そしてまた

そして気づく

 ルナの最期から、二週間経った。時間だけが無慈悲に過ぎていく。紗羅の世界はどの色も褪せて見えた。


 妹がいない部屋に入るたび、かつてそこにあったはずの妹の日常がある気がしてならない。机に置かれたペンケース。読みかけの小説。ベッドの上に投げ出されたままのお気に入りのぬいぐるみ達。そのどれを見ても、ふいに喉が詰まり呼吸が苦しくなる。



 ――もっと早く、想いに気づいていたら。

 ――もっと早く、たとえそれが禁忌でもあの子の気持ちに応えていたら…


 後悔は砂のように降り積もり、胸の奥に疼痛となって居座り続けた。


 そんなある夜のこと。

 紗羅はふと、喉の奥からざらつく違和感を覚えた。


「……っ、ん……」


 小さく咳き込んだ瞬間、口の中に柔らかなものが転がった。

 指でそっとつまみ出すと、それは――淡い白の桜の花弁だった。


「……え……」


 自分でも声が震えているのがわかった。

 理解が追いつくより早く、心臓が強く締め付けられた。


 花吐き病。

 報われない恋を抱いた者がかかる、残酷な病。


 ――そんなはず、ない。

 ――そんなはず、あるわけない。

 ――まさか、私は…ルナを……?


 紗羅の視界が滲む。

 胸が痛い。焼けつくように痛い。

 気づいてしまえば、もう言い訳はできなかった。


 ルナが恋をしていた相手。

 ルナが救いを求め、涙を落とした相手。

 ルナが最後まで名前を呼んでいた相手。


 それは、私だった。その私もまた…


「……ごめん……ルナ……」


 呟いた瞬間、また咳が込み上げた。今度はひとつではない。

 花弁が、何枚も何枚も、掌からこぼれ落ちた。

 

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