15
「沈んだぁ?、この状況じゃ仕方ないにしても、最後の最後でセコい真似しやがってよ」
レプタは情けなさに溜息をついた。
被害にあったハンドガンはさほど高価な品ではなく、買おうと思えばその辺で普通に買える。実弾入りの火器の盗難は危険ではあるものの、はるかに危険な武器や魔法や生物が闊歩しているこの世界では、些細なことだった。
しかし、問題なのは盗難という事態そのものである。退職直前の職員が、安物とはいえ備品をせしめて、誤魔化す目的で重量も似せたモデルガンを紛れこませたのだ。誰が棚を触ったかは、名簿に自動で記録されている。
「み、みんな使ってなかったじゃないですか、ひとつ無くしても誰も困らな」
「会社の物を持ってくなっつってんだ、買えよ自分で」
しどろもどろのバットに、レプタが眉をひそめて指摘する。ふいに、バットが叫びだした。
「…!、先輩!僕は騙されていたんです!、密猟者のクズたちに脅されて、どうしても…!」
「はあ?!」
「親分!それはないでしょう!」
「そっちから声かけて来たんじゃないですか!」
バットの主張に、裏切られたやられ役たちは次々に寄って来る。レプタは元後輩がチンピラにまとわりつかれる光景を見て、冷ややかな目をしていた。
「契約書だってここにあるんですよ、親分!!」
「えー何それ何それ、ちょっと見せて」
Aが後生大事に懐へ隠していたぺらぺらな紙を、レプタがかすめ取る。のろまなAに対しバットは凄まじい形相をしているが、何もかも手遅れだ。
レプタが紙に書かれた内容を上から下まで丁寧に確認して、わざとらしい大声を出した。
「やってんな、タカモリ。ドラゴンの密猟そのものが違法だから契約も何も成立しないけど、書いてる事もひでえもんだ」
「え?!」
「保全部隊さん、それほんとですか?」
この状況下でなぜか懐いてきたCが、レプタに事情を聞く。
「これ取り分半々って書いてるのに、…ドラゴンいるから詳細は伏せるが、高く売れる部分ばっかり持ってかれるぞ、大損もいいとこだ」
バットが持ち掛けた契約は、密猟の実行犯に表面上の利益だけをもたらす悪魔の契約だった。ドラゴンに関わる仕事をしている以上、何が闇市場に出回るかも知識として入ってくる。どこに高値がつくのかも、どこがゴミ同然の扱いをされるのかも、保全部隊には解る。
「親分!、それじゃあ、詐欺だったってことですか!!」
「さんざん走り回らせといて、自分だけ美味いとこ持ってくつもりだったんですね親分!!」
AだかBだかCだか、もう誰が誰なのかわからない喧騒になる。こんな状況にもかかわらず敬語で喋ってくれる、憐れなチンピラたちだった。
蒼白な顔で黙りこくってしまったバットに、レプタが畳みかける。
「で、そもそも何がしたかったんだ?」
「…あの…、…お金、足りなくて…、欲しい服も買えないし、旅行とか、何にも出来ないから…」
「働いて稼ごうよ、ウチだってちゃんと出すものは出して」
バットからこぼれたのは、学生並みの稚拙な言い訳だった。レプタが説教を続けようとしたその時。
「うるせえんだよ低学歴!理解できねえなら名門出身様に口答えすんなボケが!!」
バットが爆発し、その勢いに辺りは静まり返る。周りのやられ役たちはポカンとするだけで、龍の女王は廃棄物を見る目で見下ろしていた。
興奮のあまり肩で息をしていたバットだが、すぐに我に返って狼狽える。
「…違うんですよ先輩、今のは冗談で、その、本心じゃないんです」
だから助けてくれませんか?、と浅ましく媚びた目つきでレプタを見上げるも、元先輩にあたる男は一言返すだけだった。
「…その名門とやらを出てまでやりたかったことが、この逆ギレか」
レプタはバットの前に屈む。仕事も、悪事も、暴走の何一つも最後まで貫けない後輩に、レプタは弾圧用の麻酔弾を込めたハンドガンをよこした。
「…先輩?」
「タカモリ」
レプタがバットの名前を呼んだのは、この時が最後になる。
「覚悟があるなら、これで俺を撃って、船乗っ取って逃げ切れ」
ハンドガンを手渡されたバットの頭には、あらゆる物事が渦巻いた。
ここにいる人間全てから逃げきれたとして、背後にいるこのドラゴンはどうする。今起こったことは全て見られている上、勝てるとか負けるとかのレベルの話ではない。第一、レプタが追いかけてここまでたどり着いているなら、保全部隊の拠点にも動向は知られている。今の内定を蹴るのか。他地区の部隊に入り込むにしたって、情報が出回っているならもう取り返しがつかない。東区の局長も大人しくしているとは思えない。これらのことから逃げるための、最短の手段はひとつだけ。
バットは、銃口を自らの顎に押し当てて撃ち抜いた。
「…馬鹿野郎が」
レプタの悲し気なつぶやきは、砂漠の夜風に混ざって消えていった。
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