる……?」
それこそ、ファンタジーの世界だ。そう思ったけれど、自分自身が変身したり敵と戦ったり、そもそもシャリオちゃんという存在が目の前にいるのだから、ファンタジーと笑い飛ばすことは出来ないのだけれど。
わたしが聞き返すと、シャリオちゃんは大きく頷いた。
「はい。実はわたしのお仕えしていた姫様は……戦いの中で非業の死を遂げました。あの方と想い合っていた月の王国の王子もまた、戦死しました。お二人は生まれ変わり、その時生きる世界が再び危機に瀕した時、目覚めるはずだと」
「……そんな」
あまりな過去に、わたしは思わず手で口を覆った。心臓がギュッと掴まれたみたいに苦しくて、息がしづらくなる。
夢月も同じ気持ちだったのか、顔をしかめて胸元を掴んでいる。シャツがしわになったまま、彼は沈痛な面持ちで呟いた。
「……近しい人を二人も。だが、どうして俺たちに助けを求めたんだ? その姫様と王子の生まれ変わりに頼んだ方が良いだろうに」
「それは……」
言葉を濁すシャリオちゃんが気の毒になって、わたしは彼女に聞いてみた。もしかして、と前置きをして。
「もしかしてなんだけど、あそこでデメアに会うとは思わなかったんじゃないかな。それで、わたしたちが偶然そこにいて、助けを求めるには丁度良かったのかも」
「えっと……」
「成程な。じゃあ、本物の姫様たちを捜さないといけないよな」
わたしの推測に、夢月が同意を示してくれた。
夢月は「じゃあ、これはどうだ?」と一つの提案をシャリオちゃんに示す。
「俺たちがどこまで出来るのかはわからないけれど、シャリオが捜している人たちが見付かるまで、俺たちが代理で動くって言うのはどうだろう? デメアっていうのが今後も現れるのなら、何も知らない一般人が襲われたら一大事だろ」
「確かに、その通りだね。……うん、シャリオちゃん、わたしたち、姫様たちを捜すの手伝うよ。それと、さっきみたいな戦いの経験ももっと積んでいく。そうすれば、いざという時が来ても姫様を守りながら戦うことが出来る」
「……わかりました。代理ということで構いません。よろしくお願いします」
改めて頭を下げたシャリオちゃんに、わたしと夢月はそれぞれ同様に頭を下げた。
それからふと気になったのか、夢月がちらっと自分の手のひらを見てから口を開く。
「そいうえば、美星は杖を使って呪文を唱えていたけど、俺はどうなるんだ?」
「……夢月様にもぴったりな武器がありますよ。次の機会のお楽しみです」
「そっか。改めて、これからよろしく。シャリオ」
「よろしくね、シャリオちゃん」
「はい。宜しくお願いします」
こうして三人で挨拶を交わし、わたしたちはデメアから人々を守るために契約を結ぶことになった。
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