連帝王戦争
第11話 嵐の前の日常
乾かしていた服を着て、立てかけていた棍を腰に括る。
異常が無いかどうか確かめながら体を動かす。
チラリと見えた横腹にできた痣に懐かしさを覚え、家を見渡す。
簡素な小屋である。
床に敷かれた藁があるだけで他は一切無い。
乾いた藁の匂いで満ちていた。
壁の隙間から漏れる朝の光が、舞い上がる塵を照らす。
身長が高くなると前の家は住めなくなった。家無しで生活することはさすがに厳しく、苦労して手に入れた時は涙を流した。
家から出る。鍵はつけていないが泥棒は来ないだろう。盗める物も無く、何よりここは怖いお兄さん達の所有物だからだ。
「よぉ、レン。いつも朝早いじゃねぇか。」
ドスの効いた声に、乱暴な言葉遣い。
最初は驚いたが、随分と慣れた。
「おはようございます、ビィレントさん。近くの森で採取するので、早めに行かないと無くなってしまうんですよ。」
「あんなとこ行くのはお前さんだけだよ。」
「そうなんですか、私にとっては穴場なんですけどね。」
「クックック、穴場ねぇー。墓場の間違えじゃねぇのかい。」
ビィレント。
スラムで幅を利かせているギャングの一人。スキンヘッドに頭部に縫われた跡が何本もあり、一目で堅気では無いとわかる。
が、とても優しい。
見た目とは裏腹に、家が無く困っていたときに助けてくれた恩人である。
今だってそうだ。
森に行くことを心配してくれている。
彼から聞いた話によるとあの森はとても危険らしい。
魔物の中でも最弱と言われるゴブリンですら、大人でも武器を持たなければ負けてしまう。オークなんて尚更だろう。
そんな魔物が多く生息するあの森はスラムの住人ですら足を運ばない。
出会った当初、彼からしたら私は奇異に映っただろう。
「それでは行ってきます。」
「おう、気ーつけて。」
環境は多少変わってもやることは変わらない。
私はスラムの路地裏を静かに駆ける。
森の前に到着する。
未だ一人で入れず、師匠が来るまでは時間ができる。
私はこの時間を魔力操作に充てている。
「知識」で得た座禅のポーズを取り、深く呼吸を繰り返す。
現在三廻を危なげなく廻せる。戦闘中も安定して三廻を扱えるので、もう少しで四廻にいけるのではと期待している。
そしてなんと棍に魔力を纏わせることが出来た。「
私は魔力がクッションのような役割をしていると勝手に解釈している。「魔纏」ができた時はあの技が使えると期待したが、使えていない。
背中を撫でる風が吹いた。
私は迷わず前方へと転がる。背後からの気配から蹴りをしてくると判断する。
素早く棍に魔力を纏わせ、体を回転させ勢いよく振るう。
想像以上の脚力に力負けしてしまう。わざと反動を大きくし、後ろに下がり距離を取る。
私は身体を弛緩させ、相手を睨む。
「悪い、悪い、坊主が不意打ちに対処できるか見たかっただけだぜ。そんな怒らなくてもいいだろ。」
「今月で3回目ですよ。毎度やっては不意打ちの意味がありません。もう少し頻度を抑えてください。」
「まぁ、考えてやらんこともない。」
師匠は相も変わらず鬼畜である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます