第34話
里の車は小さな赤色の可愛らしい車だった。
里は財布だけ持ってあとの荷物はなにも持たなかったので、美里も持っていくものは財布だけにした。
山間の道を抜けて街中に入る。踏切をこえて道を曲がるといきなりそこには真っ青な海が見えた。
思わず美星は目を大きくして驚いた。
美しい。
こんなに美しい風景を見たのはいついらいだろう? そう思った。
「どうや? 海やで」里が言う。
「うん。海だ」子供みたいな声で美星は言った。
二人でとりあえず校舎の屋根の下にあるベンチに座って雨を見ることにした。
やまない雨。鬱陶しい雨だ。
「俺が笑わせたるよ。面白いことしたる。見といて」自信満々の顔で里は言う。
里は流行りの動画の真似をする。でも全然面白くなかった。
「全然面白くないよ」と笑いながら美星は言った。
「わろてるやん」と笑いながら里が言った。
「里ってさ。なんでいつもそんなに元気なの? 落ち込むこととかないの?」
「あるよ。いっぱいある」嬉しそうな顔で里は言う。
大きな海。
白い砂浜。
波の音が聞こえる。
風が思っていたよりもずっと強かった。
「私、自分の名前嫌いなんだ」
海を見ながら美星は言った。
「美しい星で美星。いい名前やん」
砂浜の上にあった小石を海に投げながら里は言った。
「そんなことない。名前負けしてる。私はそんなに綺麗じゃないし、心だって美しくない」
風に飛ばされないように、白いスカートを押さえる。
「綺麗やよ。すごく可愛いよ。美星は」
笑いながら里は言う。
「馬鹿にしてるでしょ?」同じように笑いながら美星は言う。
「してへんよ。それに美星は可愛いだけじゃなくて心も綺麗やよ。俺は知ってる!!」
突然、会話の最後のところで大声を出して里は言った。
周りには数人の人がいる。
その人たちが里と美星を笑いながら見ていた。
「里。恥ずかしい」
「恥ずかしかってもええやん。本当のことなんやから」
そんな里に美星は海の水をかけてやろうかと思ったけど、我慢した。(中学生の私なら絶対にがまんできなかっただろうなと思った)
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