モノクロームトリガー ―君なき世界で、君を選ぶ―
眞門 燕
プロローグ《真経津鏡》
「『全てを失わなければ、何も取り戻せない』、か」
16歳の天才小説家・葦原 廻(あしはら・めぐり)は、時間の進行が停止して、色が失われたモノトーンの風景に立ち、そう呟いた。
瀬戸内海の小さな島・沼島に立つ神社の境内。世界で色が残るのは自分自身と、妹の葦原 祷(あしはら・いのり)。そして神社の入口に立つ赤い鳥居だけだった。
その鳥居は奥の風景を写してはいなかった。
鳥居の内側は満たされた水面、あるいは磨き抜かれた鏡面のように静かに輝き、戻ることを許さない門であることを告げていた。
その力は、三種の神器の一つ《真経津鏡(まふつのかがみ)》。高天原(たかまがはら)の八百万(やおよろず)の神々が、天の安河に集まって、川上の《堅石》(かたしは)を金敷とし、金山の鉄を用いて作らせた、尊き神を宿す神代の《神宝》だ。
「お兄、ここを潜ると──もう戻れないんだよね?」
祷が、廻に事実を確認するように言った。わずかに声に震えと緊張が伴った。
「ああ。でも、降りかかる死を、運命のままに終わらせられない」
幼少期から大切な人たちが、次々と失われてきた過去が、廻の脳裏をよぎった。
二度とこの世界に戻れなかったとしても、失ってはならない、奪われた人たち。
「祷、俺は行くよ。奪われた全てを、取り戻すために」
葦原 廻は、そう決意して鳥居への一歩を踏み出した。
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