第32話 美しい星 恋をすること。

 美しい星


 恋をすること。


 広い海が見える。

 青色の海。

 朝の時間。晴れ渡っている空。

 少し歩くと道路の先に果てしない海が見えた。

 その風景は本当に綺麗だった。

 ずっと忘れていたなにか。

 感情。思い出。やりたかったこと。

 そんないろんなことをたくさん、たくさん思い出した。

「きてよかった」

 思わずそんな言葉が口から出た。

 こんな素敵な場所にあなたは住んでいるんだ。羨ましいな。と思うのと同時にとてもあなたらしいなと思った。


「こんにちは」

 声をかけると古い家のから「はい。どうぞ」と明るい声で返事が聞こえた。

「久しぶり。元気だった?」

「元気よ。そっちはどう? 元気でやってる?」

 里はにっこりと笑って言う。

「もちろん。元気よ。元気。私はいつだって元気いっぱいだったでしょ?」

 里に負けないようににっこりと笑って美星は言う。

「さあ。あがって、あがって。長旅で疲れたでしょ? まずは家の中でゆっくりして行って」

「どうもありがと。お邪魔します」家の中に足を踏み入れながら美星は言った。

 なんの気兼ねもいらない関係。本当に中学生時代に戻ったみたいだと思った。


「なにしてるん? 渡辺」

 階段の上からそんな里の言葉が聞こえた。

 上を見るとそこには里がいた。

「なんでもない」

「泣いてるんやけ、なんでもないことないやろ?」

「なんでもないって言ってるでしょ!」

 思わず大きな声で美星は言う。

 美星はその場を去ろうとする。

「外。雨降ってるで」

「そんなの、関係ないよ」

 美星はその場から逃げるように駆け出していく。

 でもその腕を里はしっかりと捕まえた。

「待てって。雨降ってるって」

 里の言葉が鬱陶しい。

 むかつく。

「離してよ」

 冷静な声で美星は言う。

「離さへんよ」と里は言った。

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