プロローグ③
ドラゴン舎の横、白い石造りの
観音開きの扉を押し開けると、既に私の気配を感じ取っていたのか、すぐ近くにちょこんと座っていた。
長い首、細い角、優美な翼、細い尾といった、東洋北方系ドラゴンの
力加減を教えるのに苦労したけれど、おかげでもう挨拶のたびに人間を吹っ飛ばすことはない。
頭をこすりつけられている間に、素早く健康チェックを済ませる。
「……うん、目も
だが顔周りの鱗は、そのドラゴンの
こういったことは全て記録に残し、
私は誰にも聞こえないよう、こっそりとドラゴンの仔の名を呟いた。
「ブランカ」
プラチナドラゴンの仔は尾を振って応える。
ブランカというのは、私と父が彼にこっそりつけた名前だ。
本当は勝手にそんなことをしてはいけないのだけれど、成体にならないと王族から名を
だから、王族には
「私はここを離れることになったわ。
深々と頭を下げる私を見て、ブランカは首を
この
踵を返す私の
引き留めるような仕草に胸が
「お願い、行かせて。私だってあなたと離れたくない、だけど……王族の言葉には逆らえないの」
その言葉を裏づけるように、ドラゴン舎に
私は素早く身を
現れたのは、意地が悪そうに口元を歪めた、初老の
ハンス王子の書記官も務めている男で、仕えている
執務官は十人もの衛兵を引き連れて中に入ってくると、私の腕を強く
「行くぞ。ぐずぐずするな」
「引っ張らないで……!
「はっ、どうだか。ここへ来たのも、このドラゴンを連れ去ろうと考えていたからなのではないか」
「とんでもございません!」
ほとんど引きずられるようにしてドラゴン舎を後にすると、背後でブランカがきゅうきゅうと鳴いた。
子犬が母犬を呼ぶ時の声に似ているが、間違えてはいけない、あれは
ドラゴンが怒る一歩手前の音。あれを聞いたら、すぐにでも頭を垂れ、
けれど、男に腕を引かれている状態ではそれも
「きちんとお別れができなくてごめんなさい! さようなら!」
「きゅうっ!」
バタン、と建物の扉は衛兵の手によって閉じられた。私はそのまま、待ち構えていた古馬車に押し込まれた。
かび
「馬車を出せ」
その言葉で、馬車はゆっくりと走り出した。
――北方辺境に向けて。
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