第5話

免許返納した後、何回か叔父たちが「ゴルフ行くかい?」と誘ってくれていたが、クラブハウスの中で迷子になったり粗相をしたり、が目立つようになり、さらに失禁がほぼ毎日という状態になったので「これ以上はゴルフ場にも叔父たちにも迷惑かけるから」と断わることに。


それでも1番下の叔父はなんやかやと様子を見に来てくれていた。

その叔父が急逝し、通夜会場に向かう父と母。

父は最後まで「叔父が亡くなった」が理解できず、「自分の親兄弟はみんな元気ぞ?今日のこれ(お通夜)は誰の何か」と繰り返し、久しぶりに顔を会わす親戚筋は一様に「えええ…」


「兄弟の中で1番しっかりしていた兄さんがこんな…」と叔母たちは母にどうして?を聞いていたが、どうして?はこっちが聞きたい、今日のこともこの会場を出れば覚えてないから、と言うしかなかった。

実際家に着いたら「なぜ自分がよそ行きの格好(喪服)をしているのか」が分からず、「どうしてこんな服を着せた!!」と怒るので1番下の叔父が亡くなったこと、そのお通夜にお参りしたことを説明してみた。聞いた瞬間は「ええっ!」という顔をするが、次の瞬間には今聞いたことを忘れている(というか覚えていない、海馬が何の役にも立たなくなっていた)

そんな父に母は「納得いくまで」と何度でも説明していたが、私は「どうせ覚えないし無駄だ」という認知症患者に対して最悪の態度を取り続けた。

母にも「覚えてないんだから何を言われても『ハイハイ』って流さないと。『わかるまで』なんて、わかることはこの先絶対ないんだから。あんたの方が摩耗してしまうよ。そもそも私のことを忘れて、あんたのことも『どちら様?』とか言うくらいじゃん。どうせなら家と土地に対するあの執着を忘れて欲しいわ、そしたら施設に預けられるのに」という、他人から見ても「え、この人実の子どもなのになんでそんな態度?」を取り続けた(未だに取り続けている)

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