欲望注射 ~美貌も才能も金も手に入る、ただし72時間後にあなたは人間をやめる~

ソコニ

第1話 顔面を溶かされた女



深夜二時。


「次の方、どうぞ」


診療所のドアが開く。入ってきたのは、顔面を溶かされた女。


「硫酸かけられたんです。元カレに」


黒江クロエは舌なめずりした。


「欲望指数95点。最高ね」


銀の注射器を取り出す。中の液体が、生き物のように脈打っている。


「これで、あなたは『誰もが欲しがる顔』になれる」


針が刺さった瞬間、女の顔面が沸騰したように泡立った。肉が再生し、骨格が変形し、まるで彫刻家が粘土をこねるように顔が作り変えられていく。


「ひぃっ…!」


激痛に悶える女。だが鏡を見た瞬間、息を呑んだ。


完璧だった。女優も、モデルも、誰も到達できない美貌。


「ありがとう…ありがとう…!」




**72時間後。**


合コンで、男たちが美咲に群がった。


「君、モデル?」「連絡先教えて!」「今夜空いてる?」


美咲が微笑んだ瞬間――


ベリッ。


頬の皮膚が、剥がれた。


「え?」


男たちが凍りつく。美咲の顔面から、次々と皮膚が剥離していく。その下から現れたのは――


無数の男たちの顔だった。


額には元カレの目。右頬には上司の鼻。左頬には父親の口。あごには見知らぬ男の皮膚。


「誰もが欲しがる顔」――それは文字通り、すべての男の顔のパーツを寄せ集めた、究極のキメラだった。


「いやああああああ!」


美咲は自分の顔を引き裂こうとする。だが顔のパーツたちが、それぞれ違う表情で笑い始めた。


「君が欲しい」「愛してる」「俺のものだ」「逃がさない」


無数の男の声が、美咲の顔から響く。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る