俺の選択を正すための青春は存在するのか
コナンオイル
1.思い出したくない過去は誰にでもある
人間は間違い、それを正すことで成長し、自他を欺くことで社会からの承認を得る。それが、この世においての正解であり常識である。しかし、それは時にして間違いにもなりうる。
答えが間違いにも正解にもなりうるこの矛盾は、俺には解消のしようもないし、世界中の誰にだって解消できない、それどころかそれを黙認さえしている。
つまり、世界中の人間がこの矛盾に、問題に向き合わないことを選んだんだ。
そして、それを知らなかった俺は愚かにも
―――向き合うことを選んでしまった。
それが正解だと信じて………。
そう、この先は言わなくてもわかるだろうが俺は、間違えた。少なくとも彼女の中では。
もしかしたら正解なんてないのかもしれない。現代で言うところトロッコ問題のようなものだ。個人の価値観によって答えが異なってしまう。
世の中の大半の問題には"正解"がある。例えば数学にきちんとした"正解"があるし、食事のマナーにだってその場に適した"正解"がある。
また、先ほどのトロッコ問題のように答えがない問題もある。恐らく、今から喋る問題はどちらかといえば後者の部類だろう。
あの日見せた、いつもの
どこか陰りがあって、目元に薄っすらと涙を溜めていた。
ああ、その時、それが確かな間違いであることが酷く、はっきりと理解してしまった。
中学三年生は色々多感な時期である。
異性の一挙手一投足に敏感になったり、一大イベントである修学旅行があったり、人生を決める高校受験に向けて勉学に勤しんだりする。
当然、俺こと
4月になりクラス替えが行われた。うちの中学は1年毎にクラス替えが行われれる。クラスは全部で7つある。俺は3組になった。
3年生ともなれば、クラスが多かれど顔見知りは増えてくる。去年、または一昨年クラスが一緒だったやつ、部活が同じやつも居たりする。俺は当時バスケ部に所属していた。
バスケ部は人数も多く、部活のやつらが同じクラスになるのも珍しくはなかった。
かくいう俺も、その一人であり、当時はいわゆる
陽キャと呼ばれる人間で、バスケ部に所属したこともあり新しいクラスでも知らない人間はほぼいなかった。
そんな俺でも知らない人間がクラスにいた。
肩くらいに綺麗切り揃えられた髪。目鼻立ちがしっかりとした端正な顔立ち。しかし、それを隠すかのような黒縁の丸眼鏡を掛けている。
身長は、女子の平均よりは少し高いくらいだが、顔が小さいので遠くから見れば、さながら高身長モデルに見える。
キャワイイ。
そんな俺の目に一際存在感を放つ彼女の名前は、
流美と初めて話したのは、ある放課後のことだった。俺が教室に忘れ物をしたときに、掃除当番だった彼女は廊下でふざける同じ当番の人をよそに、教室を一人で黙々と掃除していた。
俺は彼女のことを知らなかったが、何より初めて見たときに一種の一目惚れのような状態になっていたので思わず、掃除している彼女に話しかけた。
いきなり話しかけられて不審者扱いされるかと思ったが、案外優しかった事に驚いた。
彼女は、掛けている眼鏡のせいで暗く見られがちだが、話してみると印象とは裏腹にとても明るい子だった。趣味は読書で、ジャンル構わず様々な本を読んでいた。
俺も、陽キャの中では珍しく趣味が読書で、数少ない同じ趣味を持つ人であったこともあり俺たちは、順調に仲を深めていった。それはもう、ソニック的速さで。あれ、ソニックって形容詞だっけ?
そんな事は置いといてまあ、お互いが読んだ本を貸しては、感想を語り合うということを繰り返しているうちに一緒に本屋などにも行くようになった。
時には、図書館に行って一緒に勉強をしたり、公園で談笑もした。懐かしいなあ。
今になって思い返すと我ながら、受験生であるにもかかわらず、何たる体たらくだと思ってしまう。だが、幸いというべきか、俺たちはそこそこ勉強ができたこともあり暇さえあれば二人で会っていた。
4月から3カ月間経った7月に俺は彼女に告白をした。その告白は成功し、俺たちは晴れてカップルになった。
これからどんなふうになっていくのか、未来に期待を膨らませていた俺は、これが崩壊の序章であることに気づくことができなかった。
夏休みになり、彼女と会うことも以前よりは少なくなった。
この時期になると部活も終わったことでようやく勉強に専念できる状況になったということもあり、偏差値の高いところを狙う組と、そうでない組にそれぞれ分かれる。俺は前者の人間だったため、終日勉強に勤しんでいた。
そうはいっても休むことも必要であり、俺たちは息抜きという名目で二人でデートに行ったりしていた。
これが良くなかったのだろう。俺たちがデートに行っているところを学校の誰かが目撃したらしく、俺たちが付き合っているということが瞬く間に広がっていった。
当然、俺は様々な人間にこのことについて訊かれ、
最初は言葉巧みに濁していたが、それにも限界があり俺は事実を話した。
それが間違いだったのだ。
夏休み中は学校も無かったので、携帯だけに注意を向けていればよかったが、学校が始まればそうはいかない。クラスのやつらや他クラスの友達にまで根掘り葉掘り訊かれた。
そこから徐々にちょっかいをかけられるようになった。まあ、冷やかし程度ではあるのだが。だが、それも次第にエスカレートしていき、当時俺のことを好きだったらしい女子(噂程度だが)が流美に嫌がらせをするようになった。
下駄箱の靴に画鋲が入っていたり、流美にわざと聞こえるように悪口をいったりといったものだ。最初は大丈夫と言っていた流美の顔も段々弱っていった。
俺の方は流美ほど酷くはなかったものの、今までつるんでいたグループの奴らから強くあたられるようになった。
理由としては、グループのリーダー格の奴が流美をいじめている奴のことが好きらしく(俺のことが好きだと噂されている)、そいつにしてみれば大層面白くなかったのだろう。
今の今まで溜まっていた
教師にもいじめについて相談したが、教師曰く、「あまりこの忙しい時期に面倒事は起こしたくないから」と一蹴され、親には話すことさえできなかった。
というのも、俺の親は離婚しており父親が3歳のときから男手一つで育ててくれているということもあり、これ以上迷惑をかけるというわけにもいかなかった。
彼女も彼女で家庭の複雑な事情があって、親に話すことができなかったらしい。
本人から家がお金持ちということは聞いていたが、それ以上のことは喋ってもらえなかった。
まあ、こんなふうに文字通り四面楚歌の状況であり、誰に助けを乞うこともできず俺たちの精神はいじめと比例して悪化していった。
そんな時期で修学旅行という大きなイベントが待ち構えていた。
当然、俺たちの会話の中に出てくることもしばしばあったが、いじめられる今となってはさながら
それもそうだ、日に日にいじめが悪化していくにも関わらず修学旅行というご飯から寝るに至るまでの、生活のすべてを共にするというのだ。
休むという選択もしたかったが親にいじめのことを言っていない手前、それをすることは不可能に近く諦める以外の方法はなかった。絶望というのはこいう状況の事を言うんだろうか。
そんな来たるべき地獄によって、これまでになく疲弊していた俺には徐々にある一つの考えが浮かんできた。
それは……
彼女と、桜川流美と別れるというものであった。
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