第14話 友人たちとの遠足2
「うぅ……気持ち悪い」
オリエンテーリングもいよいよラストスパートというところで、遂に赤穂がダウンしてしまった。
「
「いや、ちょっと寝不足で……」
ダルそうに答える赤穂に、
「そういえば、行きのバスずっと寝てたよね?」
清瀬の言う通り、こいつはバスに乗り込むや窓側の席を確保し、アイマスクと耳栓を装着して速攻で寝ていた。
彼が寝不足な理由は明白である。
「お前さては昨日、徹夜で配信してたな?」
「……うん」
「ったく、早く寝ろってコメントしただろーが」
「だって、昨日は珍しく同接が11人で、2桁いたから……」
いや、言っちゃ悪いが徹夜でがんばる数字じゃないだろそれ。
まぁ、日頃の悲惨な数字を知っているから、その気持ちはわからんでもないけど。
「はぁ、歩けるか?」
「むりぃ……
「マジかお前……」
幼稚園児みたいな態度には呆れるしかないが、体調不良である以上は仕方ない。
「ちょっと待ってろ。荷物背負いなおすから」
背中のリュックをいったんおろして前で抱えようとすると、
「あ、荷物なら私持つよ?」
ニコッと申し出てくれたのは清瀬だった。
「え、いいのか?」
「うん、それくらいなら全然やるよ」
「悪い。ありがとな、清瀬」
いやほんとマジで助かる。
俺は清瀬に荷物を預けて、代わりに赤穂を背負った。
「よいしょっと……あ、思ったよりは軽い。いけそう」
「はは、おれのヒョロガリもやし体型が役に立ったな……」
ヒョロガリもやし体型じゃなくて普通の健康体だったら、そもそもこんなことになってないのでは?
ていうかそんな軽口叩けるならまだ元気あるだろお前。
釈然としないまま、友人を背負って森の中を進む。
そんな俺の背中に女子たちが優しく声をかけた。
「赤穂くん、もしかして熱中症かもよ?」
「スポドリあるけど飲めそう?」
これに、背後の赤穂は声を震わせる。
「おれ、こんなに優しくされたの初めてかも……うれしい」
「言っとくけど今1番優しくしてるの俺だからな?」
ちょっとキレそう。
一応病人だし、女子もいる手前なので、我慢はするが……
どうやら普通に会話はできるようなので、女子たちは声をかけ続けた。
「赤穂くんが配信活動してるのは知ってたけど、けっこうちゃんとやってるんだね?」
「あ、ああ……まぁそれなりには」
清瀬の問いに恥ずかしそうに答える赤穂。
なんかその態度がムカついたので口をはさむ。
「マジになるのはいいけど限度は考えろよ? 特に次の日に予定がある日とかはな」
「は、はい……気を付けます」
俺の注意を素直に聞き入れる辺り、一応は反省しているらしい。
次は霞野が遠慮がちにたずねた。
「ずっと聞いてみたかったんだけど、赤穂くんはどうして配信活動してるの?」
そういえば、俺も知らなかったなそれ。
割と本気で活動しているのだから相応の理由やきっかけがあるはずだ。
気になって答えを待っていると、背中の赤穂はモゾモゾし始める。
やめろそれ、なんか気持ち悪いから。
「あー……すっげーおもしろくないけど、大丈夫?」
「お、おう」
話しづらいことなら別に……と言うよりも先に、赤穂は淡々と話し出した。
「おれって人付き合い下手くそじゃん? だから中学は不登校で、引きこもってずっとゲームしてたんだよ」
不登校というワードに身体が反応し、一瞬身体が固まる。
しかし、赤穂は気にした様子もなく続けた。
「で、見兼ねた親がどうせゲームするなら配信でもしてみたらって言ってくれたんだ」
「え、すごい。素敵なご両親だね」
霞野の相槌に赤穂は頷く。
「ああ、配信機材とか全部揃えてくれて、ゲームとかは興味ないから配信は見てはくれないけど、応援はずっとしてくれてるんだ。だから、せめて機材代とかの元は取って返したいなって……」
このエピソードに女子たちは感動したのか、瞳を潤ませ口元を両手で押さえる。
「あ、赤穂くんってすごい良い子だったんだね……」
「うん、わたしも応援するよ……!」
俺も同じ気持ちだ。
今までなんとなく応援していたけど、これからは彼のご両親の分まで……
「まぁ1番の理由は配信活動で食っていけるようになりたいからだけど。マジで働くとかムリゲー過ぎ。おれは好きなことで生きていく!」
「…………」
「…………」
黙り込んで冷めた眼差しを送る女子たち。
俺も同じ気持ちだ。
ほんとさっきの感動を返して欲しい。
もうここに放置しようかなこいつ。
「でもそっかぁ、配信かぁ……」
ぽしょっと霞野がそうつぶやいた。
その声はどこか羨ましそうで、つい気になってしまう。
「もしかして霞野も配信とか興味あるのか?」
「え!? い、いや、わたしは……」
動揺する霞野に代わって答えたのは清瀬だった。
「
「な、
霞野が張り上げた声は裏返っていて、驚きと動揺がよく伝わってくる。
彼女のここまで大きな声は初めて聞いたから、俺たちまでびっくりだ。
でもそうか、なるほど、VTuberね。
前に清瀬が
どうやら内緒にしていたみたいだが、聞いてしまった以上は言わせてもらおう。
「へー、VTuberか。いいじゃん」
「うん、霞野って声キレーだし絶対向いてるって」
俺と赤穂の言葉に、霞野はポカーンとしながら聞き返してくる。
「え……ほ、ほんとに?」
「ほんとだって、絶対チャンネル登録して配信見に行くよ」
「え、いや、そんな……そこまでしなくても」
なんで遠慮するんだ?
不思議に思っていると、赤穂が呆れた様子で教えてくれた。
「あきらめろ霞野。こいつマジだから。実際おれのチャンネルも登録して、頻繁に見に来るし……」
「なんだよその迷惑みたいな言い方……え、実は迷惑?」
「そうじゃないけど……普通にハズいじゃん?」
「は、恥ずかしいのか?」
「当たり前だろ、クラスの奴が自分の配信見てるとか」
へぇ、そういうもんなんだ。
配信したことないし、するつもりもないので、いまいちその感覚がわからない。
あ、じゃあ霞野のリアクションは遠慮じゃなくて、拒否ってこと?
「ご、ごめん霞野……嫌なら見に行かないから……」
「う、ううん、大丈夫だよ! 確かに恥ずかしいけど、うれしいのも本当だから!」
霞野は顔の前で両手をブンブン振って、全力で否定してくれる。
「それになによりも、すごくありがたいと思うよ? 赤穂くんだって、苫谷くんに感謝してるよね?」
「……ま、まあ? 数少ない視聴者だし?」
だから俺の背中でモゾモゾするな、気持ち悪いから。
「ていうか、おれも疑問だったんだけどさぁ、なんでそんな律儀におれの配信見に来てくれるの? ぶっちゃけつまんなくね?」
ストレートにたずねてくる赤穂に、俺も同じものを返球する。
「ああ、つまんねーな。けど、それが役立ってるんだ。ほぼゲームの垂れ流しだから勉強とかのBGMに丁度いいし、寝る前にベッドの中で見ればすぐ眠りにつけるし」
「つまんねー配信で悪かったなこの野郎」
背負われていることをいいことに、後ろから首を絞めて来やがった。
そんな男子たちのじゃれ合いに微笑みつつ、清瀬は霞野にも笑いかける。
「ね? 応援してくれたでしょ?」
「う、うん……けど、いきなりはひどいよ! 心の準備ってものがぁ」
「あはは、ごめんね。でも私以外にも応援してくれる人がいれば、やる気になるかなって」
「それは……そうかもだけど」
自分のためを思った行動だから怒るに怒れないといった感じだろうか。
霞野は渋々肯定して、続ける。
「苫谷くんも、赤穂くんも、ありがとう。わたし、ちょっと前向きに考えてみるね」
そう言う霞野の表情はどこか晴れやかだ。
自然とこちらもうれしくなってしまう。
「ああ、がんばれ」
「同業者だから色々とアドバイスするぞ? 相談とかも乗るし」
「登録者2桁の底辺配信者が調子乗るな」
「うぐっ!? な、なら、コラボ配信とかは……?」
「気がはえーだろさすがに……」
俺と赤穂の軽口にクスクスと笑う霞野。
ふと、その笑みが隣を歩く友人に向いた。
「でも、やっぱり七南ちゃんの言う通りだね?」
「え? 私なんか言ったっけ?」
「うん、七南ちゃん、苫谷くんのことをずっと――」
「わー!? 待って羽奏ちゃん! それはダメ!」
清瀬は大慌てで霞野の口を必死に塞ごうとする。
自分の名前が聞こえてきたから、聞かないわけにはいかない。
「俺がなんだって?」
「な、なんでもないから!」
声でっか……そこまで隠したがることとは一体?
その答えは清瀬の拘束からヌルッと抜け出した霞野が教えてくれた。
「苫谷くんはすっごく優しいし、本当に良い人だから、絶対相談した方が良いってずっと言ってたの」
「は、羽奏ちゃん!?」
絶叫する清瀬。
霞野はそんな友人に「お返しだよ」といたずらっぽく笑いかけた。
意外と霞野ってお茶目なところあるんだなぁと思っていると、ばっちり清瀬と目が合う。
「あ、その……えっと……」
清瀬は顔を真っ赤にして、隠れるように霞野に抱き着いた。
可愛らしいその姿に、つい頬が緩んでしまう。
「あー……ありがとう、でいいのか?」
「……知らない!」
お礼を言うと、プイっとそっぽを向かれてしまった。
照れる姿は男心にグッと来るものがる。
けど、そうだったんだ……
まさか清瀬が俺のことをそんな風に評価しているなんて思いもしなかった。
気恥ずかしいが、素直にうれしい。
――だからこそ、胸が痛かった。
俺が優しいなんて、俺が良い人なんて、そんなことあり得ないのに。
過去に彼女を傷つけて、謝罪すらせず、しまいにはそれをなかったことにしようとする最低な奴だ。
清瀬の信頼を裏切っている。
その事実が、俺の胸をえぐってドロドロした何かを腹の底に溜める。
「……なあ、苫谷」
「ん? どうした?」
背後の友人に呼びかけられ、我に返った。
赤穂は少し言葉を選ぶように息を呑んでから言う。
「……けっこう回復したから、あとは自分で歩くよ」
「そっか、ありがとな」
「いや、礼を言うのはこっちだって……」
確かに。
でも本当にありがたかった。
自分のそれを抱えるのに精いっぱいで、誰かを背負う余裕がなくなりそうだったから。
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