魚を耳元で食べながらペラペラと語り出すイカれ狂ったマッドな彼女
助部紫葉
1
((( 魚 を 食 べ る 音 )))
「ふむ」
「なにをしているのか⋯⋯ーーと?」
「何故。キミは見れば分かることを聞くのかね?」
「そうだね」
「見ての通りボクはキミの耳元で魚を食べているよ」
「⋯⋯⋯⋯ん?」
「それは見れば分かる⋯⋯ーーと?」
「ふむ」
「キミもちゃんとボクがナニをしているのか理解しているじゃないか」
「何故。理解していることをわざわざ聞くのかな?」
「うむ」
「そうではなく?」
「ほうほう」
「何故。ボクがキミの耳元で魚を食べているのか?それの意味がまるで分からない⋯⋯ーーと」
「それは実に簡単な質問だね」
「ボクはただ⋯⋯」
「キミの耳元で魚を食べたかった⋯⋯ーーただそれだけの理由さ」
「ふむ」
「その行動の意図がまるで分からない⋯⋯ーーと?」
「それは実に哲学的な質問だね」
「そうだ。哲学的だ」
「キミは行動に対する意味を求めている」
「いいかい」
「行動に対する理由というものは、そもそも存在していない」
「全ての物事はただそこに存在しているだけなのさ」
「その物事に理由付けをしているのは自分自身の思考であり、個々人の趣味趣向、人それぞれの考え方に起因している」
「例えば」
「そう」
「「魚を食べた」という行動に対する結果だ」
「キミは魚は好きかね?」
「まずは魚を好きだと仮定しよう」
「そうするとだ」
「「魚が食べられた!美味しい!嬉しい!」となるね?」
「それはキミにとって幸福なことだろう」
「逆にキミが魚を嫌いだったと仮定しよう」
「すると、どうかな?」
「幸福だった物事が反転してしまう」
「「魚を食べてしまった⋯⋯不味い⋯⋯気持ちが悪い⋯⋯」と、なるね?」
「それはキミにとって不運なことだ」
「さらにもっと考えてみよう」
「キミが魚を別に好きでも嫌いでもない」
「どちらでもないと仮定しよう」
「その場合は「魚を食べた。特に感想はない」と、なるね?」
「このように魚を食べるという行動に対して個人の考え方や、捉え方の違いで様々な結果に行き着くワケだ」
「つまりは」
「魚を食べるという行動に変化は無い」
「しかし」
「人の考え方ひとつで結果は変化はする⋯⋯ーーと」
「全ては人の考え方の差」
「物事に意味はなく、その意味を見出すのは思考によるものということだね」
「さて」
「ボクの言っていることは理解できたかな?」
「ふむふむ」
「そうだね」
「その解釈で概ねあっているよ」
「わかってくれたようだ」
「キミは実に聡明だ」
「ふふっ⋯⋯」
「まったく」
「キミと言う奴は⋯⋯」
「なかなかね」
「ボクの話は理解されないのだが」
「説明が下手なのかな」
「かなり分かりやすく解説しているつもりではあるのだが」
「人に伝えるというのは実に難しいモノだよ」
「しかし 」
「キミは分かってくれるか」
「そうかそうか」
「そうだったね」
「分かっていたことだったとも」
「キミがボクの一番の理解者だ」
「ふふっ⋯⋯」
「⋯⋯キミは本当に物好きな奴だねぇ」
「いや」
「なんでもないよ」
「それでは話を続けようじゃないか」
「物事に意味はなく、それに意味を持たせるの思考だ」
「ならば」
「思考を弄ることによって事象は自在に操ることが可能なのではないか⋯⋯ーーと」
「そう思わないかね?」
「幸福も、不幸も」
「正義も、悪も」
「そんなものはこの世の何処にも存在してなどいない」
「それは
「人それぞれが」
「勝手に」
「それをそれとして認識しているだけなんだ」
「物体はあれども、実態は無い」
「まあ仏教で言うところの色即是空、空即是色みたいなものだ」
「ん?」
「しきそくぜくう、くうそくぜしき」
「だよ」
「
「
「
「色即是空、空即是色とは色=空、空=色と言う意味になる」
「色は空であり、空は色である」
「同じことを2回言っているね」
「魚は泳ぐ、泳ぐのは魚⋯⋯みたいなものだ」
「確かこんな感じの言葉を何処かで聞いたことがあるね」
「あー、そうだ」
「小泉構文というヤツだったかな?」
「うむ」
「少し違うかな?」
「まあ、今はこの話はどうでもいい」
「つまりこれが何を言いたいのかと言うとだね」
「物体に実体はなく、実体ないものは物体である⋯⋯ーーと」
「まるで意味が分からない」
「矛盾している」
「そう思うのも無理は無い」
「まあまあ落ち着きたまえ」
「形あるものは実体を持たない」
「つまりそれがどういうことか」
「実体を持たずに変化し続けているということだ」
「逆も然り」
「変化を続けることで実体として存在するようになる」
「結論、色即是空、空即是色とは実体はあるのに実体はないということになるね」
「ふふっ」
「安心したまえ」
「キミのためにボクがちゃんと教えてあげよう」
「分かりやすくしようか」
「魚を食べるという行為に実態はあるね?」
「だが、その魚を食べてどう思うかは人それぞれで定まっていない」
「となるとそれに実体はないだろう?」
「つまりはそういうことさ」
「魚を食べるという行為は確かにある」
「しかし、それをどう思うかは状況によって変化し、不変的なものではない」
「うーむ」
「少し失敗したねぇ」
「行為を例題に出してしまうと少しややこしくなってしまう」
「そうだねぇ」
「単純明快にここは魚でいこうか」
「魚があるね」
「キミはこの魚になんの思い入れもない」
「それはキミの考えであってボクの考えではない」
「実はこの魚はボクがとても大切に育てていた魚で昨晩、天寿を全うしてしまったんだ」
「だから、せめてこれからはボクの中で生きられるようにと焼いて食べていたんだよ」
「さて」
「ボクの想い。ボクの魚に対する想いを聞いてキミはこの魚のことをどう思っただろうか?」
「ボクの大切だったものと言われるとキミにとってもただの魚ではなくなるだろう?」
「さらに続けよう」
「実は今の話は全て嘘だ」
「この魚は適当にスーパーで買ってきたものでボクはこの魚に対してなんの情も抱いてはいない」
「どうかな?」
「これでまた魚に対する認識が変わっただろう?」
「魚という存在はまったく変わっていないのにも関わらず魚という存在の重みが変化していった」
「無価値なモノから、大切なモノへ」
「そこからさらにまた無価値なモノへと変化した」
「このように実体に対して、その実体に意味を見出しているのは人それぞれの価値基準である⋯⋯ーーと」
「それが今の話で理解出来たかな?」
「これはね」
「この世の全ての物事に当てはまるんだ」
「キミにとっての大切なモノは他人からしたら無価値なモノであるかもしれない」
「だから」
「物体に執着することはやめなさい」
「大切なモノは想いであって物体ではない」
「物体に囚われても、それは物体でしかない」
「それは等しくそこにあるだけのモノ」
「想いひとつで見ている世界は変わる」
「世界を認識しているの自分自身」
「希望に満ち溢れた輝かしい世界にするのも」
「絶望しかない汚れた世界にするのも」
「考え方⋯⋯それ次第ってワケさ」
「ならば」
「今、ボクらが生きるこの世を幸せにするのは実に簡単なことじゃないかい?」
「ただ幸せだと思いこめばいい」
「それだけで全てが幸せになる」
「どんな不幸も、悲しみも、逆境も、痛みも、苦しみも」
「それをそう思わなければ成り立たない」
「そう思わなければいい」
「全ては自分の思考で塗り替えられる」
「不幸を幸福だと思えばいい」
「悲しいことを楽しいと思えばいい」
「逆境をチャンスだと思えばいい」
「痛みを快楽だと思えばいい」
「苦しむことを気持ちがいいことだと思えばいい」
「それで世界は変えることが出来るんだ」
「そうだねぇ」
「少し極論かも知れないねぇ」
「確かに」
「どうしよもうもなく辛い現実を前にして自分が幸せだと思い込むの難題だ」
「まあ、それを乗り越えることこそが悟りを開くということだよ」
「悟りを開くと全ての苦しみから開放されると言うだろう?」
「アレは苦しみを苦しみと認識しなくなるまで精神を鍛え上げているんだよね」
「まあ」
「これはあくまでボクの持論さ」
「ボクがそう思っただけ」
「だからこれはボクにとっては正しいことだ」
「キミにとっては違うかもしれないけどね」
「それでいい」
「どう思うかは個人の自由さ」
「世界は自分を中心に存在している」
「キミは自分が認識していない場所に本当に世界はあると思うかい?」
「何故、それが分かるのかな?」
「自分で見た訳では無いのに」
「テレビで見たから?本に書いてあったから?誰かから聞いたから?」
「それは証拠にはならないよ」
「だってそれはキミ自身が自分の目で見て感じたものじゃないじゃないか」
「まあ、キミにとってはそうかもしれないねぇ」
「でも」
「ボクにとっては違うよ?」
「ボクが今」
「見ているモノがボクの世界の全てさ」
「ボクの瞳には」
「今」
「何が映っているかな?」
「ほぉら⋯⋯」
「よく見てごらん」
「そこにボクの世界の全てがある」
「ボクの世界にはそれしか無いんだ」
「どうだい?」
「見えたかな?」
「ボクの瞳に映るものが」
「これまでの」
「ボクの世界は」
「実に」
「退屈で」
「くだらなく」
「無意味なモノだった」
「それがどうだろうか」
「考え方ひとつでこうまで世界は変わってしまうのかとボクは驚きを禁じ得ない」
「なるほど」
「これが悟りを開くということなのかと納得がいったね」
「ちょっと違うかな?」
「ふふっ」
「まあ」
「そんなことは正直どうでもいいことだ」
「ボクは全ての苦しみから開放された」
「それは確かに簡単なことだった」
「少しだけ考え方を変えるだけだった」
「こんな簡単なことに気がつけないとは⋯⋯」
「ボクも少し頭が硬かったようだ」
「とんだ笑い草だねぇ」
「世界は自分で変えられる」
「世界は自分でしか変えられない」
「なのにも関わらず努力の方向を間違った馬鹿共がなんと多いことか」
「嘆かわしい話だ」
「自分が気に入らない世界を変えようとして他人に害を成す事が実に愚かな行為だと、どうして理解出来ないのか」
「まあ」
「理解出来ない者には永遠に理解出来ないことだろう」
「だけど」
「キミは分かってくれるだろう?」
「ボクのただ1人の理解者であるキミが分かってくれないワケがない」
「不思議だ」
「他人の考えなど今まで何一つ気にしたことなどなかったのに」
「今はキミが何を考えているのか知りたくてしょうがない」
「不安?」
「はぁ⋯⋯」
「何を言っているんだい?」
「不安などないさ」
「ボクにはキミに好かれているという絶対的な自信がある」
「キミの想いが疑いようが無いものだとボクは理解している」
「しかし探求者としてもっと知りたいと思ってしまう気持ちも止められない」
「キミのことは全て知りたい」
「身体を開いてその全てを理解したい」
「この想いは留まることを知らない」
「キミが丹精込めて育てたんだよ」
「ボクのこのキミ対する想いは」
「誇るといい」
「キミの努力は確かに実を結んだ」
「現に」
「ほら」
「見せてごらん」
「キミの瞳を」
「キミがどんな世界を見ているのかを」
「見せてごらん」
「ほら」
「やっぱり」
「キミの瞳にはボクしか映ってないだろう?」
「キミの世界にはボクしかいないじゃないか」
「これでどう疑えばいいんだい?」
「疑う余地なんか無いじゃないか」
「それにね」
「他人の思考はどう足掻いても分からない」
「だからこそ」
「結局それを決めるのは自分自身だ」
「自分の思うままに信じればいい」
「ボクの世界はボクのモノだ」
「ボクの世界のキミもボクのモノだ」
「そのキミの思考もボクのモノだ」
「キミの思考を決めるのはボクだ」
「ボクが想ったことがそのままキミの思考だ」
「逆もしかり」
「キミの世界はキミのモノだ」
「キミの世界のボクもキミのモノだ」
「そのボクの思考もキミのモノだ」
「キミが思ったことがそのままボクの思考だ」
「世界を決定づけるのはボクでありキミである」
「ボクはキミで、キミはボクだ」
「そうだろう?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯おい待て」
「少し離れて欲しい、だと」
「それはどういうことだい?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「魚臭い⋯⋯?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「まあ」
「とれたての魚を調理していたからね」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「ほう」
「今までの話の殆どが魚の臭いが気になって、まったく頭に入っていなかった⋯⋯ーーと」
「ほうほう」
「なるほどなるほど」
「やはり他人が何を考えているかというのは、まったく分からないモノだねぇ」
「まあ」
「安心したまえ」
「キミのためなら何度でも説明してあげようじゃあないか」
「⋯⋯ん?」
「そもそも耳元で何故、魚を食べていたかの説明がまだされてない⋯⋯ーーと?」
「逆に聞くが」
「キミは何故それを知りたいと思うのだろう?」
「その理由は突き詰めると「そう思ったから」にしかならないかね?」
「それがそう思ったから、そうなったというだけにすぎないんだよ」
「ボクも同じさ」
「魚が食べたかった」
「キミの傍に居たかった」
「結果」
「キミの耳元で魚を食べるという行動に至ったわけだが」
「そこに明確な答えなど存在していない」
「誰しも明確な答えを提示されないと不安になってしまうのだろうね」
「だから人はすでに回答が出ている答えを求め続ける」
「自分の不安を払拭するためにね」
「分かっていても不安になる」
「疑惑のタネは取り除けない」
「裏切りを恐れ」
「自分で自分の首を絞め続ける」
「この世に絶対は無い」
「絶対を信じることしか出来ない」
「絶対を信じきれない心の弱さにただ苦しむ」
「想えば世界は変わる」
「自分の思うままに世界は変えられる」
「心を鍛えなさい」
「鍛えられたら苦労はしない?」
「そうだね」
「それが出来ないのが問題なんだね」
「とはいえ」
「自分自身でしかどうしようも出来ない問題だからねぇ」
「気合いでどうにかするしかない」
「ふふっ」
「そうだよ」
「根性論なんだよ」
「なんとも絶望的に投げっぱなしな回答になってしまうがね」
「こればかりはどうしようもない」
「世界を変えられるのは自分だけ」
「他人に変えてもらうことは出来ない」
「助けて貰うことは出来無い」
「自分でやらなくてはいけないんだ」
「気合いを入れなさい」
「しっかり両目を開いて世界を見なさい」
「そこから見える世界はただ存在しているだけだ」
「その世界に意味を見出すの自分の心だ」
「見える世界は綺麗だろうか?」
「それとも汚れて見えるだろうか?」
「それは綺麗でも無ければ汚れているわけでも無い」
「そう思ったから、そうなったにすぎない」
「それが世界だよ」
「どうだったかな?」
「ボクの話は心に響いただろうか?」
「⋯⋯⋯⋯」
「うんうん」
「そうかそうか」
「なるほどね」
「それは良かった」
「さて」
「ここで少し残念なお知らせがある」
「感動しているところ悪いのだけど」
「ボクの話に感銘を受けてしまった⋯⋯ーー」
「そこのキミ」
「ふふっ」
「宗教にハマる素質があるよ」
「どこか釈然としない」
「なにかが満たされない」
「漠然とした不安に苛まれている人に対して、こうした”それっぽい”教えというものは刺さってしまうものさ」
「これに共感を受けてしまったら最後」
「あとはズブズブと底の無い深い沼に堕ちていくだけだね」
「1度ハマったら決して抜け出せない怖い怖い沼さ」
「気をつけるんだよ?」
「⋯⋯ん?」
「自分は絶対に大丈夫⋯⋯ーーと?」
「そんな宗教になんかハマったりしない⋯⋯ーーと?」
「ふむ」
「そう言ってる頑固な者ほど特に危ないんだが⋯⋯」
「頑固ゆえ、1度気を許した事柄にはとことん甘くなってしまい無条件で全てを信じてしまうところがある」
「俺が信じることは正しい」
「俺が騙されている筈がない」
「つまり騙される筈がない俺が信じたことが正しい⋯⋯ーーといった具合にね」
「おや?」
「ふむ」
「心当たりがあるのかね?」
「なるほどなるほど」
「⋯⋯⋯⋯」
「ーーーーッ!」
「そ、そうか⋯⋯」
「まったく⋯⋯」
「本当にキミと言う奴は⋯⋯」
「そういう台詞をよく恥ずかしげもなく言えるねぇ」
「スケコマシめ」
「⋯⋯ん?」
「ボクもキミと大差ないだと?」
「ほう」
「ボクの何処にそう言った要素があるというのだね?」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「おい。やめろ」
「その話をほじくり返すんじゃない⋯⋯!」
「くっ⋯⋯!」
「若気の至りと言う奴だよ⋯⋯」
「はぁ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯ん?」
「そうだね 」
「言葉というモノは大事なものだ」
「意思疎通をとるためには、やはり1番便利なのが言葉だね」
「言葉以外にも意思疎通をとる手段は多々あれども、やはり言葉にするのが手っ取り早い」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯ほう?」
「そうだね」
「確かにね」
「それはボクが言ったことだ」
「⋯⋯⋯⋯」
「だがそれとこれとは話が別だろう?」
「いや⋯⋯」
「だから⋯⋯」
「それは⋯⋯」
「なんというか⋯⋯」
「やはりだな⋯⋯」
「直接⋯⋯口に出して言うのは⋯⋯」
「アレだ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯恥ずかしいだろう?」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯むっ」
「た、確かに⋯⋯」
「そうだね」
「恥ずかしいことを恥ずかしいと思わなければ恥ずかしくはない」
「そうかもしれないが⋯⋯」
「それはそれとして気持ちが追いついてこないだろう? 」
「ボクは別に悟りを開いたわけではないよ」
「痛いものは痛い」
「苦しいことは苦しい」
「辛いことは辛い」
「恥ずかしいものは恥ずかしいんだ」
「⋯⋯⋯⋯ッ!」
「それはズルだろう⋯⋯! 」
「ズルだよズル!」
「ま、まったく⋯⋯!キミはそういうやり口を一体どこで覚えてくるんだ!」
「よくないね!実によくないね!」
「ズルはいけないことだよ!」
「まったく⋯⋯!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯まぁ」
「その⋯⋯⋯⋯」
「なんだ⋯⋯⋯⋯」
「ぼ、ボクも⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯キミと同じ気持ちだよ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「ほう」
「キミはボクを疑うというのかね?」
「キミと同じ気持ちだと言ってるだろ?」
「その想いを疑うのかね?」
「キミに対して隠し事など一切ないが?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「ほう」
「ちゃんと言葉にして言わないのは隠し事をしていると受け止められても仕方がない⋯⋯ーーと?」
「それはキミの感想だろう」
「ボクは違うね」
「言葉にせずともボク達の想いは通じあっているんだ」
「それならばわざわざ言葉にする必要はないだろう?」
「⋯⋯⋯⋯」
「そうだね」
「ああ、そうだ」
「ボクはこのように大変面倒臭い性格をしているよ」
「それに何か文句あるかね?」
「そろそろ諦めたらどうかな?」
「ここまで来たら、もう絶対に言わないが?」
「⋯⋯⋯⋯キミも諦めが悪いね」
「こうなったらとことんヤル⋯⋯ーーと?」
「ふんっ」
「キミがそうくると言うならとことん付き合おうじゃないか」
「幸いにも時間はいくらでもある」
「とことんヤッてやろうじゃないか」
「ボクは絶対に「キミを愛してる」だなんて恥ずかしいセリフは言わないぞ!」
「あっ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「ふむ」
「まあ」
「今のセリフは忘れてくれたまへ」
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